59話 美味しそうな3クラン
引き続き上空偵察と洒落込んでるけど、単騎だから交戦はNGだよなぁ・・・。基本的な話をするならチームに共有されているマップはユニットに対して四方のマスまでで、索敵して安全確保して行く事になる。その中で指揮官と言うかプレーヤーが多数いると有利と言われる理由は目視が使えるから。
無人ユニットに指示するだけだと、どうしても見落としはあるし隠蔽されてると索敵失敗もある。その上発信機付けられてもユニットが帰って整備コマンド使うまで発信機の存在に気づけないのよね・・・。
『秋ドンさん、秋ドンさん、こちらツキ。私の場所から正面・・・、グリッドで言えば5マスくらいの所で空戦してますよ。』
『血気盛んやなぁ〜、出会い頭の事故かユニットだけの部隊やろ。どっちが有利とか分かる?』
『あんまり近寄ると索敵範囲に入りそうなんですよ・・・、片方は指揮官が上がって来ていますね。動きが変わった。』
高度を下げて木の合間で待機しつつ空戦を見守るけど、やっぱり指揮官がいる方が有利だな。ユニットを編成して戦わせるだけだと、何もないフラットの状態なら同数で相打ちだし多ければ多い分だけが生き残る。
しかし、プレーヤーが指揮官として指示を出せばユニットは理解してプレーヤーの指示通りに動く。ターン制でもなく見たままのフィールドで脳波操作やらで指示を出しているのだからプレーヤー有利は変わらないものの、敵ユニットの強化具合やら数次第では追い込まれる。
一説には初心者指揮官をユニットだけで倒そうとするなら10あればいいとか。まぁ、指揮官は地上なら魔法やらスキルが使えるしなぁ・・・。流石に空は飛行ユニット使わないと飛べないけど、撃ち落とされると高度次第では即死だし、そこそこの高さでも落下ダメージが入る。通常なら落下死なんて事もないんだけどさ。
『見つかっとらんよな?』
『帰る時は何個か放置領地回ってから帰りますよ。流石に交戦して直ぐに指揮官は襲わないでしょう。』
映像共有しつつ秋ドンさんと話すけど、上がって来た指揮官は楽しそうに声を上げながら飛行ユニットから射撃している。亜人かな?流石に領地防衛戦では亜人の射撃下手は適応されないから、ちゃんと狙えば素直に当たる。偵察の為に出した飛行ユニットかは知らないけど、指揮官なしの方からすればそこそこの痛手だな。
包囲殲滅戦でもやってるつもりなのか、相手ユニットを逃さないとばかりに3次元包囲網を作りながら弾丸が吐き出される。あの弾丸って桃の種なんだぜ?実は効率が悪いけどバイオ燃料へ、種は弾丸とさて敵を倒す刃へ。通り過ぎた後はどうなるって?森が生まれる・・・、らしい。
「深紅の空〜♪高く広く〜♫っと。景気よく交戦してるからほかの領地の人間も気づいたか。目算だけど16機でドッグファイトしてたらそうなるよなぁ〜。防音とか皆無だし。ん?んん!?!?!?」
木々に隠れて見守っているとやはりと言うか、指揮官ありの方が優勢でユニットだけの方は殆ど落とされた。ペイントは自由だけどユニットだけの方が強化具合は良さそうだったんだけどな。
「我こそは空の王者!神聖バルサミコス帝国領の切り込み隊長であーる!!!名もアール!」
「バルサミコ酢?料理にでも掛けてつか・・・、ぎゃ!!」
なーむー、指揮官は初心者だったか・・・。さっきの正解は口上中にありったけの弾とミサイルをぶち込み煙幕張って逃げるだな。アールさんの口上が終わって森に潜ませていた飛行ユニットが急浮上しつつ相手の指揮官を撃ち落とした。流石にあの高さなら即死だろうし、復活用に食べ物備蓄してないと数時間は動けない。そして、その間に領地が一揆に合って備蓄も消えて領地毎撤退と言う運びに・・・。一応、
『秋ドンさんヤバい!見てた?この近くに料理人がいる!てか、アールさんがいた!』
『料理人・・・?料理人!?あの領地戦だけガチるクランかいな!と、言うかアールさんて知り合い?』
『フレ!あの人普通のプレーはへっぽこなのに、事空戦だけはガチな人だから危ない。ツキはゆっくりここから撤退するよ!』
『逃げ切れるか?』
『だから飛行ユニットを廃棄してゆっくり逃げるの!徒歩で帰るからちょっと時間貰いますね〜。』
『死なれるよりはマシか。ええよ、廃棄したら寄り道せずに帰るんやで〜。』
どんなゲームにも有名人やら有名ギルドにクランはある。領地防衛戦での勝者は毎回変わるけど、勝率と言う面では安定した所もある。マハラジャ・カリー、幽玄夕餉、そして神聖バルサミコス帝国。なんかしらんけど飯にこだわりがありそうな3クランが課金も厭わずガチに楽しんでいる。
野良やら中小クラン?その3つが潰しあった後に襲撃するに決まってるよ!まぁ、その3クランも流れが分かっているにも関わらず、近くにあれば即刻潰し合うからなぁ・・・。なにせ、本人達のモットーが全部潰せば勝ち確定だし・・・。
アールさんとの付き合いはそこまで長くはない。野良でパーティー組んで知り合ったけど、足が悪いらしく何時もチャリオットやらで走り回りながら射撃をしていた。ただ、選んだのが魔族なのでチャリオットと相まって命中率はよろしくないし、死んだら死んだで『俺に構わず先へ逝け!』と言う感じの人。
なので通常のパーティーでは結構嫌厭されてたかな?でも、ゲームのプレースタイルなんてそれぞれだし、脳波操作系の魔法やら武器の扱いは上手かった。そう考えるとクリスタル・ビットとか覚醒してそうだな・・・。
勿体ないけど飛行ユニットを廃棄して徒歩へ。流石に葦束使ってるから領地が簡単に炙り出されるとは思わない。でも、数と密度でそれを覆すのがあの人達だからなぁ〜・・・。飛んで来た方向まで確認出来なかったのが痛い。
確認出来てればもう少しやりようはあったけど、流石に方向はバラすほど甘くもなければ下手すると太陽を背にして高高度から索敵してる時もある。今は不用意に飛び出して交戦しなかった自分を褒めよう。偉いぞ、自分。
地上に降り立ち木々の間を縫う様に走る。途中で索敵に出された別領地のユニットに発振器を取り付けつつ、身を隠してどうにか自分達の領地へ。サクラさん達が見つけた倉庫から大量に野菜やらを持ち込んで来ているので、燃料としてはそこそこ余裕が出てくるかな?
「おつかれちゃん、料理人近いんかな?てか、相手はバルサミコスよな?」
「飛行ユニットで来たから間近ってわけじゃないとは思いますよ?それに葦束焼いてるから索敵成功率も下げてますしね。いきなり見つかる事はないと思いますけど、領地周辺監視はしっかりしないと寝首を掻かれます。」
「どないしようかなぁ〜。領地移動っつう手は残しときたいし、かと言って見つかれば潰されるやろ?勝てる見込みは低いし・・・。」
「秋ドンさんや、防柵があるだろ?最悪見つかった瞬間に防柵すれば彼奴等は他へ行くぞ?」
「でも索敵済みでマーキングされるやろ?穴熊やるにしても結構厳しいで?」
「いや、バリスタに大砲にビーム砲で頭数減らしてからなら逃げる時間くらいは稼げるでしょう。幸い秋ドンさんは飛行ユニット多数持ってたから守りとしては硬いし、特攻ゴーレムを伏兵にしても打撃はデカいですよ?」
硬くて強い特攻ゴーレム。移動が遅い、索敵が出来ない生産コストが高いと言う点を除けば高水準にまとまったユニットである。そんなゴーレムを惜しげもなく伏兵にして自爆させる。十面埋伏の計じゃないけど、地上を歩いてくるユニットの牽制としては十分に効果がある。その代わり、遅いから移動指示をだしても別の戦場へは間に合わない事が多い。
「何かありました?」
「篝火か、厄介な奴が近くにいるかも知れなくてな。徒歩での索敵でなにか見つけられなかったか?」
「僕の方は無人領地っぽいのばかりですね。そこそこの大きさの所もありましたよ。でも、蓄えがあるかと聞かれたらなさそうでしたね。」
「そこそこの大きさの領地・・・。」
「無人領地・・・」
「2人共悪い事考えてへん?」
「悪い事だなんてそんな!ちょっと釣り用に出来ないかなぁ〜とか?」
「もぬけの殻にするだけして、色々仕掛けるのはありだな。」
「めちゃくちゃ悪い事考えてるやん!おいちゃんも噛ませてなぁ〜。」
「その前にツキさん見つかったんですか?」
「篝火さん、よく聞いて・・・。どうせココも見つかる。なら、見つかる前に罠張ってハメ殺ししても何も悪くないのよ。」
「罠にかかる奴が悪い。その程度のトラブルを乗り越えられない愚物は戦場には立てん。」
「トラブルオンラインやで?いざこざ、紛争、事故とは全部友達や。」
「あ〜、罠って何するんです?落とし穴とか?」
「燃料に余裕あるなら樽に詰めて爆破とかいいですね。」
「わざと葦束使って切れたと見せかけた焼き討ちとかいいな。ゴーレムも使うか?更にダメージ跳ね上がるだろう?」
「もっとエゲツなく飛行ユニットも使わへん?今はマシンガン装備やけど、空爆装備にも換装出来るで。」
「マニアックな装備作りましたねぇ。アレって対地はピカイチでも空戦出来なくなるから殆ど使われないでしょう?」
「一通り作るんがウチのモットーやで何機か換装しとこか。」
「そう言えばサクラさん帰ってきませんね。1人で行かせたんですか?物資運搬には。」
「いや、妖精王も連れてったぞ。指揮官ユニット扱いだから索敵も行動もそこそこいいみたいだしな。」




