79話 命の使い道
「さて、ワシ達も出るか篝火。」
「そうですね、定刻と言っていいでしょう。秋ドンさん、領地の守りが薄くなりますけど大丈夫ですか?」
「ええわけないけど、今でらんと確実に飲まれるやん。上はウチ等含めて他領地からも飛行ユニットが上がった。そんで爆撃阻止を目標としてある程度統制されとる。せやけど地上はそうはいかん。どんどん指揮官もユニットも集結して密度が増しとる・・・。まぁ、狙い通りやな。」
そう、狙い通りや。ギリギリ中規模領地のウチ等がここん居座って突撃がましてライン作ったり、余力残せる様に調整するんはほんま骨やわ。けど、それをやった甲斐はあった。
空はツキさんがLIVE配信しつつエースとタイマンして空戦でもいきなり落とされんかもと思わせる材料撒いた。そんで爆撃機の話と対空攻撃の話を振って相手がどこまで理解しとるかも見せた。別に誰も彼もが配信見とるわけやない。わけやないけど、トラブルオンラインの配信見に来るんなんてプレーヤーやろ?
なら情報は回るしアールさんがビーム砲の正確な射程やらを知っとると断言したからには、今すぐウチ等を潰すわけにもいかんくなる。ギリギリ中規模なら盾にして全部資源吐き出させて、なんなら爆撃機落としてもろた方が温存出来る他領地は有利になるさかいな。
しっかしツキさんはおもろいな。LIVE配信開始ん時にド派手にビーム砲撃ったろか?って言うたら『えっ?むしろ無音がいいんですけど?ただ飛んでる姿見せるだけとか。』営業とかやってたらしいから詳しく聞けば、30秒から1分後くらい黙れば何事かと興味を引く、引いて考え出したと思ったら話す。それが大勢に話を聞かせるコツらしい。
事実LIVE配信始まって無言の感に人は集まって勝手に憶測飛ばして、領地戦の話やら戦況を勝手に話しとった。そっからは更に注目引いて有名エースのアールさんが逃げられん状況作って持久戦やりおる。
『本当に契約や交渉をするなら相手が全部話してから提案する方が、かなりの確立で通りやすいんですけど今回は話したら遮ってあえて言わせない風にしますよ。そこがターニングポイントですね。』
『ターニングポイントはええけど、契約欲しいならアピールせないかんのやないの?』
『アピールは後ですよ後。変人揃いの所に物を売りに行くなら、そうでなくとも先に相手が話しだしたら静に聞いて相槌をうつ。反論やら興味を示したらダメですよ?あくまで相槌だけ。そしたら10分も話さずに黙りますからね。その瞬間に口を開いて売り物をアピールする。ただそれだけで相手は満足感から甘くなる。』
実際こん人と知り合った時もそんな感じやったなぁ。素材トレード持ちかけてウチがずっと喋ってツキさんが相槌打って、そんでよう喋ったと思って一瞬黙った時にコレとコレ付けて?ちょっとサービスしてコレ付けるから。って言い出してついついええよって言うた。後から考えれば若干だけツキさんの方が条件よかったけど、まぁ喋った駄賃って納得感もある。
「領地の維持、頼んだぞ?」
「そっちこそ頼んますよってに。サクラさんが死んだんは想定外やったけど、妖精王はんの生き返り分のリソースをそっちに回してもええと言われたし、ないやろうけど誰も死なんかったらそれもリソースとして使えるさかい、ウチから言えるんは死ぬな、以上や。」
「人使いの荒い盟主じゃの。」
ただ篝火に参謀やらせて貰って、意見も作戦も色々と取り入れてもらった恩義もある。クローズゲームが好きで引っ込み思案、だがこうして話せる相手と活躍の場があればそれも多少は改善する。現に篝火はユニットの整備とツキさんの演説と言うか全体情報共有に賛辞を送って奮起しようとしている。
なら私としてもここで面倒だからと投げ出すわけにもいかない。同じメンバーで領地防衛戦をするにしても同じ状況は訪れず、次なやったら初日で全損と言う事もあり得る。だから今この時を大切にして勝ちに行く。
「篝火、準備は?」
「出られます!」
「よし、なら笑いながら引き連れていくぞ!」
「ええ。笑わないと誰も付いてきませんからね。」
引き連れていくのはゴーレムと歩兵ユニット300。領地に残るユニットはゴーレム合わせて残り300。それが領地防衛の要であり秋ドンさんと僕達がやりくりして決戦時に最終投入するリソース。優秀な指揮官が侵入しても2回程度ならユニットだけで対処出来て指揮にも補給にもギリギリ耐えられる・・・、らしい。仮に僕1人ならコレだけのユニットを操作したとしてもすぐに首を取られるだろう。
でもツキさんから参謀どう?と持ちかけられて正直嬉しかった。うん。AIとクローズドした詰将棋の様なSLGをするのも楽しいけど、こうして本当に動くプレーヤーや不意をついてくるユニットとVRで戦うのは楽しいし、何よりちゃんと会話して考えてる感じがある。
こうしてフロムさんと共に激戦区に出陣して、地上をまとめられなければすべて水の泡になる様なリセットなんてない状況だけど不思議と笑顔が漏れる。僕は主役じゃないでも、ツキさんもフロムさんもサクラや他のプレーヤーも主役じゃない。主役じゃないけどこの場にいてみんな考えながら戦ってる。だからこうして僕達の領地はギリギリの上にまだ存在出来ている。
「なんかで出来だぞ!」
領地からユニットを従え隊列を組み、指示するまでもなくあえて響かせる行進音は不思議と無秩序な激戦区でもよく響く。それだけの数の何かがそこに現れたから、それだけの数のPTとなり得るモノがある投入されたから、勝つと決めて走るならPTが動く音には敏感になる。
「PT放出か?なんか爆撃とか話もあるが・・・、ユニット攻めろ!」
「あの領地空じゃね?停止に追い込むか?」
「いや、追い込んだらそのままバルサミコス来るぞ?一旦残して今はユニットとプレーヤーを・・・。」
「盟主!なんか情報ないか?この辺りが激戦区なのは分かるけど、本当に爆撃機は来てるのか!?ウチの飛行ユニットは?」
『爆撃機は来てるけどウチの飛行ユニットは殆ど堕ちたし、守りがあるから増援出せない!ん?配信?ちょっと待て・・・。』
「なんかこの辺り配信されてるっぽいぞ?」
「配信者どこよ?」
「空!ツキって人!バルサミコスのアールとドックファイトしてる!所属領地名は・・・、秋ドンとエンジョイプレーヤーズ?眼の前じゃねぇーか!」
「は?えっ?ここであそこ叩いたりしたら爆撃されるの?」
「どうでもいい!眼の前のドワーフPTに・・・!!」
混乱する中で飛びかかってきまプレーヤーをフロムさんがどっしりとした構えからハンマーで一撃!盛大にダメージ音を上げながら吹き飛ぶプレーヤーに接近して僕もほんの僅かばかり雀切りで追撃を入れてPTをゲットする。カンストプレーヤーは無敵でもなければモンスターにも負けたりするし、本人に合わせたそれぞれのビルドでステータスも変わり、一度決めた体型や割り振ったPTは新たに追加は出来ても再割り振りは出来ない。
それでもカンストプレーヤーが強いと言われるのは、誰よりもこのゲームを楽しんで続けているからだと思う。うん、数多くのモーションにスキルに戦略にPVP。それを経てようやくカンストと言うレベルに到達出来る。だから・・・。
「聞け!小童ども!ワシ等は今からバルサミコスに突撃する!大規模領地?ワシ達の方がまだ多い!爆撃機?今上で他の領地の指揮官や飛行ユニットが延滞させとる!ただただ空白の戦場で共食いせずに・・・、有名ってだけで怖がられて自分から喧嘩振っけける様な領地を、バルサミコス帝国を今から喰いに行こうや!!!」
「フォロ・ミー!!!!フォロ・ミー!!!!僕後ろを付いてきてぇーー!!!!!」
それが僕の叫び!ユニットの指揮権の大半を握り、走り出しながら先行させたゴーレム達との合流を目指す。そう、ゴーレムは頑丈だけど動きが遅い。だからゴーレムはフロムさんが預かり殿になってもらう。こうすれば遅れていても誰も気にしない。ゴーレムを指揮して歩調を合わせているだけだから。
こうすれ領地最大の危機を最大限軽く出来る。群れから逸れた小魚が眼の前の餌に食いついても、それを逆にげ釣り上げる様に。多分今の僕の脳はドーパミンとかアドレナリンがどっぱどぱ出てるんじゃないかな?
『サクラさん大丈夫ですか?かなり厳しいと思いますけど、僕達は無事にバルサミコスに突撃してます!』
『しんどい!かなりしんどい!!』
空戦ってね!地面がないの!!急上昇したらエレベーターが上へ行く、急降下したらエレベーターが下がる、急旋回したら視界が狭まって車がカーブしてる感覚が常に脳に送られてくるの!VRだから本当に錯覚してぐわんぐわん、ぐにゃんぐにゃん・・・。
「サクラ、1機撃墜。フフフ・・・。」
「笑っている場合なのか?」
「王様、勝ったら笑うのが勝者の嗜み。ってあっぶな!」
ツキさんがエースを抑えて私と妖精王で随伴機とプレーヤーを抑えてつつ爆撃機破壊と言う高等ミッション!他のプレーヤーも上がってきてるけど秋ドンさんの嘘つき!ちゃんと聞いたよ!
Q.エース以外は弱いですか?
A.一番強いからエースなんやで。なら、それ以外はザコやん?
それがこのザマだよ!ザコってなんだよ!撃墜したけどかなり損耗もしてる!走って切ってまた走ってバフ盛ってとはわけががぁう!ヘソクリの浮きキュウリで一時的にバフ付けて速度上げて振り切ったりしてるけど、そんなにヘソクリもない。
流石に爆撃機をそろそろ落としたい。睨みあいで引き伸ばしてもいいって言うけど、篝火さんが突撃したならもう落とさないと不味い!どうにかしてミサイル装備飛行ユニットを先行させて篝火さん達がキルゾーンに入る前に排除したい!
「王様、なにか案ない!?こなままじゃダメなの!落とさないと地上がヤバい!ついでに飛行ユニットもヤバい!お弁当そろそろなくなる!」
「どうにか?・・・、一旦引く。そして高度を変えて攻撃する。現在は最高度で渡り合っているが、爆撃機の下に入り込めれば相討ち覚悟となるがかなり破壊出来る。」
「かなり?全部じゃなくて?」
「かなりだろう。気付かれれば爆撃が開始される。そうなればミサイル着弾前に爆雷と激突し効果は弱まる。」
「あ〜・・・、妖精王って今以上に上へ行けないよね?」
「無理だな。太陽に入り爆撃機へ対してミサイルを打ち下ろす。その為に最高度まで来た。故にここが最高の空で上はない。ただ上が賑やかになれば下はそれを察知して状況も変わる。契約者も先程から叫び続けているし、仕切り直しを判断させるならここだろう。」
「そうかぁ・・・。」
「PTよこせ!!」
「ちっ!散開!王様案採用!ツキさんにも連絡入れて!上は・・・、私が残る!!」
「了解した。契約者よ、一度引いてミサイル装備飛行ユニットと爆撃機の下に入る。」
『マジで?わかった!どうにか当たりをつける!』
戦況は一気に動いてアールさんの貼付けは成功!燃料は既に弁当を使って補給して残り1つ!ヘソクリ無しだから後どれくらい飛べる?一応、ポジションニングとしてはアールさんと飛びながらウチの領地寄りにジワジワと引きよせてはいる。ここが中から低高度だから領地寄りに飛んで、撃たないけど一応ビーム砲の威嚇も通用した。
したけど妖精王達が下がってくるなら不味い。落とされればそのまま眼の前のミサイル装備ユニットが落とされるか、さもなくばミサイルを使わせるだけ使わせて更に資源消費も重ねてくる。
「はっはっはっ!そろそろ限界だろう?1時間近く車椅子をフル稼働させて使う者は少ない!それが日常である私とツキさんの差だ!」
「それを可哀想だと思えと?馬鹿言っちゃいけない、毎日歩き回って靴底減らしまくってすぐ買い替える人だっているんだよ!タイヤが減るか靴底が減るか、同じ足なら筋肉使ってる足の方が痛い!」
怒られるだろうけどねぇ!座ってる人と立ってる人、歩いてる人と乗り物に乗ってる人、どっちが楽に見えるかと言えば断然座って乗り物に乗る人!確かに不便さはあるしそれが日常なら辛い時もあるんだろうけど、場面場面で見れば隣の芝も青く見える。
そもそも今時の車椅子って値段にもよるけど、サブアーム付きとかだとベッドに運んでくれたりとかもするのよ?それにVRMMOでは一切関係なくおんなじ土俵で戦ってる。なら、可哀想なんて言葉は出なくなる。
「そんなもんはしらん!」
「なら私だってしらん!」
>> お互い仲が悪い!
>> 実はフレらしいぞ?この2人
>> そう考えると悪友とか?
>> 悪友はいいとしてよく頭保つな
効果薄くして見てるけど、本気プレーだとヤバそう
>> 実際面白いけどヤバいぞ?
終わってもこう・・・、ずっと浮遊感がある
>> しっかしずっと空戦ばかり?
たまに返事返してくれるからいいけどさ
>> イェーイ!ツキちゃん見てる〜?
コレから領地攻めに行くわ
>> プレーヤーかよ!
>> ツキちゃんファンもいるとして
メイン層はプレーヤーかやった事ある人だろ?
色々とコメントは飛んでくるけど領地攻めに行くか。どこがどこをとは言わないけど、バルサミコス帝国攻略に乗り出した所だと嬉しいな。そうなって来るとここに早く蹴りをつけるしかない。さてどうする?機能としてはこの場は終わってる。残るのはミサイル装備ユニットの防衛でアールさんの気を引く事だけ。う〜ん・・・、安価やってみる?
ツキ>> 絶対じゃない安価やるよ〜!!
アールさん惹きつけたいけど何して欲しい?
>> 安価?
ツキ>> ちょっぱやね?
>> パンツ見せる!
>> ちょっと脱ぐ!
>> あえてキスしに行く!
ツキ>> あっ!それ採用!
>> ・・・、はぁ?
>> この配信者頭大丈夫か!?
>> 飛びながら何する気だよ!
『秋ドンさん、ちょっと死んでくる!』
『死の口づけとか詩的やん?ってバカ。ガチで何する気なん?』
『勝負に負けて盤面で勝つかな?じゃ、復活よろ〜、ゆっくりしなくていいよ、すぐでいいからね!』
ユニット性能的に言えば速度は負けている。直線だと更に顕著で後ろから追われれば追い付くギリギリまである。だからコレがやれる!むしろ、コレが1番美味しい!なにせ成功すれば確実にアールさんを落とせる!
背後を取られまくって節約しつつも牽制で撃ったバルカン砲は数しれず。燃料も少なく一騎打ち連呼で一時広がった空間もフロムさん達の出陣で、新たに上がってきた飛行ユニットが増えつつある。実際さっきから横槍も入りだして、そちらを落とすのにも弾を吐き出したしねぇ。
「どうしたのかね?無言は降参したとして落とすよ?」
「いや?アールさんそろそろ締めようや!」
>> えっ?安価実行?
「ほう?反転・・・、いいだろ・・・、はぁ?なんで通り過ぎるのでアールか!!真正面からの撃ち合いだろう!まて!と、言うか安価?」
「ほら!真後ろならパンツ見えるかも知れませんよ!美少女のパンツ!」
「尻尾しか見えんわ!」
>> アール変われ!俺は見たい!
>> ケモナーとして見る権利がある
>> アール追え!多分キスしてくれるぞ!
「私の貞操が守られた!」
そうは言いつつ貞操より先に純血が散りそうである。バルカン砲乱射しつつついてくるけど、もうちょい!妖精王は下がりだしてるし、ギリギリのタイミングに調整しないとすべてが壊れる!でも、まだ落とされるわけには・・・。
チラリと振り返る。それでいい。そうすれば有視界戦闘なら動きが分かる。そして、それを見たアールさんは必ず引き金を引く。だからこそキスするタイミングも射線によりユニットが真後ろにいるのも見えてくる!
>> 集中切れた?振り返ったらダメやん
>> そりゃぁこれだけ空戦すればね・・・
>> むしろよく飛行ユニット保たせたな
「そこ!落とすよ!」
「最大減速!ユニット廃棄!ほら、手の甲にキスしてよ!」
「は・・・、ぶふぇ!」
飛行ユニットから飛行ユニットへ飛び移れる。そう、アールさんから逃げる時自分達の飛行ユニットへ飛び移った様に。最大速度からの急減速、本来ならG表現で視界は狭く感覚も悪い。でもユニットがそもそもなければ堕ちる感覚はあってもG表現はない。そしてギリギリまで来たアールさんに渾身の虎拳・・・、バルカン砲で体は撃ち抜かれてHPはほぼない。
ほぼないから0じゃない。ゲーム中でも乗り物で移動し、現実でも車椅子なアールさん。そんなアールさん最大の弱点は顔ではなく首への攻撃!なにせ他の人よりも身長が低くなる分わざわざしゃがんで首を狙うよりも頭を狙う方が早い。そして、アールさん本人もそれは理解している。
とっさに顔を隠した様だけどそれは鼻辺りで口は守られていない。おかしな声が漏れアールさんの飛行ユニットはどんどん高度を落としていく。だって飛行ユニットは1人乗りで2人乗れば体型かかわらず重さに耐えられないから。飛び降りて地面を転がるかとも思ったけど、下に入る既に出陣してバルサミコスへ向かうプレーヤーやユニットが見える。うん、このまま墜落死だな。
ツキ>> 安価成功!
>> クソ痛そうなキス・・・
>> 手の甲にキスさせに行く人初めて見た(笑)
>> あのタイミングで回避は流石に出来ないか
>> 空戦とは?空戦とはなんだ!
>> 空で戦うから空戦だろ?




