89話 揺らぎ
「コムズ、野営するのはいいとして休憩の野営?それとも工程的な野営?見た感じ辺りは野営地には見えないけど。」
「日華ルートなら一旦ここで休憩込みの野営だな。今ならまだ日が高いから誰かが村へ買い出しに行っても大丈夫だろうし、忙しい稀人さん達はこまめな休憩もいるだろ?進むんなら先に言ってくれ。昼飯だけ食うからよ。ただ、進むんならさっきも言ったが村に泊まるか強行軍で夜も馬車を走らせる事になる。」
「ふむ・・・。」
貰った地図を見ると確かにこの先に名もなき村があり、その先の野営地推奨地点はちょっと遠い。ただ日華ルートで2日縛りだともう少し進んでおきたい。ただ目算で日に3時間と考えたけど、もう少し長いのかな?
幼体を檻から出すのも初めてなら、その幼体が同反応を示すかも分からない。う〜ん・・・、攻略サイト見れば何かしらの情報はあるかもしれないけど、それをすると楽しさは半減以下になるんだよなぁ〜。
全く同じ状況で同じテキストが流れてくることは基本的にない。だから、攻略サイトも武器のステータスやらスキル、どの武器でどのモーションが貰えるなんかは合ったとしても、シナリオ的な攻略は雑談みたいになっている。仮に全く同じテキストとイベントがあるとすれば、それはメインシナリオとか?流石に選択肢や分岐はあるものの終着地点は同じだしね。
「幼体はどこに泊まりたい?」
「野宿!村に入っても窮屈で閉じ込められた状態で寂しく寝なければならない!誰がそんな事を好き好む?そんな事も分からないのか!」
「はいはい、ちょっと落ち着こうね〜。妖精王は野宿OK?今村の宿って言う選択肢が消えかけてるけど。」
「我は妖精ぞ?人の街より森や木々のある自然を好む。その点、契約者の領地は変に手が入ってなくていい。」
はい・・・、いい風に言ってるけど改造もせずに初期のまま運営しております・・・。まぁ、元々の景観的に畑と大樹と家しかなかったから、それを初期エディットで和風の庵を選択しただけなんだよなぁ〜。まぁ、それから3年で色々機能は追加されてるけどさ。
「コムズは村でも野宿でもいいとして・・・。おろ・・・。」
「そりゃぁあんまりだぜ姐さん。」
「だって馬車で寝るから関係ないでしょう?私達の場合簡易テントやら使うからお金かかるだよ。と、ここでは一旦食事込の休憩にしようか。」
「分かった、出発の時は声をかけてくれ。くれぐれも帰って来ないなんて事はなしにしてくれよ?」
「あいあい。ては休憩中だからちょっとお花を摘みに・・・。」
一応魔物避けとか虫除けを使ってログアウト。桃やらの件を敷田さんに話さないとな。目算で手に入るのは3日後とか?今無理矢理栽培しても失敗すれば収穫出来ませんでしたの表示で終わってしまうし、そうなると更に領地運営は困窮する。
そんな面倒があるから領地防衛戦の好き嫌いも出てくるし、参加賞狙いだけとか個人参戦で暴れるだけ暴れて後は放置なんて人も出てくるのよねぇ。まっ!ゲームでなんの義務もないんだから仕方ないか。
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イベントに関わるNPCに対して管理AIより打診。現状の認識共有。なお、背景とした場合に休憩を装うため質疑応答形式。
コムズ:幼体輸送イベント、進捗率25%
幼体:状態は安定。檻からの解放により
一部襲撃イベントをキャンセル
コムズ:キャンセルを確認。今後のイベントを再設定
幼体:再設定を確認。プレーヤー:ツキによるルート
再設定が発生した場合は、難易度上昇
コムズ:上昇内容を確認・・・。
契約者が席を外し残された我々は静かに座る。他の稀人から見れば風景の一部で、我々が襲われようと誰も気付かない。唯一気付けるのはこのイベントを進めている契約者のみ。それは我々が襲われていると宣言すればいいだけで、どこからともなくモンスターは現れ我々は我々だけで契約者が来るまで持ちこたえさえすればいい。
最悪を考えるならコムズが言う様に帰って来ない事だろう。しかし、それは仕方のない事だ。稀人とはそもそもこの世界の住人ではない。他界から来訪してこの世界の肉体を借り、我々に協力的でありつつ争乱と戦を好む。
先の戦だってそうだ。強者と思えば挑む者、友としてあるのにその首を狙う者。一時の勝利を目指し戦いに赴く者。自身の能力を試す為に智謀を巡らせる者。その戦いの果になにか得られる物があるのか?それは下賜される武具や金塊で、それの為になら稀人は自死さえ勘定に入れて動く。
稀人とは何度でも蘇る。契約者がそうで在る様に稀人はいくら倒してもいなくはならない。それは我が邪悪なる妖精王と呼ばれ幾度となく稀人を屠り、我自身も手傷を負わされ癒される間にも攻めてくる様に。
そんな稀人の本当の死とは帰還しない事だろう。骨さえ残らずふとした瞬間からこの世界との関わりを断つ。理由は分からない。分からないが稀人が減れば減るほどこの世界は滅びへ近付く。
コムズ:ツキ支援ユニット
メインコア装備個体:邪悪なる妖精王
幼体解放理由
邪悪なる妖精王:・・・、新たなる分岐の開拓
幼体:リスクマネジメントとして
本行動はプレーヤーに一任するべきである
コムズ:賛同。
メインコア使用ユニットが他ユニットより
経験を経てプレーヤー寄りになるのは
理解しています。しかし、プレーヤーの
選択肢は可能な限り奪わないで下さい
どこか無機質な会話・・・。そもそも我は稀人とは話てもこの世界の真の住人とは話した事がない。しかし、仮初の肉体を持つ稀人よりもこの世界の住人は余程無機質ではないの・・・、か?
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『桃の調達はもう少し時間が掛かりそうですよ〜。』
『あ〜、イベントで全部使っちゃいました?』
『ええ。栽培しようと思ったら倉庫も空でして。どうしてもと言うなら買い付けますよ?』
『いえいえ、マリちゃん産の桃からにしましょう。同じデータですけど、成り立ちが違うと出ない可能性もありますから。』
『分かりました。ならぼちぼちイベント進めておきますね。』
一旦ログアウトして敷田さんにメッセージを飛ばす。結果は自家栽培推奨らしい。とりあえず自分で肥料やら種や苗を集めれば自家栽培でいいかな?残念な事に拾ったりドロップしたりする以外の集める方法と言えば買うしかない。でも、前の桃は肥料とか買ってたような・・・。
なんにしてもそこまで集めるのが大変な物でもいいかな。割とコブリンやらを倒して素材も集まってるし。大麻でぶった斬りつつ採取も交えてるから結構な量産もドロップしている。ただ、採取で倒してレアドロしたら1個しか手に入らないとか、今じゃないと叫びたくなるな。
「それで、なんで華澄がここに?」
「座敷童子を回収するために来たのよ?」
「来たのよも何もちょっと前から座ってりんご剥いてたじゃん。ここに大先生はいないよ?敷田さんが持って行ったし。」
ノックがあったかと思ったらヌルっと華澄は入って来て、そのまま座ってりんごの皮むき出したんだよなぁ。ちょうど野営するとか言ってた頃だから変な声が入ったかも。それはいいとして、いつもと言うか見慣れた黒いスーツで来てるし大先生を連れて行くのは確定なんだろうな。
「知ってるわよ。敷田さんの所にいるのを確認したから真利を見に来たの。体はどう?」
「どうと言われても尻尾と耳がピコが動くとか?そう言えば敷田さんと体力測定と言うか体動かすのはやったなぁ〜。」
「・・・。後でデータは貰うとして、ジャージよね?」
「いや、なんかブルマと体操服渡された。どのみち尻尾があるから普通の服はあんまり着れないんだよねぇ。」
苦肉の策として買ったジーンズのお尻の部分をUの字に切ってみたりもした。腰回りはベルトで締めればいいかと思ったけど、思ったよりも左右に広がって断念。ただ、腰部分を残せば履けない事もないと再度チャレンジをしてみる所存である。
でも毎度三枝先生の所に荷物は届くし、宛名はマリー・ガンディー宛なので看護師達からのこの部屋への疑惑は深まっていると思う。一度白衣着て病院を歩いたし、病院内なら大丈夫とかにならないかな?
白衣着て狐耳とボリューミーな尻尾を付けた金髪碧眼ロリィな狐娘・・・、明らかに浮いている。浮いているけどそれは変えようもない事実だから躊躇っても始まらないんだよなぁ〜。
「極秘資料として私の脳内メモリーにそのデータは補完するとして、真利は一度私達の職場に来ない?色々と話を聞きたい人もいるのだけれど。」
「それは俺じゃなくて先生達に言ってよ。現状を言うなら被験体として先生達に協力するのが優先。だから先生達がOKすれば行かないこともないけど・・・、驚かれない?」
「真利の事は木本さん含め、私の職場ではある程度情報共有されてるから大丈夫よ?それに桃とかカボチャもその手の人達に見てもらいたいし。」
「あ〜、その作物は今品切れ。なに?野菜食べて健康になろうキャンペーンとかしてるの?」
「違うわよ。座敷童子の事を考えると・・・。」
「知ってるよ。姿のない妖怪が肉体持てるかもって話だよね?大先生もそんな事言ってたし。でも、ポンポン出すのも危なそうだし、あんまりだしたくはないかなぁ・・・。」
流石に大先生の事もあるし安易に食べ物やらを出すのはダメ。と、言うか未知数な部分が多すぎて何が何に繋がるか分からない。それこそ今大麻を振ってサンダーバレット撃てばブレーカーが落ちるかも知れないしねぇ。
「出さないのはいいけど品切れ?どう言う事なの?」
「どうもゲーム内で所有してないと桃は出ないっぽいんだよ。前にもそんな話はしたけど、イベント終わって栽培してないからまだカラッケツ。華澄もトラブルオンラインやってるから知ってるでしょう?あのゲーム細かい所は結構細かく設定されてるって。」
「私はアバター作って攻略サイトをたまに見るだけよ。イベントなんてやらないし、そもそもツキを探すために始めたんだからゲーム自体にはあんまり興味ない・・・、フレンドになれば毎晩一緒よね?昼休みも会いに来れるし・・・。」
「フレ欄満タンだから無理ダヨー。」
「あのゲーム、フレンドだけで100人くらい登録できたわよね?」
「ソウダヨー。でも満タンダヨー。」
「フレ切り!」
「却下!遊ぶためのフレであって駄弁るためのフレじゃないの。そもそも華澄ならわざわざゲームじゃなくても、ここに来るか電話でもいいじゃない。」
「だって真利は何時もゲームしてるしぃ・・・。」
「ある意味それが今の仕事だしなぁ・・・。」
配信者やったり被験体やったりと、何気にゲームしないと成り立たない部分も多くあるのよねぇ。でもまぁ、愛着が持てるかも分からない新作ゲームに振り回されるよりも、カンストまでして愛着のあるゲームだった分まだマジなのかなぁ・・・。




