17話 尻尾どうしよう?
フイッシュサンドの話かと思っていたら海魔討伐とな?ハイド改めガイ・・・、確かにモンスターは食材として流通してるけど海魔て相当でかいぞ!やれと言われれば10匹くらい狩るのはいいけど、今から話される内容が怖い。
「引き受けてくれてありがとう!なんでもバーサーカーフイッシュが美味いんらしいんだ。滋養強壮、活力満点、昼にヨシ!夜にヨシ!俺にヨシ!嫁にヨシ!他の街では結構食べられてるって聞くけど、オーランドではまだないから目玉商品になるはずだ。」
「バ、バーサーカーフイッシュ・・・、もう少し大人しい魚を使わない?例えばサザナミ金魚とか満腹フグとか。ほら、満腹フグは少しでもお腹いっぱいになるから満腹フグって言われてるし。」
「それじゃ駄目だ。動いてもらってパンを買って食って貰わないと売上が減る。特に地域は指定しないけど出来るだけ逞しい(LV90以上)が欲しいな。」
藪蛇った!中級モンスター10体指定討伐かぁ〜・・・。無駄口叩かなきゃレベル指定なかったのに!まぁ、期限は2日だし1日5体狩ればどうにかなる・・・。でもバーサーカーフイッシュかぁ・・・。
バーサーカーフイッシュは平たく言えばマッチョで褌を締め、長い手足の生えた魚である。水系魔法を使い高い魔法耐性を備え、更に手足が生えているので格闘系アーツを使う。大きさ的には2mくらい?そんな不気味なマーマンモドキが必ず2〜3体で徘徊していて、1体釣っても残りの魚も襲って来る。
クラーケンとバーサーカーフイッシュどっちが嫌いかと言われると、僅差でクラーケンだけどそれでもやりづらい相手である事に変わりはない。フレにヘルプ頼もうかな?少なくともハヤトさんやらフロムさん達がいれば有利に事が運べる。
そうなると今晩と明日の夜が狙い目かな?まぁ、ソロで突っ込んでみてから考えるか。2体だけなら単純計算すればレベル的には勝ってるし。
一旦俺も領地に戻り倉庫の中をゴソゴソ漁って見るけど、これって言う装備がないな・・・。そもそも今持ち歩いてる装備が1番バランスがいい装備だし、倉庫の中の物は覚醒させてない武器やらイベント配布装備やらばかり。どうした物かと尻尾をウネウネさせながら考える・・・、そう言えば尻尾が使えるって事は阿修羅っぽい事が出来る?
阿修羅は神族のアバターで腕が4本ある。人気と言えば人気だけど中々4本の腕を使うと言う感覚を掴めずに盾2枚持たせて剣やら銃やら使うと言う、質実剛健で安定感のあるアバターとなっている。無論、腕4本使えれば当然強い。それを尻尾でやったらどうだろう?
何気に尻尾装備はある。魔族なんかは尻尾の生えたと言うか、ドラゴノイドとかは普通に尻尾にパイク付けて振り回してるし器用な人は本当に猿の尻尾の様に木にぶら下がったりもする。それを考えると俺の尻尾が自由に動かせるのって結構アドバンテージが高い?
「取り敢えず試してみるか。サブアームが許されるなら尻尾アームも許される・・・、はず!」
そうは言っても何をつけよう?定番と言えばパイク。振り回すだけでダメージが出せるお手軽尻尾装備だけど、振り回すにしてもドラゴノイドほど長くはない。なら他の方向から考えてみる?
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「三枝主任!」
「どうしました敷田さん?」
マリちゃんは元気になった。食事による栄養補給が思いの外功を奏したのか血色もよくなり筋肉痛的な痛みもなくなった様だ。まともに考えるならバイオナノマシンが安定生産され、肉体を極めて安全かつ安定的に健康にしていると考えられる。
それ自体は喜ばしい成果だ。目標としていた継続的な肉体への医療行為による健康増進、投薬のみならずナノマシンの力を借りての高度な再生医療行為。その点に置いて雁木 真利と言う人物は文字通り生き証人と言っても過言ではないデータをだしている。
惜しむとするならやはり姿か。亜人化、ミュータント化、或いはミッシング・リンク的な進化。これが耳が長いだけのエルフならまだ人の中に紛れ込める。耳当てでもニット帽を被るでもして外見的に違うが、人と同じ位置にある耳を隠せばいいし、野菜以外受け付けないならベジタリアンとして生きればいい。
しかし、彼或いは彼女の場合は人とは違う耳があり尻尾がある。外での生活を考えるなら、それがそうであって不自然ではないと思わせるだけの根拠か、若しくはそうでなければならないと言う必要性を示さなかればならない。
「マリちゃんの尻尾がウネウネ動いてます、耳もピコピコと。」
「それは・・・、普通なのでは?」
「いやいや、三枝主任。人には尻尾もピコピコ動く耳もないんですよ?それがスムーズに動いてるんです。」
「なんだか狐につままれた様な気分ですが、敷田さんの見解は?」
「制御デバイス側を担当した私としては、マリちゃんのやってるゲームが1つの要因だと考えています。そもそもVRゲームは不自由な方達に対する補助と言う側面があります。例えば腕を喪って幻肢痛を発症された方に対しては、昔なら鏡を使って痛みを緩和していましたが、今はリハビリも兼ねて義手を装着してゲームをしてもらい新たな腕があると言う感覚を掴んでもらっています。それから考えると、ゲーム中で耳や尻尾を動かせば動かすほど・・・。」
「現実でも動かせる様になると?」
「はい。マリちゃんのゲーム撮影動画を借りて見ましたが、耳や尻尾はかなり動いてましたし、身体自身も相当な運動量でした。仮にマリちゃんが生体データとして保存していたものがゲームのテキストまで含めていたとなると、更に訳の分からない事をするかも知れません。」
「それは・・・、例えば魔法ですか?ゲームでは定番で極々ありふれた奇跡・・・。いえ、どう魔法を発症するかは既に超能力と言う形で可能性が示唆せれていますね。電気を出す、それは細胞を活性化させ膜電位を利用すれば可能とされていますし。」
「でもそれって制御器官がないから無理・・・、制御デバイス?」
「ええ。アレは本人の脳波干渉を受けるでしょう?そしてマリちゃんは体内含め全身に大火傷を負い人体を構成する大半・・・、いえ。半分を超える量がバイオナノマシンとなっている。つまり、本人がやり方さえ理解出来てしまえば魔法ないし超能力的なものが使える。多分鍵となるのは大麻でしょう。」
「病室にあったあの黒い棒ですか?確かマリちゃんの焦げた皮膚等が集まって出来た物だとは聞きましたけど、そんなに大袈裟なものなんですか?」
「大袈裟と言うよりはマリちゃんの分身体といった方が正しいかも知れません。私がわざわざあの黒い棒を残したのはアレにもバイオナノマシンが入っているからです。本来廃棄物ならあの様な形にしなくてもいい。しかし、アレはあの形でマリちゃんと一緒に出て来ました。そしてマリちゃんに取り込まれた。それこそゲー厶でインベントリに装備品をしまうように。」
「・・・、もしかして取り出せます?」
「不確定ですが可能性は高いですね。人体で取り外して再装着可能なものはありません。しかし、それを補填すると言う形なら話は別です。それこそ義手義足もそうですし、培養した臓器も再装着された物。その過程を体内で行うとすれば・・・、いえ。ナノマシンでゼロから補填するには些か体積が大き過ぎる。」
「そうなるとあの棒は吸収されてしまったんですかね?概ね炭素とたんぱく質の構成体ですし。」
「吸収と言うよりは人にない部分を補助しているのかも知れません。マリちゃんの尻尾を手の指と表現しましたが、その大きさは手の比ではない。そう考えると骨の強度不足は考えられますね。」
「つまりスムーズに動く為にはあの棒の吸収が必要だったと?なら取り出すのは無理なんじゃなないですか?」
「取り出しても支障がない様に筋肉が増加してるのかもしれません。そもそも動物の尻尾、例えば猿は尻尾だけで体重を支えるだけの筋力がある。10本に分散されている分、1本辺りの筋肉量は低いかもしれませんが、総合した場合は相当量になるかもしれませんね・・・。なんにせよ今晩の検査によりけりですよ。そう言えば昼食を運んだはずですがマリちゃんは食べましたか?」
「腹ペコと言っていたので多分持って行った量を・・・。」
人体は人が考える以上に効率的に動いている。例えば制御性T細胞は自己を攻撃する免疫細胞を抑制したりと。そう言ったものを更に効率的に動かしつつ置き換わり、データとして健康と言う数値を出せると言うなら・・・。
「マリちゃんはそこそこ大食いかもしれませんね。」
「そこそこ?かなりだと思いますよ?朝昼の食べた量を考えると成人男性の数日分を食べてますし。それこそ胃下垂と満腹中枢が働いてないのではと思うくらい。」
「人体は常に細胞分裂を繰り返しています。そこにナノマシンの生産が加われば倍、マリちゃんの損傷の度合いを考えれば初期に取り込んだナノマシンでは足りず、取り敢えず覚醒出来るまで漕ぎ着けて・・・、もしかしてマリちゃんは完全に完治したと判断されていない?」
「えっ?でも医療ポッドは完治したとログを残してましたよね?」
「それは人として健康体と言う認識です。ゲームデータと言う未知の指標を渡された医療ポッドは外見を作り、中身はナノマシンの生産指示に任せたのかもしれません。現にマリちゃんはゲームに連動する様に動ける様になっています。」
面白いケースだ。確かにゲームは医療行為の延長線でリハビリにも用いられる。そのリハビリの部分をポッドとナノマシンがゲームを前提として構成し、マリちゃんはゲームをリハビリとして受け入れながら楽しんでいる。
これが苦痛を感じたり忌避感を持っていれば脳波が拒否反応を示し、ナノマシンも別方向のアプローチを行うかもしれなかったが、数奇な運命は数奇なまま進み人から逸脱した存在と・・・、妖怪?確かマリちゃんのデータには妖怪で九尾の狐を超えた者と言う称号があった。
仮にそれを最適化しようとナノマシンが動いているとしたら、マリちゃんは本当に・・・。バイオナノマシンによる延命は確かに私も設計段階で考えた。全ての細胞がナノマシンと入れ替わってしまえばテロメアによる劣化はなくなり、脳も正常に保たれ続けるのではと。
しかし、それはあくまで全ての細胞が入れ替わる事を前提としていたし、人のアポトーシスは強力でそこまで行く確立は極小以下だと考えたいた。だがその極小以下は起こったのかもしれない。治療段階から体内外問わず細胞の半数以上をナノマシンで再生させ、人を健康に生かすと言う指示の元に。




