閑話 8 それぞれの年末
「ふふふん〜♪ふふふん〜♪」
「な〜にがそんなに楽しんだ?」
「えっ!聞いちゃう?そこ、聞いちゃう!?」
「やっぱりいいわ・・・。」
「お掃除してぇ〜、ご飯作ってぇ〜、外でみんなの注目集めながらラブラブ夫婦だぁ〜って、見てもらってぇ〜。」
聞いてもねぇのに姫子が喋りだした。そう・・・、姫子が、だ。正月を控えても俺の仕事に休みはねぇ。正確には休んでも待機っつう名目が入る。それはいい。電気精神体やらはいつ出るか分からねぇ。特に季節柄出やすい時期なんてのもある。
だから、いつもは独り身のアパートで適当に飯食って寝て、世間がクリスマスだ正月だと言うのを横目に見ながら、何もないことを祈る。クソ面倒と言えば最近は出ねぇががんばり入道か?
大晦日にトイレに現れていたずらするクソジジイ。まぁ、それもトイレの神様なんて曲が昔流行って、居づらくなって出てこねえ。その代わりに、だ。
「そんなに片付けんでいいし、掃除も毎日せんでも・・・。」
「ダメ!コレは妻の仕事だよ!行けっ!掃除ロボ!掃き掃除は任せた!私は高い所の埃を先んじて落とす!」
「あ〜・・・、手伝うか?」
「えっ?旦那様はそこに座って寛いでてよ。お昼ゴハンに山芋とほうれん草の和え物、蒸し牡蠣のレモン掛け、ビール酵母、鶏レバーの時雨煮に、にんにくの黒焼き用意したから先に食べててもいいよ。」
「・・・、にんにくは臭くなる。」
「大丈夫、大丈夫!私以外の女に対する魔除けだから!」
一時帰宅・・・、いや。一時退院?なんにしても姫子が日常生活できるのか?マリちゃんから離れても普通に暮らせるのか?それを調べるために天野医院長と卜部さんと話し、12/30から翌年にかけて俺の家に来ている。
表向きは夫婦・・・。そう言う肩書で姫子が俺の家にいるのはなんもおかしくねぇ。おかしくねぇが、俺がいたたまれねぇ・・・。外を歩けば姫子が腕を組んでくるし『こーちゃん、こーちゃん。』と俺の名を呼ぶ。
そして、男どもから『な、なんでお前が?』と言うような視線が刺さる。優越感・・・、それをまともに感じられるほど図太ければなんも思わねぇんだろうが、女性と付き合いこそすれ今の今まで独り身なのは、俺がカッコよくもなくてどこか気後れしてたからだ。
「魔除けってな・・・。そもそも連日こんな料理ばかり食ってたら・・・。」
「襲いたくなった!?ガバッ!と襲いたくなった!?」
「ちげぇよ!精力付き過ぎて発散しようが・・・。」
「だから妻の私がいる!歳を考えてスタミナや体力回復にいい牡蠣、滋養強壮にいい山芋に、種も元気にしてくれるほうれん草・・・。」
ソファーに座ってる俺に姫子が覆いかぶさるように迫ってくる!ガチだ!分かってた、雪女が婿取りしたらそれこそもう、献身的に尽くされて外で使い物にならなく成るのは分かってたが、だ。そこまでグイグイくるか?まぁ、性格を選んだのは俺なんだが・・・。
「お前は嫁入りしたんだ、少しは新妻感をだな・・・。」
「裸エプロン?して欲しいなら今からでも・・・。」
「暖房効いてるけど、見てる俺が寒いよ!」
「なら、伝家の宝刀童貞を殺す服?あれの前と後ろを逆にすれば・・・。」
「ほぼ丸見えじゃねぇか・・・。」
「ごめんこーちゃん・・・、チラリズムへの理解が足りなかった・・・。それならフェティッシュに・・・、私の下だけ氷の鏡とかだす?いや〜、見られちゃうなぁ〜。短いスカートとか履いて、意味もなくなにかを拾うとか繰り返しちゃうなぁ〜。なんなら、雑巾がけとかしちゃうなぁ〜。はたき持って、あえて高いところとか登っちゃうなぁ〜。」
「・・・、本気でやるのか?」
「えっ?しないけど?あ〜・・・、惜しいと思った?惜しいと思っちゃった?」
「くっ!」
雪山の時の俺・・・、とりあえずグッジョブ。こう言うのでいいんだよ、こう言うので。女ってのはな、どこか思わせぶりで、男振り回して、それでいてこっちが1歩踏み込もうとしたら、スルッと1歩下がるくらいが好きなんだよ。
だからまぁ、ギャルっポイ性格を選んだ。それのおかげか、割と周りとも上手くはなれてると思う。例えばマリちゃんとも畏まらずに普通に話すし、敷田さんやら医院長ともあけすけなく話す。
コレが古風ならどこかよそよそしさも出るし、奥ゆかしいなら主張もどこか隠した風な態度になる。あと、地味にボンキュッボンの体はいい。今も覆いかぶさって来て目の前は胸でいっぱいだし・・・。
「それともぉ〜、反応しちゃった?」
そう言いながらすでに姫子は俺に覆いかぶさるではなく、すっぽりと抱き着いて来ている。くっ!胸が柔らかい、どこか雪山の匂いがする・・・。本当にどうしたもんかなぁ〜。一応、検査では臓腑もある。臓腑もあるがナノマシンで作られている。
ただ、そのナノマシンの大元がタンパク質と言うのが厄介で、人の身も水分を除けばほぼタンパク質で出来てると先生からは聞いた。つまりは、新しい細胞を持ったポスト・ヒューマン・・・。
「言わん。それより、昼はいいとして夜の食材がねぇだろ?」
「ないよ。普段カップ麺とかコンビニ弁当ばっかりだったでしょ?ゴミ見たら分かるんだからね!」
「むしろそれしかねぇから、一発だろ。一応、毎回サラダは食ってる。」
「それは偉い!死ぬまで面倒見て貰うし、面倒見るんだから時間は長いほうがいいよ。じゃぁ、正月の買い出しにいく?アワビに〜、猪肉に〜、黒豆、鴨肉・・・。」
「あん?おせちでも作る気か?てか、作れるのか?」
「えっ?普通に作れるよ?なに?今の人って料理もできないの?確かに、独り身なら買うほうが安いってデータもあるけど、大家族目指すなら作るほうが安いじゃん。」
「その大家族が珍しいんだよ。今の御時世、子供は多くて2人。その2人でも多いって驚かれる。まぁ、それだけ娯楽も増えた。同性婚してそれぞれのDNA混ぜて子供作るやつも増えた。人口は微増だがな。」
「味気ないから普通に作ろう!」
「普通もなにも、同性婚やら病気以外は・・・、分娩恐怖症の判定が出れば一応は・・・?」
「22人作るとして最短で22年?いや、私が頑張れば双子とか三つ子が!一姫二太郎はマストでしょ・・・。」
「そのサッカーチーム作ろうとするのやめろ!しかも家族対抗で勝負させるな!」
「えっ?子供ってすぐ死ぬし。七五三ちゃんとやらないと!」
「今は死ぬほうが珍しい!」
「だからって、少なくていいとは限らないよ。何回でも夫婦の愛は確かめないと!そして、巫女さんに桃をもらわないと!」
「・・・、まて。なんで桃が出てくる?」
「ん?だって、種は必要じゃない。」
________________________
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「華澄ぃ〜。」
「なんですか、座敷童子。私はこの前から機嫌が悪い。」
「ちょっと暇だから散歩したくらいだろ〜。ずっと家にいても暇のんだよ。ホコリも被るし、飯も食えねぇし、走り回りもできねぇ。それがちょっとお呼ばれして出ていったからって、なんも変わらねぇよ。」
「それでも座敷童子を見れば、幸運が舞い込むと言うのは通説です。あの時点で貴方を座敷童子と認識した人はほぼいない。だから、被害もない。それだけの話でしょう?」
「なら、マリの家行っていい?あそこなら桃も食えるし蜂蜜もある。木登りしても文句言われねぇし。」
「それは卜部さんの許可次第です。それよりも、今は神社仏閣行脚の最中なんですから、少しは威厳を保ちなさい。」
「いらねぇ、いらねぇ、そんなもん。勝手に有難がって勝手に怖がるだけだ。」
年の瀬を控え、真利のところに入り浸りたかったけど、そうも言っていられない。毎年密かに私達宮内庁職員としてやるのが、座敷童子達を神社仏閣に連れていき運気を上げること。
科学全盛期の今で、それを古いと言うところもある。しかし、それを面と向かって言えないのは、来ない年の賽銭が如実に減るからだ。世知辛い世の中だけど、お金がないと修繕も人も雇えない。それに何より、御神体だけでは限界がある。
なにせ今の人はその神社がなにを祀っているかを知らない。今の人は寺で上げる経の意味を知らない。そして勤める神職もまた、過去のように厳しい修行をするわけでもない。確かに一定数、そう言った修行をする人もあるけど、全員でもなければ普通に肉も食う。
「それでも、畏怖は必要でしょう?」
「ガキを畏怖するのは自分より後を生きるから、仕打ちを恐れるのは自分に返されるから。そしてなにより、頭の回るガキは今分の知らないなにかを見つけてくるから。今の時代はそんな時代じゃねぇだろ。で、今からどこだよ。」
「師匠のところです。」
「師匠?誰だっけ?」
「鞍馬 鬼一です。」
「あ〜、天狗の。あいつは好きだぞ!頼めば空も飛んでくれるし、雪山にも連れて行ってくれるし!」
(それは師匠が貴方を殿付けで呼んでるからですよ・・・。)
そんな呑気な座敷童子を連れ、雪の山道を車で走り、静かな温泉街を通り抜けて師匠のいる神社へ。途中、どうしてもジュースが飲みたいと駄々をこねるので、微糖の缶コーヒーを飲ませたらうまそうには飲んでいた。
「あ〜、またマリに桃でも貰うかなぁ〜。一度動けるって知っちまうと不便でならない。」
「動きたいんですか?」
「そりゃあ、ガキは走り回るもんだ。犬は喜び庭駆け回り、猫はこたつで軽くなる?丸くなる?」
「軽くなる・・・、干からびて死んでますよ。」
「丸くなっても死ぬ時は死ぬ。食えないなら死ぬ、寒けりゃ死ぬ。この世は死んでばっかり、死んで死んで産んで産んで、そしてまた死んで。それが理不尽だから何かに縋んだろ?俺みたいなガキとかにな。」
「人は使えるものはなんでも使う。」
「そりゃそうだ。使えねぇから俺たちは弾かれた側だけどな。だから、祭り奉って貧乏神も福の神って言い張りやがる。」
ゲラゲラ笑う座敷童子を車から抱っこして、雪道の山道を進み師匠のいる境内へ。普段なら参道の雪かき程度ですませるところを、植木の雪まで落とし南天の赤と緑を見せているとこにも、妖怪としての力関係が見えてくる。
「・・・、よくぞ参られた座敷童子殿。それと弟子。」
「去年ぶりだな。なんか面白いことがあったんだろ?話聞かせろよ〜。」
「ええ、望まれるなら。弟子は茶を、茶菓子は棚にある。」
座敷童子を抱っこしたまま社務所に向かう。その間も傘を差して雪よけする師匠の姿は、やはりどこか硬い。座敷童子と言うのは妖怪、電気精神体含め嫌う者が多い。いや、語弊がある。最初から居ないものとして扱う。
それが心穏やかでいられるから。それが理不尽と感じずにすむから。そして、今の自分たちへの言い訳として誰かを使うことにならないから。
台所で湯を沸かし茶菓子を用意しつつ、師匠たちの話に聞き耳を立てるのは忘れない。人の協力者と言う立場であっても、そのスタンスは完全に人側でもなく、不要な口は開かない。木本さんなら、そのあたりは上手くやるのだろうが、私は弟子だ。
「へー、雪女がね。よかったじゃん。」
「それによりぬらりひょんも・・・。」
「勝手にすりゃいいよ。今更のこのこ人の世に出てこそ泥やっても捕まるだけ。電気精神体なら気づかれねぇけど、それでもバチバチにやり合ってんじゃん。どっかの会社のデータが流出したとかって。」
「あれは人が悪い。勝手に欲に目が眩み、被害を出しただけです。」
「だから悔しいんだろ。曖昧なままなら自分たちの利益になったけど、なにかと調べられて理由をつけられるからさ。そう言えばこの前マリっとこに遊び行ってきた!」
「マリ・・・、狐巫女の?あの文を伝って?」
「そうそう。面白かったぞ!バイクで走って家に行って、桃食って木登りしたり。で、面白いのがいた。」
「面白い者?それは妖精王と言う者か?」
「そう。そんときは寝てたけど、あれは化ける。多分、面白い風に化ける。そんときはAIも大慌てかもな。」




