66話 2日目開始
華澄達は帰りアドレスの中には木本さんの連絡先がある。特別じゃなくて普通でいいんだけど、姿にしても普通を中々周りが許してくれない。
「特に気にしなくていいと思いますよ?様々な方がマリちゃんの元へ来るかも知れませんが、それに対してマリちゃんがどうしようもない事は多くあります。私だってこうして医者として調べていますが、外的要因も多くありますから。」
「それはやっぱり妖怪の事ですか?」
「ええ。私としてもどこまで関わっていいのかは考えあぐねます。近くて遠く、人とは似ていても違う人々。私だってどう関わって接していくかはかなり考えました。」
「先生はどう付き合うって決めたんですか?」
「その答えは私の答えであってマリの答えではないですよ。これから色々な妖怪や人と出会って、その中で答えを見つけるといいでね。なにも急ぐ事はありません。」
先生は優しく言うけど、急がない変わりに更に問題が増えたりしないのかな?でも今の所妖怪って悪さをする様な人(?)じゃないみたいだし、積極的に関わらない限りは大丈夫なのかな?
なんにしても知らない事の方が多いし座敷童子大先生には色々教えてもらおう。多分、華澄や木本さんに教えてもらうと妖怪の事じゃなくて人から見た妖怪の事を教えてもらうばかりになりそうだし。
「分かりました。難しく考えるのは後でも出来ますし、今の所は出来る事をコツコツやっていきます。差し当たってまともに外に出れる様になるとか、お酒を飲める様になるとかですね。」
「お酒・・・、元々お酒は好きだったんですか?」
「晩酌するくらいには好きですよ?男の独り暮らしだったんで、お酒とおつまみで夕食を済ませる事も多かったですね。先に言いますけど、健康診断的には健康とお墨付きを貰ってました。」
日本酒よりも洋酒派と言いつつ何でも飲んでたな。ただ日本酒よりも洋酒の方が明日には残らないし焼酎はどうも匂いが苦手であまり飲まなかった。やっぱりウイスキーやブランデー、スピリッツが美味しかったな。カルパスとかをつまみにするのもいいけど案外チョコと言う選択肢も捨てがたかった。
「多少飲む分には気分転換と言う点も踏まえて大丈夫だとは思います。しかし、飲み過ぎと病室での飲酒は控えてくださいね?」
「それはまぁ・・・。そう言えばウイスキーボンボンとかは食べて大丈夫ですかね?差し入れでお願いしてたんですけど。」
「確か度数的には一粒で 2〜3%が一般的でしたね。パッケージを確認するので見せてください。」
「そこの台の上の袋に入ってると思います。」
大先生にやらかした分、出来る限り報告出来るならしておこう。流石に今の状況で隠し持ってコソッと食べるなんて事はしたくないし。しかし、柳田には感謝しとかないとな。契約書書いてなかったら最悪面倒見ませんと病院側から言われる可能性もあったし、そうなったら今度は訳が分からないまま外を彷徨う事になっていた。
でもその場合妖怪とかが寄ってきていたのだろうか?う〜ん・・・、外に出る目標はそのままにしてやっぱり妖怪と言う者の事も少しは知っておかないとな。
「一般的なお菓子なので食べる分には問題ありません。しかし、どう言う反応があるか分からないので最初のうちは私や敷田さんの目がある所で食べて下さい。」
「なら夕食とかのデザートにでもするのが良さそうですね。それなら手間もかけませんし。」
「一応マリちゃんはマリー・ガンディーと言う身分もあるので我慢出来ない時は私の所に来てもいいですよ?」
「そこまで堪え性がないわけではないですよ?」
「いえ、堪え性の問題ではなく精神的なストレスの問題です。VRゲームと言うのは病室にいながら広い世界を見て回れる、言わば擬似的な外出と言う側面もあります。しかし、それはあくまで疑似体験なので根本的な解決とはいい難い。マリちゃんの場合は引きこもりとは違うケースで自己肯定感の低下や抑うつ、無気力等はありませんがそれでも、現実とどう向き合うのか?と言う部分では大きなストレスがあると考えられます。」
「なるほど・・・。確かに外に出たいって気持ちはありますけど、すぐに出ていいのかって考えると怖いと思う事もありますね・・・。」
ゲームに没頭してると色々忘れられるし、配信のネタなんかを考えていても色々忘れられる。でもそれが現実逃避だと言われると迷う。なにせ耳も尻尾もなくならないしねぇ。でもま、華澄達と会って先生と話してなんとなく心の整理はついてきた様な気もしてきた。うん、少なくとも身分は保証されているしゆっくりと行こう。
会社員時代の癖か先延ばしよりも早期に判断を付けてクライアントにプレゼンしたり仕事取ったりする方向に考えがちなんだよね。でも、自分の人生くらい腰を据えて考えてもバチは当たらないだろう。
「そう言えばなにか用事があったんじゃないですか?」
「あっ!時間!」
「私の事は気にせずにログインされるならどうぞ。」
時計を確認すると10時半!防柵が切れるにはギリギリの時間ですぐさまログインすれば時間切れには間に合う。先生に断りを入れて急いでログインすると、既に秋ドンさん達はログインしていた。と、言うか全体マップ見るとうちの周りヤバない?
「すいません遅れました!」
「ツキさんおもろないからダメや。おもろい登場したら許したるで〜。」
「ヒロインなのでピンチでしか登場出来ませんでした!はっ!これが世界の意志か・・・。」
「ただのヒロピンやないかい!と、言うかウチ等もピンチやで?」
「一晩でそこまで動かないと思ってましたけど、かなり動いたみたいですよツキさん。」
「索敵ガンガン出して丸焼き戦法みたよね・・・。」
「バルサミコスはようやる。やられた方は真っ向勝負以外の選択肢が少ないから割に合わんがな、サクラ。」
「それで打って出るのか?」
ログアウトするまでうちの領地の周りは未索敵状態だった。それ以外にも他の領地があって小競り合いは続いていた。しかし、ログインしてマップを見ると参加賞狙いの領地が消えたのはいいとして、森が殆ど索敵完了状態として表示されている。
つまり未索敵の場所=誰かしらの領地があってそこは稼働中と言う構図が出来上がってしまう。プレーヤー=パワーな所もあるしローテーション組んで深夜索敵組を作り一気に丸裸にしたのか、或いは豊富な資源でユニットを出しまくって索敵したのか。一応、倉庫何個か見付けられればプラスとまではいかなくてもちょいマイナスで済むしなぁ・・・。
「さてと防柵はもうすぐ切れるし、切れたら切れたですぐにここは見つかってまう。王はんが言う様に打って出るか逃げるかやな。」
「秋ドンさん逃げられるものなの?流石に私が見た限りだと潰されちゃうよ?」
「逃げれん事はあらへんでサクラさん。相手の領地が動いとらん限りウチらはやって来た指揮官とユニットを釣瓶落し方式で潰せばええ。領地防衛戦っちゅうんは守る方が有利やさかいな。そして、派手に暴れれば暴れるほどプレーヤーは増えてくるし、最終日に向けてマップも狭うなる。その狭うなる瞬間に陣地変換で飛べば・・・。」
「押し出し方式で僕達の領地は外側へ下げられる、ですね。問題はその狭くなる瞬間、具体的には18時まで今から耐えなきゃならないって事ですけど、一応仕込みはしておきましたよ。」
「なんじゃ?篝火なにを仕込んだ?」
「十面埋伏の計。特攻ゴーレムを地中に埋めて置きました。いや〜、妖精王に聞いたら土系魔法使えるって言うんで助かりましたよ。」
確かにグランドジャベリンとか使ってたけど、落とし穴なんて言うマイナーな魔法をボスに仕込むとか運営汚い!いや、まぁ、ハマると結構嫌らしいのよね落とし穴。飛行型モンスターには全く持って意味をなさないけど、ゴブリンなんかの地上を歩く系のモンスターはハマると抜け出すと言う動作を取るものが多い。その隙に仕留めるとかもあるしさ。
「つまり私達はここで18時まで・・・、約10時間戦えって事?流石に物資も尽きるし体力が持たないんじゃ・・・。」
「ところがどっこい戦うのはそんなに長うないで。」
「どう言う事じゃ?」
「ウチの真反対にあった大きな領地覚えとるやろ?名前はユ・アインリファインっつうらしいんやけど、そこも結構活発に動いとるんや。ただウチの領地が緩衝地帯になってもうてバルサミコスの所までは行かんようにしとる。」
「それって迂回して行ったらいいんじゃないの?」
「それじゃダメなんですよ。僕達が領地防衛戦をやってるプレーヤーだってのは既にバレてるでしょうし、僕達以外にも稼働している領地はありますからね。いくら戦力のある領地だとしても不特定多数のプレーヤーを相手にしながら進んで、その上で背後からの奇襲に合うリスクを負うとも考えられないでしょう?」
「つまり私達は西軍東軍のド真ん中にある群雄ってところか。その上で全体マップ見れば少し離れてるけど大きな領地はまだあるし・・・、バルサミコスが動かない限りは背後は大丈夫かな?動かれると一気に乱戦になるけどさ。」
「そや。時は開戦前夜でまだ両軍は睨みおうとる。その視線の先にウチらがおるけど、そのウチらを潰すと激突が発生するし、最悪仕掛けられた瞬間ウチらは領地転換でどちらかの領地の近くに飛べる。嫌やろ?緩衝地帯が消えた上に自分の領地のすぐ近くに稼働する領地が現れるん。2面戦争どころか漁夫の利狙ったプレーヤーも殺到するで。それに、酢の所はまだマップ作ったりして遊んでる様やしな。」
「そうなると私達が今出来る事は・・・、戦力誘導とPT稼ぎ?」
「そうなりますね。なので僕から作戦を・・・。」
篝火さんが出した作戦はこうだ。地形的に森と言う事でプレーヤーとしても視認性は悪い。そして、全体マップを見れば今の地域にいるプレーヤーとしても動くに動きづらい。仮にワンマン領地として動くのはバルサミコスだけど、それでも森に特攻してきて全てを平らに出来るとは考えない。なにせ小さな領地が多くとも守る方が有利と言うのは変わらないからね。
ならどうするかと言えば、森にいるプレーヤーにちょっかいかけてバルサミコス側に誘導し、潰し合いを発生させると言う方法。領地転換は領主か盟主が領地にいる時しか発動出来ないし、転換時に領地にいなければおいていかれる。しかし、個人や小規模領地が集まっている群雄としては死んで当たり前と言う人が多い。
なのでプレーヤーを誘導してバルサミコスに戦力を削いでもらいつつ、俺達は森の中で領地の完全停止やら暗殺やらしてPTを稼ぐ。まぁ、その中で敗残兵狩りもやると言うのだから抜け目ないな。
「しっかしそんなに上手くいくもんかの?流石にプレーヤーとて簡単に釣られる程馬鹿ではないじゃろ?」
「ええ。ですから妖精王と共に爆撃機を増やしました。」
「うっわエゲツな。大変よろしい、どんどんやりましょう!」
「お兄ちゃんなにやる気なの?」
「ランダム爆撃して森を焼く気じゃろ。ソロ参戦で飛行ユニット使っても空戦好き以外にはPT献上にしかならん。」
「つまり対処しづらい一方的な攻撃が来るって分かればプレーヤーとしても逃げるから・・・。」
「前に進むしかなくなる。おいちゃん飛行ユニットはぎょうさん持っとるさかいなぁ〜。」
秋ドンさんが悪い顔をしているけど、多分ココにいる全員が同じ様に悪い顔をしている。なにせ今からやる作戦は引き篭もりたい領主やプレーヤーを強制的に戦わせるものだしねぇ。目論見が外れるとすれば思った以上に稼働してる領地がなかった時とか?まぁ、その場合はリファインとか言う領地を引っ張って来るしかないかな?
「楽しい楽しい人員配置や。ツキさんは飛行ユニット、妖精王はんは爆撃機、フロムさんとサクラさんはちょっかい誘導で篝火さんはユニットの管理と全体監視。ウチも全体見ながら指揮飛ばすけど個人の采配は任すで〜。どの道乱戦なったら言うてもきかんしな。」
そんな配置を指示されて妖精王共に飛行ユニット置き場へ。バルサミコス牽制の為か、はたまた防柵切れで叩かれると思ったが飛行ユニット40の爆撃機20と言う結構な数を空へ上げる。爆撃機は対地ほピカイチでも空戦出来ないから、飛行ユニットに狙われると簡単に落とされるんだよなぁ・・・。
「高度はどうする契約者。」
「妖精王よ、低くお飛び。私が上を飛んで飛行ユニットがあれば落とすって、やっぱりある程度読まれてたか!妖精王、距離開けて矢じり編成のまま進んで!」
「ワーッハッハッハ・・・、その狐耳に十尾。その姿、我が友李徴子ではないか!?」
「アレは虎!私は狐だから李徴子違うネ!ってそのネタ分かる人います?アールさん。」
「なんと!山月記はマイナーであったか・・・。で、ツキさんがインしてると思ってたけど下の領地はツキさん所か。葦束焼いて防柵して逃げてたけど出て来ていいの?」
「出て来ないと蹂躙する気でしょ?ドックファイトしてあげますから尻を振れぇ!」
ド畜生!来たのはアールさんかよ!引き連れた飛行ユニットは目算で30くらいでも、指揮官ありとは言え10機分の差なんかこの人なら簡単にひっくり返せる。だからこそ引かずにアールさんに食らいつく!
「全機エンゲージ!ツーマンセルで各個撃破!指揮官は私が食らう!」
「ははっ!散開!散開!私の1機は護衛につけ!他が狙うは低空の爆撃機!堕ちてもいいから少しでも数を減らせ!」
真っ向からバルカンで射撃しつつ突っ込むけどユラユラと飛行ユニットを操作するアールさんにはかすりもせずに、激突スレスレで宙返りされて背後に付かれる。ローリングしながら射線を切ろうとするけど・・・。
(おかしい、撃ってこない?)
「ほらほら、その尻尾を一本ずつ食い千切るぞ?」
「空で撃墜とか即死で洒落にならないから嫌ってすよ!ちっ!流石に飛行ユニット自体の性能がいい!」
「帝国民として鍛えてるからな!アイ・アムスパルタァーー!」
「ならファランクスで突っ込んでこいよ!蜂の巣にするから!」
護衛機からの射撃は来る。バルカン砲の弾が頬をかすめ、少しでもズレていれば落されていた。しかし、何故アールさんは撃ってこない?さっき後ろに付かれた瞬間でも曲芸地味た射撃で当てられるはずだけど・・・、まさか・・・!
どうする?今は遊ばれてるからいいけど仮にミサイル装備なら飛行ユニットを広域破壊出来る。それを爆撃機に向けられたらかなり不味い。編成して飛んでる分、誘爆判定とか出されたら目も当てられない。
「おや?考えついたかな?お嬢さん。」
「考えついたからと言ってその引き金は引くんでしょう?ならもう少しダンスしませんこと?」
「ほう?乗った!」
尻から離れないなら一旦引き連れていく!相変わらず護衛機からの射撃はウザく、何発かヒットしている分コチラの飛行ユニットの損傷は激しい。しかし、まだ飛べる。急上昇し太陽へ向かい一直線、背後から付いてきているけどあんまりにも暇ならあの人は当ててくる。
『妖精王、一機私の真下に上げて。』
『爆撃機地点まではまだ距離があるが?それに追いつけないぞ?』
『大丈夫、成功すれば死なない!』
「どうした?太陽に入るだけなら面白みはないぞ?」
「急ブレーキ!エンジンOFF!踏ん張れーー!!!」
「ほう?」
飛行ユニット自体に指揮官がいなければ慣性を無視した動きやらが出来る。しかし、指揮官がいると普通?の戦闘機の様な体験がフィールドバックして来る。つまり、今は急激なGがかか・・・。身体はキツくないけどブラックアウトを表現した様な視界が見える。
高速で追ってきたアールさんと堕ちながらすれ違う。護衛に付けていた飛行ユニットからバルカン砲が放たれるけど、それよりも早くアールさんの下へ。一気にエンジンを吹かす?無理だな。今の速度で吹かしても多分浮かび切れないし燃料も保たない。堕ちバルカン砲を撃ち込み護衛機は落としたけどアールさんは無傷。さて、ゲームじみた事をやろうじゃないか。
「そのまま堕ちるかツキさん?」
「まさか、悪あがきはしますよ!」
飛行ユニットを破棄し両手両足を広げ更に尻尾を大きく広げたり裾やら袖に入れてムササビの舞!ギリギリ速度を落とせればいいけどダメなら死亡かな・・・。
「ぐへっ!お・・・、おぉ・・・、主に全身が痛い・・・。」
『無事か?契約者。』
『死んでないけど領地に降ろして・・・。』
空中給油ならぬ空中乗り換え。まぁ、俺の乗ってきた飛行ユニットは墜落したから残ったユニットに指揮しか出来ない。でも死ぬよりは安いし、上に引き付けたアールさんが戻るには多少時間がかかる。今のうちに領地に戻ってさっさと次の飛行ユニットを貰わねば!
「残りの飛行ユニットは引き続き敵ユニットを撃墜!指揮官には手を出すな!出来る限り他のユニットを落とせ!」




