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6話 誤差?

 怖い事は考えたくないけどどの程度の誤差だろうか?ジョニーは戦場へ行ったの様に意識ある肉塊じゃなかったのは確かだけど、見た腕は白いし指も細い。元々痩せ型ではあったけど、その時よりも細いし多分短い?


「寝転ぶにしても尻尾が気になるしやっぱりうつ伏せか。」


 フィールドで戦闘してれば気にならないけど、ボケっとしているとは尾てい骨に違和感が・・・。色々と作り込まれているゲームで椅子なんかも尻尾有り用の椅子なんかの小物もある。ドラゴノイドとかなら尻尾も武器扱いで硬いらしいけど、ウチの狐娘は柔らか尻尾だから踏まれると痛いし叩き付けてもポフポフ言うくらいでダメージは出ない。


 まぁ、代わりにナインテールが扱いやすいからいいんだけどね。と、それよりも仕事を長期で休んでしまったな。事情が事情なだけに有給か病休で処理はしてると思うけど大丈夫かなぁ・・・。一応、最後は柳田のサポートで持ち仕事はなかったから支障が出る事はないと思う。思うけど、復帰するにも身体がまだ動かないからなぁ・・・。


「取り敢えずフィールドバック目的のリハビリリハビリ!とうっ!髭のおっさんの様に尻尾を振りながら飛ぶ!」


 新作も出る髭のおっさんはタヌキだけど、尻尾仲間なので良しとする。まぁ、ゲーム的に飛行するなら使い魔に乗るか捕まる必要があるので気分だけ。やけにスムーズに動く尻尾・・・、なんか10本とも動かせるけど仕様変更?使用率が低いとよくテコ入れされるけど、とうとうこいつにもテコ入れが来たか。


 確かに背中をメインに守る盾って遁走用の装備でしかないもんな。それにオートジャストガードじゃなくても自前ジャストガードなら盾が壊れる事もない。装備品に耐久値があるのはこの尻尾くらいだったかな?生体うんたらシリーズは耐久値的なモノがあるらしいけど、あれってSF寄りで今の街で装備してると浮くし。


 その後は大麻を振り回したり早口言葉を言ったり歌ったりしつつ脳に身体は動くと思い出させる。腕を見た感じケロイドで動きづらいと言うのはなさそうだから神経伝達が上手く行ってないのだろう、多分。


 そんな調子で約3時間経ったけど、このままリハビリしていていいのだろうが?確かに脳からのアプローチリハビリは身体を動かしやすくなると言う反面、ゲーム程動かない現実の身体に直面して絶望すると言う事もあるらしい。本来なら現実でのリハビリとゲームでのリハビリを同時に進めるのがいいらしいが・・・。


『マリちゃん聞こえますか?そろそろゲームを終了して欲しいのですが。』


「それは構いませんけど、そのマリちゃんと言うのは辞めてもらえませんか?この歳でそう呼ばれるとどうもこう・・・。」


「残念ながら主治医として拒否します。これも治療の一環だと思って下さい。それと、外から様子を確認していましたが神経反射による口の動きは確認出来ました。舌がまだ動かし辛い部分もあると思いますが、先程よりは現実でも喋れると思いますよ。」


「はぁ・・・。まぁ、ちゃんと喋れるのは助かりますね。ただ喉がまだ回復仕切ってないのか、舌っ足らずな声も上擦っていたように感じた。」


『・・・、その理由は追々話します。』


 三枝医師は歯切れ悪く返してくるが何かあるのだろうか?カポッとヘッドギアを外されて現実世界に帰って来る。相変わらずうつ伏せで寝かされクッションに囲まれてるけど、割とこのクッションの温かさは和む。


 しかしゲームで喋っていたら外でも口をモゴモゴしていたのか。普通ならそんな事はないけど、リハビリと考えたから身体が反応したのだろうか?これが発売された当初は不具合からゲームで右手を出したら現実でも出しそうになったと言う話が多かったけど、人とは慣れるものなのか今ではそんな話は聞かない。


 まぁ、スマートレンズも進化しているし公の場で完全に視界を塞いでゲームやネットに没頭する人がいなくなったからかな。立ったままやれば疲れるし、半透過状態でも現実にゲーム画面が重なって邪魔になる。


「身体は動きそうですか?」


「舌・・・、なら。そこそこ動き・・・、ます。身体は、指なら?」


 ベッドの中で指を動かそうとすればシーツとクッションの感覚が・・・、なんかクッションを触ると身体を触られた様な気がするな。温いしモフモフしてるから錯覚している?なんにせよ正常らしい身体は動いた。後はリハビリと・・・、何かを食べたい。点滴は見えるけどそれだけだと力も出ないし、固形物が胃に入ってないせいか動く気にもなれない。でも10日近く何も食べてないしまだ流動食から慣らさないといけないのか・・・。


「指なら・・・、カロリー的な意味合いで言えば確かに点滴だけでは力が出ないでしょう。しかし、舌がもう少し動く様になるまでは嚥下障害も考えられるので流動食で慣らします。」


「仕方ない。」


「ええ、仕方ない事です。ただ味はある程度選べる様にしておきます。後は・・・、床擦れの心配もありますが寝返りはまだ難しいですか?筋力低下により厳しいなら日に数度介助しますが。」


 そう言われて身体を動かそうとするけど、本当に筋力低下は激しいらしく思う様に動かない。と、言うか布団がそこそこ重い。別にそれで暑いと言うわけではないからいいけど、今時こんな重い布団使う所があるとは・・・。東亜メディカル技研って国立医学研究所でもあるから良い設備やら備品使ってると思ってたんだけどな。


「お願いします。まだ・・・、よく動かない。」


「分かりました。マリちゃんが使っていたスマートレンズはまだ使える様なのでお返しします。必要な時はそれで私にメッセージを飛ばして下さい。それと、早速ですが今晩の食事の味に希望はありますか?そこまでおかしなものでなければ概ね用意出来ますが。」


「・・・、バニラで。」


「分かりましたバニラ味としましょう。では。」


 三枝医師がスマートレンズを付けた後に出て行って、取り敢えベッドの上でずもぞもぞしつつスマートレンズを起動。スマホがないからある程度制限はあるものの概ね動く。病院のWi-Fiに接続出来れば・・・、接続されてる?そう言えば調べるとか言ってたし、スマートレンズに記録されたら事故当時の映像を警察に送るのに使ったのかな?


 見てもらえば分かると思うが俺に非はない。もらい事故な上に玉突き事故だけど、慰謝料やら保険金はふんだくるととしようかな?少なくとも10日近く仕事に穴を開けてるし、ここの治療費も馬鹿にはならないだろう。


 俺個人の保険金と合わせると億行っちゃう?死ななかったからいいものの端金でいいですよなんて言う考えはない。少なくとも誤差なんてものがある以上、日常的に何かしらの不具合やら障害がないともいえないし、今時点でも身体は思う様に動かせない。一応、手足やらの感覚は戻って来ている気もするけど、先生が言う様にカロリーが足りない。


 肉が食べたいけどこの分だと胃も大分弱ってるだろうから数日は流動食かなぁ・・・。そう言えばトイレってどうするんだろう?特に行きたくもないけど介助されると言うならやはり気恥ずかしい。


「まぁ、なんにせよ・・・、生きてるんだよな・・・。」


 普通の病室と違い窓のない部屋だけどそれでも俺はここで生きている。足の指をワキワキと動かそうとすれば多少の動いている感もあるし、手の指もクッションとシーツの感覚を伝えてくる。舌だって全部筋肉だからリハビリがてら口のかなで動かせば・・・。


「っつぅ・・・。えっ?なに?」


 口の中に血の味が広がる?えっ?犬歯に当たった様な気はしたけどそんなに鋭かった?いやいや、自分の犬歯で舌が切れるとか鋭利すぎるでしょ?これも先生の言う誤差なのか?血の味は直になくなりおっかなびっくり舌を這わすと、確かにちょっと長めで鋭い犬歯がある。そう言えばまだ俺は自分の姿を見ていない。


 手の感じからすると火傷後はないと思うけど、それなら誤差とはなんだ?耳はよく聞こえたし手は縮んだ様う感じはあるけど全身焼けどなら一周りか二周り小さくなっても不思議じゃない。何せいくら再生医療が発達したからと言って早々簡単に肉は戻ってこない・・・、あれ?俺の足って確か両足の膝から下が切断されてた様な・・・。


 再度足の指を動かすとやはり動いている感覚がある。確かに健常者と言われたけど、とうとう切断された足まで復活する様に・・・、なる為の物を俺は運んでいた!そうだそうだ!確かに俺は仕事で最新のバイオナノマシンとそれを使う医療用ポッドを運んでいたんだ!と、言う事は俺が最初の使用者になった?


「・・・、ヤバにゃい?」


 確か・・・、俺のスマートレンズの中の生体データって健康診断の物じゃなくてツキのデータ入れてたよな?いや、流石に本来の健康診断データを取り寄せて治療してるよね?一刻を争う事態だとしても流石にゲームデータを元に俺の身体を再生したって事は・・・。か、鏡!ヘッドギア付けられた時に頭をグリグリされたけど!そこに耳があるからそうされた訳じゃないと信じたい!


 ジタバタしたいけど身体は今の所指くらいしか動かないし、重い布団が邪魔で寝返りも打てやしない。そもそも筋力低下でまともに動けるのはいつだ?先生に言えば鏡を持ってきて姿を見せて貰える?そんなモゾモゾしている時、視界の端にある黒い棒がカランと言う音を立てて倒れた。


 そもそもこの棒は何?なんで病室に物干し竿が?少なくとも俺に物干し竿を持ち歩く趣味はないし、あの時も車で移動していて物干し竿なんて持ってなかった。いや、物干し竿はいい!今の姿ってどうなってんの!?てか、物干し竿なんか近寄ってきてない!?えっ?アレって物干し竿じゃなくてデカい針金虫とかなの!?



________________________

 

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 目覚めなかった被検体が目覚めた。当然の結果と追えば当然と言える事だが私は彼にどう話を切り出すべきなのか?現状で分析した限りでは分からない事も多い。まず1つ目はバイオナノマシンの状態。既に制御デバイスは体内に取り込まれ心臓に癒着してから電力供給を得て稼働している。


 切除して取り出す事も検討したが無理だ。既に今の姿で『雁木 真利』と言う人物は今の姿で登録され、切除して再度姿を変えようとしても今の姿として再生される。なら医療ポッドからナノマシンに指示を出したとしても、構築する生体データは最新のデータを元にする関係上今の姿になる。


 つまりの所手のは何処しようがないのが現状で、医療事故

として処理してしまいたいが、処理するにしてもどう処理する?ナノマシン自体は正常に稼働し今の被検体は健康としか判断されず、国へ事態を報告したとしても過去の姿を登録し直すとすれば医療システムの根幹へ介入しなければならないとして拒否されるだろう。


 確かに医療技術は発展し『人は健康であるべきである』と言う点に置いて今の被検体は健康そのものでなんの瑕疵もない。あるとすればそれは姿であり本人の心の持ち様だが、そうなると医療プログラム的にはメンタルヘルス方面へ流れてしまう。


 流石にそちらへ流れれば私の手を離れてしまうし、これ以上の関わりも持てなくなる。それは流石に不味い。今回のプロジェクト自体、継続的な身体再生による外的或いは内外問わず外科的医療の緩和策として発進した。


 本来なら指の再生や縫合する程の裂傷から始めていき最終的に欠損患者へとステップアップする予定だったし、検体として選定した健康な外傷及び欠損患者にも既に治療方針は伝えていた。しかし、今の雁木さんの件を考えれば一度白紙に戻すしかないのだろうか?


 いや、医療ポッドから出されたログを読めば治療そのものは理想的な推移で施されている。問題とするならやはり使用された生体データか。しかしここで物を言うのは本人が同意した被検体契約書で、その一文に『検体として治療した際に医学的不備が発生した場合は、主治医と相談して原因究明にあたる』とある。


 現状を考えれば今の狐娘になった原因は生体データと言う話で決着が付くものの、ゲームデータを元に治療したとして人と遜色ないのかは分からない。事実として彼には10本の尻尾が生えているし、耳の位置も頭頂部に来ている。元データを知る為に彼のゲームアバターを調べて見れば今の姿と酷似しているのだが、そうなるとフレーバーテキストがどこまで再現されているかも分からない。


 仮に彼があのゲームで人族を選び男性アバターを作成していれば、ここまでややこしくはならなかったのだろうが、それは既に過去の話であり本人の趣味趣向に文句を言っても仕方がない。助かっている点とすれば彼の出向が認められた事か。事故そのものもニュースになり、その治療の一環としてとして被検体になったので彼の会社としてもウチの病院への出向を素直に認めてくれた。


 保険金や見舞金としても事故を起こした者の乗っている車が社有車であり、言い逃れが出来ない証拠もあるので素直に会社が払ったと聞く。まぁ、事故を起こした当人は中々納得せずに電力会社相手に裁判を起こすと息巻いていた様だが、車に取り付けられているコンピューターを解析されれば警告があった事も明確になるだろう。


 その時が事故を起こした者の最後で、誰にも罪を押し付けられない時だ。自動運転ならハンドルを触らなくてもいい。しかし、だからと言って前を見ずに緊急事態に対応しなくていいと言う訳では無い。


「三枝主任、雁木さんって目覚めました?」


「あら、敷田さん。喜ばしい事に目覚めましたけど、今度はどう話を切り出すべきなのかが悩みものですね。今の所まだ姿には気付いてないみたいですけど、それも2、3日もすれば動ける様になって気付くでしょう。」


「見てる分には可愛いですけど、本人としては心穏やかじゃないでしょうからね。再度ポッドに入れて元の姿にするのは?」


「我々の一存だけではなく、生体データを握る国がその辺りは決めます。そして治療しようと何度検査しても雁木さんの身体は健康としか判断されない。私達に今出来る事は経過を見守るくらいね。」


 プロジェクトの副主任である敷田さんが話しかけてくる。縫いぐるみ等の可愛いものが好きと言う彼女からすれば、今の雁木さんの姿は好意的なモノだろう。うつ伏せに寝かされ尻尾が背中や身体を覆い顔だけを出している狐娘、何度か見に行っていた様だがその度に尻尾を撫でていたと言う。


「会ってみても大丈夫ですか?」


「そうね・・・、動けないから介護者として許可は出します。ただ本人の頭や心の整理がどこまで進んでいるかも、本人自身が自分の今の姿を見ていない関係上その点に触れればどう言った反応を示すかも分かりません。出来る限り平静でいられますか?」


「それは医者として大丈夫です。これでも外科的な手術で頭の開いたりお腹開いたりしてますからね。でも、雁木さん的には変身願望とかあったんじゃありません?わざわざ生体データフォルダ作ってそこにゲームアバター入れてたくらいですし。まぁ、私見ですけどね。」


「私見は私見であって本人の考えじゃありませんよ。単純にデータを間違って廃棄して取り寄せるのが面倒だったと言う、ものぐさの結果かもしれませんし。たまにいるでしょう?病院に来るなら事前に準備もしますが、生体データ的に見たくない数値があって健康診断結果を貰った側から廃棄する人は。」


「女性に多いですね。増えた体重見たくない知られたくないからって保存せずに捨てる人。投薬で痩せるにしても元の体重からどれだけ落とすのが適正か分からないと治療も出来ないのに・・・。」


「極度の肥満以外は基本的に運動療法がメインです。昔データがなければ投薬してもらえるなんて言うデマがあったせいでしょう。・・・、あら?雁木さんからメッセージが?」


「行くなら私も行きますよ〜。」



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「あっち行け〜!あっち行け〜!」


 頭の中ではジタバタするけど実際はモゾモゾ・・・。クッションがなんか逆だってるけどなんで!?ってもしかしてこれって尻尾!?それよりもなんでジリジリ物干し竿が寄ってくるの!こんな介護器具とか知らないぞ!?あぁ!物干し竿が布団か尻尾の中に!先生まだ!先生はよ!


「・・・?なんと言うかかなり手にフィットする?てか、溶け

てる?」


 指先にコツンと硬い手触りがしたと思ったら物干し竿がどんどん布団の中へ入っててくる。ただ足の指指には触れないし長さ的には足の方から先が出ていてもおかしくない。斜めに入っているのかと、どうにかこうにか首を動かすけど布団から飛び出した様子もないし何処へ行ったんだ?

 

「マリちゃんどうしました?」


「三枝先生マリちゃんって・・・、調教?」


「受け入れる下地を作るためです。それよりもマリ・・・、ちゃん?なんでそれがベッドの中に?」


「あれってなんですか?あの黒い棒。」


「アレは・・・、かつてマリちゃんだった物の一部です。取り敢えず引っ張り出してみましょう、敷田さん手伝って。」


「触っても大丈夫ですよね?」


 三枝医師と敷田さんと呼ばれて人が棒を引っ張るけど既に半分以上は多分消えている!えっなに!?本当になんなのこの棒!と言うか俺だった物の一部ってどう言う事!?


「痛い!痛い!!手が痛い!肩も痛い!」


「えっ!なんですかこれ三枝主任!」


「・・・、知りませんよ。戻りたいから戻ってるんでしょう?」


 物干し竿は既に右手と同化?していると言うか手の平にズブズブ飲み込まれてる?そんな状態で引っ張られたものだから手も痛ければ肩も引っ張られて痛い!生きてるから痛覚があるんだろうけど、なんなんこれ!一体どうなってんの!?


 諦めた様に2人が手を離すと物干し竿はそのまま手の平からズブズブと消えていき到頭なくなってしまった。身体に異変がないかとペタペタと手で触るが・・・、手も腕も動く?あんなに鉛の様に重かった身体が今は多少の気怠さだけ残して動いてくれる?


「えっと・・・、何が起こってるんですか三枝先生。」


「・・・、まず初めにマリちゃんは事故に合いました。」


「そこからなんですね三枝主任。」


「先程目覚めたのでそこからです敷田さん。説明するなら頭からでないと正しく理解してもらえません。」


「それはまぁ・・・、覚えてますよ。あの熱さも怖さも、両足が切断された痛みも・・・。問題はそこじゃなくて私はその後どうなったんでしょう?嫌な事も思い出しましたけど。」


「嫌な事?」


「その〜・・・、健康診断データを間違って廃棄してしまって取り寄せるのが面倒で、ゲームアバターのデータを生体データフォルダ作って入れてたとか・・・。」


「そうですね、それはマリちゃんの瑕疵ですね。私達としては緊急事態に即して一刻を争うと言う事で、その保管されていた生体データを使うしかなかったと言えます。特に事故発生時は大規模停電の影響で生体データの取り寄せも困難でしたから。その結果として・・・、マリちゃんはツキと言うアバターと酷似した姿となりました。」


 ジーザス・・・。横に置かれた温いクッションはクッションじゃなくて尻尾だったって事だろうし、ヘッドギア付ける時に頭をグリグリされたのはそこに耳があるからなんだろう。でも、戻れるよな?元に戻れるよね?


「先生、元の・・・。」


「残念ながら回帰するのは無理だと思って下さい。」


「なんでまた?」


「1つは制御デバイスが心臓に癒着して稼働しています。これは心臓の鼓動をエネルギーに変えて半永久的に稼働する物なので外科的な手術が必要となりますが、その手術事態がかなり難しい手術となります。また、今のマリちゃんは健康なので医療ポッドでのAIによる自動除去も使えません。更に言えば生体データとして今の姿が既に登録されてしまっているので、その生体データを変更する所から始めないと違法手術として私達もマリちゃんも警察のお世話になります。」


「生体データの書き換えから・・・、過去データってどれくらい残ってるものなんですかね?早期消去とは聞きますけど。」


「基本的に今が健康なら過去データは病歴以外治療後すぐに消去されますよ。特に外見的なモノは犯罪抑止の観点から医療用ポッドだけではなく、人による手術の場合でも速やかな報告義務があります。それに、美容整形の分野でも連続した手術は認められていません。最低でも半年は期間を置く事になっています。なので美容整形の場合はケースにも寄りますが、まとめて手術を行う事になります。それよりも滑らかに喋れていますね?」


「あっ!」


「元はどんな感じだったんですが三枝主任。」


「舌っ足らずな感じでしたよ。あの棒は残して置いて正解でしたね。何処へ行ったかまだ分かりませんが・・・。」


「そうだ棒!あの棒は何なんですか?私だったモノと言うのは?」


「アレは・・・、本来なら医療廃棄物となる物です。端的に言えばマリちゃんの焦げ後が集まってあの様な物となりました。」


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― 新着の感想 ―
謎の棒がにじり寄ってきて、手の中に入っていくって凄い恐怖体験ですね! トラウマになりそう・・・
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