88話 旅の途中
歌は創作です
(コムズ、遅いってよ?スピード上げたらどうなる?)
(馬鹿言うなよ!安全速度で走らねぇと爆発するだろ!?)
「早く行け!ボサッとするな!早くいかないと・・・、あー、イライラする!」
「・・・、なら旅を楽しめ。」
「「ちょっ!」」
「・・・、出ていいのか?」
「街じゃないからよかろう。暇なら長く感じるらしいが楽しい時間は早いらしい。それに、我はお前を閉じ込めても仕方ないと思っている。」
わさわさと根を動かし幼体が檻からおっかなびっくり出て来た!やっば!爆発したらどうしよう!?コムズはロストだし始まったばかりとは言え街に逆戻りだし、檻に戻らないと言われたら今度は村にも立ち寄れない!
「よ、幼体さん?よろしければ檻の中とか・・・。」
「は?出ろと言われて出てすぐに戻れだと!?そんな話があるか!村や街ならまだしも嫌だ!イライラする!なんでこんな理不尽なんだ!」
「はい!荷馬車に乗って旅をゆっくり楽しんでいってね!まったりでいいよ!」
「姐さん!それは俺が!」
(諦めろコムズ、今は爆発しない。でも強気に出れば爆発する。だから下手にでろ。)
幼体が入っている檻は何も閉じ込めるためにあるものじゃぁない。爆発範囲をある程度抑制しつつ上へ火力を逃がすための物で、フレーバーテキストを考えると被害を食い止めるためのプレーヤー側に与えられた抑止装置だ。
だから出そうとも思わないし名もなき村が消し飛べば利用する少数のプレーヤーとしても困る。なにせ名もなき村を利用するのはポータル解放出来ていないプレーヤーが多い。次のポータル解放に向けて活動しているプレーヤーにとってフィールド上にある簡易拠点として利用出来る補給点はなくなると困る重要個所だ。
それを消し飛ばせば非難どころか恨まれる。襲撃イベントは神時点の何かが仕掛けたイベントだからプレーヤーも納得出来るかも知れないけど、プレーヤーがやらかして村が廃村になったとあればただではすまない。
具体的に言えば虐殺者とかの称号がつくかも。なにもNPC殺害はNPCだけの専売特許じゃないなよね・・・。発生ベントで悪徳領主の暗殺依頼があったり、騎士達と共に盗賊団を壊滅させろと言うものもある。そもそも町中自体が安地と言うわけでもないしなぁ・・・。
「こ、高貴なお方。幼体のお守りを任せちゃダメか?依頼主として・・・。いや!御者として気が散ると他の積み荷が危ない!だからお守りをしてくれ!」
「我は別に構わんが・・・。ほれ、幼体よ。ここにいても仕方ない。さっさと進むぞ、景色が変わらないのも暇だろう。」
「暇だ!さっさと行くぞ!ほら!もたもたするな!」
幼体はそう言ってコムズの横に座り、座られたコムズは顔色悪く手綱を握る。航空機使えば早いんだけど爆破墜落のリスクから貴族辺りからのGOサインがないとダメになってるんだよな・・・。
(妖精王、流石にあれは危ない。まとめて消し飛ぶ可能性が高いよ。)
(あれは幼体なのだろう?閉じ込めておく方が爆発する。まぁ、それでも嫌な事があれば爆発するかもしれんがな。)
(いやいや、リスク管理として爆発されると困るから檻もあるし、航空機なんかも余程の事がないと乗せない事になってるの!)
よく分からないと言う風に首を傾げてるけど、妖精王はそこまでおバカでもない。う〜ん・・・、完全に目線が違うのかなぁ〜。そもそもこのゲームのテキストって学習AIが考えて生成AIが出力してそれをNPCが話すから本当に考えてるし対話している様に感じられる。
それを考えると大先生が昨日言ってた電気精神体とか言う者と似てるのかな?なんにしても今は幼体が爆発しないかだけ気を付けるか。そんな事を考えつつ出て来たゴブリンやらグリフォンやらを妖精王と共にボコスカ殴って倒す。
割と発見があったとすれば幼体はモンスターにそんなに怯えないとか?コムズの方は冷や汗ダラダラで早く倒せ!と視線を送ってくるけどそれはまぁ、爆発物の真横で戦闘してればそんな視線を送ってくる気持ちも分かる。
ただコッチとしても炎系統の魔法を封印しつつ剣技だけで討伐してるからそこそこ時間もかかるんだよ。範囲攻撃系の剣技やらが無いわけでもないし、基本的にどの武器でも範囲攻撃はあるけど、やっぱり大規模殲滅は魔法の華。
「よっ!はっ!ほっ!」
「器用なものだな。」
「そりゃぁ妖精王と会う前から色々とやってるからね!っと!」
モーションアシストが掛かりオークの棍棒をバク宙で回避し、更に追撃を緊急回避の側転で回避し、それでも殴りかかるオークから後ろに飛び下がって距離を取りつつ、着地と同時に突進しつつ斬りかかり、すれ違ったら振り向きならが胴を薙ぐ。このゲームの難しい部分でスキルとしての動きと、それをコンボとして成立させる動きは切り離されている。
だからモーションが少ないと繋がらないコンボもあるし、自力でコンボを繋げると違和感のある挙動も出てくる。実際今の動きを現実でやろうと結構負荷もかかるし、体操なんてやった事ない俺には多分出来ない。
でも、不思議なもんで脳波で操作してるから体を鍛えればその動きも再現できるんだよなぁ。それこそメジャーリーガーになった人みたいに・・・。現れたモンスターを全滅させて更に歩く。ただ話した事は幼体にも聞こえているわけで・・・。
「ならなにか曲芸でもしてみろ!そんなモンスターを倒すよりもそっちの方がよっぽど面白いぞ!」
「はいはい、なら取り出したるはナイフとポーション。コレでジャグリングはいかが?更に一本下駄で不安定〜。」
ナイフ2本にポーション3つ。それでポイポイお手玉をやって見せる。派生クエストでサーカス潜入しといてよかった。練習と称して木のナイフで練習させられたけど、体も頭も忘れずに結構上手く歩きながらジャグリング出来る。
「姐さん上手いな。なんかやってたのか?稀人ってのは色々依頼を受けて生活してるらしいけどよ。」
「ん?前にサーカス団にいた事はあるよ?このジャグリングと歌で観客を楽しませてた。」
「歌?なら楽器があれば歌え。歌は好きだぞ!」
「はいはい、楽器が手に入ったらね。と、言うか妖精王がなに弾くかで歌えない歌もあるよ?流石にクラシック弾かれて即興で歌えと言われても困る。」
「なら旅人の歌でいいぞ!あの歌は好きだ!」
「妖精王弾ける?」
「古くから1番歌われている歌だ。あれなら弾ける。」
旅人の歌、ぶっちゃげこのゲームの主題歌なんだよなぁ〜。大体歌えやらの派生クエストだとこの歌が指定される。著作権とか怖いし、童謡やら著作権切れの歌なんかでもOKらしいけどその辺りは運営からの無言の圧力と言うか大人の配慮だろう。
「今は歌えないのか?楽器がないと歌えないのか?この音痴め!」
「なにを!私は音痴じゃない!コレでもカラオケは得意なんだぞ!?」
「姐さんどうどう。幼体ちゃん?俺は音痴だから歌えないからな?子供もいないから子守歌とかも歌えねぇからな。」
「お前に期待などしていない!男がオドオドするな!あ〜!イライラする!それにちゃん付けするな!」
「ひっ!」
「ほらほら、コムズも胸張って。アカペラで歌うから。うぅん、それでは・・・。」
淡い光に そっと触れた
静かな月が揺れている
名前もまだないこの世界で
私は息をしていた
遠い誰かの願いが
風もない空を震わせる
選ばなければ消えていく
小さな灯りのように
借り物の力でもいい
この鼓動は嘘じゃない
迷いながらでも進むこと
それがきっと答えになる・・・。
Bメロまでがマスト。それを越えるとちょっとテイストが変わってくる。多分かぐやとかを意識して近未来感とかイベントモンスターを意識した歌詞になってくるから。それでもここまではすごくいい歌詞だと思うんだよね。何気にカラオケにも配信されてる曲だし。
「おぉ!コレはいい!だがダメだ!アカペラでは喜びが足りない!」
「やはり楽器がいるな。」
「分かってるけど楽器もなけりゃあ、ハンマーもないでしょ!?フロムさんがいれば笛ハンマーとかあるけど、ないならアカペラ!それとも誰か楽器持ってる?ないなら幼体も含めて黙る。」
「あ〜・・・、俺から言うのもおかしいけどよ。そろそろ野営地だ。これ以上進むなら村に泊まることになるが行くか?」
多分コレが時間縛りの分岐点。でもどうするかなぁ〜。下手に野営するとモンスター襲撃やらもある。運営は悪い文明!確率は低い!でもね、それがあり得ると判断するならやるんだよ!だから虫除けも魔獣避けも買ったんだしね。
「野営する。妖精王、魔獣避けとか使えるよね?」
「必要ない。魔獣も恐れる幼体がいるのだ。余程の馬鹿か神の意思がなければ起こらん。」




