64話 大丈夫かな? 挿絵あり
朝の身支度を済ませ三枝先生が運んできた朝食をモリモリ食べる。一汁三菜と言うわけではなく肉と豆が多めでどちらかと言えばアスリート的な感じかな?ただストレッチやら腕立てやら反復横跳びなんかもしたけど筋肉痛は来ないし、二の腕なんかは細いながらもぷにぷにしていて筋肉があんまりある様には見えないのよね。
う〜ん・・・、そもそもゲームデータを元にした体って事は見た目が変わらないとか?レベルが上がってステータスが上がっても見た目は変わらないし、そもそもツキってカンストしてるから後は割り振りポイントでの強化くらいしかない。
全く成長しないわけじゃないけど下法な経験を稼ぐのはかなりキツイし、クエストを攻略したから経験値あげるなんて言う話はここの運営にはない。あくまで戦って稼げが主体だしポイントなんかもくれるわけがない。
「なにか考え事ですか?」
「三枝先生、疑問なんですけどこの体って成長するんですかね?」
「成長の定義によりますね。細胞分裂はしているので、その点では成長していると言えます。しかし、外見的な成長と言われると判断に迷いますね。例えば子供から大人になるに辺り一次成長期二次成長期と段階を踏みます。その中で身長が伸びたりと言う外見的な成長や性的な成熟と言うものもありますが、マリちゃんの場合既に外見的なモノは成長限界にあると言えます。」
「成長限界?」
「ええ。例えば女性なら生理がありますが、マリちゃんと言うか元となったデータとしてはそれは不要です。」
「妖怪的に?」
「いえ、ゲームとしてです。VRMMOに結婚システムは組み込まれていない。それはNPCの矛盾や学習AIが処理しきれないから、コレは知っていますね?」
「プレーヤーがいなくなった時に勝手に未亡人にも出来ないし、今復帰するか分からないプレーヤーを待ち続けるNPCが老死するまで残るのもまずいって話ですよね?」
人側にも心の問題はあるけどゲーム的にも問題がある。単純にデータ容量が増えすぎると言うのもあるし、夫がずっと帰って来ない事をどう処理するのかなんてのも。その点で言えばVRの恋愛ゲームは学習AIを搭載していても、態度や受け答えにだけ学習部分を割り振っているし攻略対象も限定されている。
それに何よりも先ず恋愛ゲームをマルチプレーで作ろうと言う酔狂な所がない。だって嫌だろう?誰かを攻略しようとするのに既に攻略済みで他のプレーヤーとくっついていたりしたら。攻略対象が全員逆ハーレム狙いとか言うならまだ!なんて声もあるらしいけど、それの何が面白いかは俺には分からない。う〜ん・・・、貢ぎたいのかな?
「そうです。その点を踏まえるとマリちゃんの体的には誰かと結婚して増えると言う機能自体が不要だと言えますね。」
「なるほど、一応あるけど使い道はないって事ですね。そう言えば華澄が来るらしいんですけど先生は聞いてます?」
「華澄さんとお連れの方が来るとは聞いてますよ。私も立ち会う為に朝食を運んで来ましたし。」
「連れ?昨日は何もメッセージ送って来なかったけど誰だろう?」
来るとすれば座敷童子かな?河童が医院長なだけあって三枝先生も座敷童子の事は知っていそうだけど、ここで下手に名を出すのもなぁ〜。寧ろ華澄から誰か伝えていない以上、俺からその名を出すのもまずい?流石に病室からなにもかも分かる様な探偵やら刑事でもないし来てから考えようかな。
「同僚の木本と言う方らしいですよ?」
「知らない人ですね。と、言うかこの姿で会ってもいいんですかね?」
「私ではなく医院長が許可したからそう言う関係の方なのでしょう。華澄さんもそちら側の方ですし。そう言えばカボチャはまた出せますか?」
「カボチャですか?多分出せますよ。」
「なら出してもらえますか?あと、確認ですがカボチャ以外は出せませんよね?」
この前桃を出して座敷童子にあげたけどゲロっとくか迷う。と、言うか言わないと規約違反とか言われそうだから話しとこうかな?見た目も普通の桃だったけど妖怪が食べるなら大丈夫だと思いたい。なにせゲーム中では普通に食ってるし。
「桃は出せましたよ?」
「その出した桃は?」
「あ〜・・・、華澄にあげちゃいました。」
「マリちゃん。次から24時間体勢での集中監視を受けるのと、今から今後不用意な事はしないと誓うのはどちらがいいですか?」
「不用意な事はしません!でもですね・・・、そのですね・・・。」
「でももそのも要りませんよ。必要なのは行動と結果です。そもそもカボチャも桃も同一物体なのか何なのかさえ分からないんですよ?一応、カボチャを調べた結果はタンパク質の集合体であると言うのは分かりました。しかし、それを機械も使わずに瞬時に人為的に作り出している時点でかなり妖怪寄りと言えるでしょう?はしゃぐ気持ちは分かりますが今後謹んで行動して下さい。」
「分かりました・・・。質問ですけどカボチャって害のあるモノではなかったんですよね?」
「毒と言う意味では該当しません。その代わりバイオナノマシンの集合体である事は分かりました。」
「それって私が事故で入ったポッドに満たされてたモノと一緒なんですか?」
「そう思ってもらって構いません。なので不用意に誰かに渡せばそこからナノマシンの事も調べがついてしまう。桃は回収する様にして下さい。多分まだ腐ってもいないでしょうから。」
桃の回収か多分無理なんだよなぁ・・・。座敷童子大先生は妖怪で人形ボディだから毒なんてなんともないだろうとは思うし。そう言えば大先生も来るのかな?
「多分食べちゃってますよ?」
あっ・・・、先生の目が怖い!近づいて来て両手を頭に・・・、アイアンクローか!?違った!こめかみグリグリだ!しかも結構な力で!
「どうして!無害か!有害か!分からない物を!恋人に食べさせたりするんですか!コレが毒なら対処のしようもないでしょう!分かってますか!妖怪としてはイタズラ心があるのは仕方ない!でもですね!」
「痛い!痛い!!た、食べたなは華澄じゃないです!多分座敷童子大先生です!」
「座敷童子?妖怪の?なお悪い!未知の妖怪と未知の物体が合わさって未知物体マークⅡになったらどうするんですか!」
「いや、そもそも座敷童子大先生は人形ボディだったし・・・。」
「真利のスクリームを聞いて突入してみれば、ココにも女狐が!離しなさい!」
「待て待て柊!多分触診だろう?流石に医者まで頭の痛い奴だったら俺も帰りたくな・・・。ほう、中々可愛いな。」
先生が俺をグリグリしている中、扉が乱暴に開かれたと思ったら華澄と知らない人が入って来た。そのまま華澄は先生の手を引っ剥がすし男の人は・・・、多分木本さん?は俺の方をジロジロ見てくる。コレってゲームに間に合うかな?今が8時半くらいなんだけど・・・。
「え〜と、木本さんでいいですか?」
「はじめまして、柊の上司に当たる木本 幸喜だ。雁木さん・・・、いや、俺もツキちゃんと呼んだほうが?」
「あ〜・・・、ならツキちゃんかマリちゃんでお願いします。そこそこ珍しい苗字なので、それで呼ばれると身バレの可能性がありますので。」
雁木と言う姓はどちらかと言えば少なくて、下手に呼ばれると身バレの危険がある。芸能人気取りと言われればそれまでだけど下手に広まるよりはねぇ。と、言うかこの姿自体今の所外を出歩けるまでにこぎ着けてないし。
「ならツキちゃんにしとくか、それで配信者やってるし。それでだな・・・。」
何やら両手の指を組んで空いた隙間から木本さんが俺を見る。印とかそう言うものだろうか?難しい組み方でもないみたいだし後から教えてもらおうかな?
「気になるか?」
「見られてる対象なので気にならないと言えば嘘になりますね。それは?」
「狐の窓。妖怪やら精霊なんかの普段は見えないモノが見える様にする方法だ。まぁ、ツキちゃんは実体のある側だから姿は変わらないかもしれないが・・・、座敷がヤベェヤベェ言うだけはあるか・・・。」
「はぁ・・・、何が見えてるんですかね?鏡とかでそれやって見ても見えます?」
「鏡は無理だな。アレはその者の姿をそのまま見せるだけで、隠されたモノは映さない。よく言うだろ?真実の鏡って、姿のない者は姿がない故に映らないのが真実で、姿ある者は映った姿が真実。だからツキちゃんが自分を見ても何も見えない。」
「患者に手を出す医者が何処にいますか!あんなに密着して羨ましい!この泥棒猫!」
「危険な行為をしたら嗜めるのは医者と言わず人なら当然の事です。マリちゃんはかなり悪い事をしました。」
「悪い事?」
「柊さん、桃をマリちゃんから貰ったでしょう?その桃はどうしました?」
「・・・(チラッ)」
「いいぞ柊。その人の事は医院長からも聞いてる。」
「座敷童子が1人で全部食べました。」
「その座敷童子の変化は?」
「さぁ?気分が優れないと今は家にいます。」
「えっ!?大先生大丈夫?」
「大丈夫よ真利。どうせ仮病でしょうから。」
「でも悪い事しちゃったかなぁ・・・。人形だからなんともないと思って渡しちゃったし。」
「喜んで食べてたからいいのよ。本人としても害があると思えば食べなかったでしょうし。それと、コレは頼まれてた物、そこのテーブルに置いておくわ。」
「でも・・・。」
妖怪に何が効くのかは分からないけど、桃食べて体調崩したなら責任もある。先生の言う様に俺はどこか浮かれてたのかもな。色々と分からない事が出て来てその中でもどうにかしようと動いて・・・。無事に生きていられる中で知らないモノに触れて、そこでの関係を模索してと。
「座敷童子は大丈夫だ。あの体がなきゃ見えない者の部類で、何かが悪くなったら身を変えるだけ。まぁ、あの体にはそこそこ思い入れもあるらしいが、壊れたら壊れたで綺麗さっぱりリニューアルするだけさ。さてとだな、ツキちゃんよぉ。お前さんこれからどうするか決めてるか?」
「木本さん、主治医として話しますが今後の話はよしてください。今はまだマリちゃん自身の事を調べなければなりません。」
「でも真利は健康なのでしょう?三枝先生がそう言ったと真利からも聞いています。姿の事なら私の家に来てもらいそこで過ごしてもらうと言う事も出来ますが?」
「貴女の家では機材も足りないでしょう?検査をするには医療ポッドも必要ですし、本人との契約もあるので早々外に出す事を許可も出来ません。」
「しかし三枝先生、健常者を病院に引き留めるのもまだいい事ではないだろう?本人さんとしても外には出たい様だしな。」
そう言って3人の視線が俺に注がれる。外に出たいのか?その為に配信やらしてるけど、いざ外に出れるとなると気後れする。流石に知名度もないしこのまま出たらコスプレ少女がウロウロしていると注目の的だろう。まぁ、配信者として大成功すればどの道見られるんだけど、その場合はそう言う人としてまだ見てもらえる。
年齢を出したのだってパッと見で中学生やらに間違われない為だし、個人データの提示とか出来ればやりたくもないのよぇ。だって提示したデータには今の姿が映ってるし、下手すればそこから偽造なんて話があるかも。
「今はまだいいですよ。急に外に出ても何もする事がないですし、何より先生達との契約もありますから。」
「でも真利・・・。」
「よさんか柊。ツキちゃんの考えは分かった。取り敢えず名刺を送るからアドレスを教えてもらっても?何か困り事があれば柊を通して俺達を頼ってもらってもいいしな。」
「その程度ならまぁ。」
数秒視線を合わせて木本さんからの名刺送信を受け取る。困り事が何なのかは分からないけど、警察の知り合いがいると言うのはこの姿だとかなりありがたい。そのうち外に出るだろう?夜にコンビニに行くだろう?補導されたら間違いなく個人データを見せろと言われる。
お酒買うくらいなら年齢提示で済むけど、警察が絡むと早々簡単には入れてくれないのよね、なにせ怪しいとか問題があると思って声かけてきてるんだしさ・・・。
「身の危険を感じたらいつでも私に言うのよ真利。特に暴力的な振る舞いをされたとか、寝込みを襲われそうになったとか、気が付いたら婚姻届に判が押されてたとか、ドライブの行き先を隠されて気が付いたら相手の実家で両親への挨拶をさせられたとか。」
「暴力的以外は華澄がやった事なんじゃ・・・。」
「そうだ!柊テイマーツキちゃんよ。こいつってどうやったらまともになるんだ?主に言動的に。」
「ん?たまに舞い上がっておかしな事もしますけど、華澄はまともですよ?」
「えっ?お前さん菩薩系美少女だったの?ちょっと腹割って話さないか?ツキちゃん。どう考えてもコイツの発言はおかしいだろう?」
「菩薩系美少女・・・。なんか耽美な顔と言うか面長な顔してそうですけど、華澄は単純に自分に正直なだけでしょう?今のも自分に正直で何をしたいって話しですし。」
「真利ったらもぅ・・・。子供は何人作ろうかしら♪」
「ね?あと華澄、子供は作らないから。」
「残念無念。」
「ね?ってなぁ・・・。」
「嫌なら嫌と言えばちゃんと話は聞いてくれますよ?」




