14話 ハヤトさん
スライムをサンドバッグにしたり、四方八方から襲って来るゴブリンを叫びながら殴り倒している人の横でスライムから核を抜いているけど、もうちょい動く様なモンスターも欲しいな。
「うっし!スライムシャドウ終了っと、狐娘さん煩くしてごめんなー!」
「いいぇー!大丈夫ですよー!」
スライムやらゴブリンをボコボコにしていた人が話しかけて来た。神族なのか尖った耳が見えるので多分エルフだろう。基礎物理ステが低いのにモンスターを殴ってるって事は殴り魔法使いとか?
トラブルオンラインの戦闘スタイルの中でたまにいる殴り魔法使い。それ即ち魔法をほぼ全て自己バフに回して重ねがけし、物理でぶん殴る魔法使い。リジェネやらも使うとかなりしぶといし、神族でやるならMP切れもほぼないし高倍率のバフを掛けてそのバフ切れもない。
1つ難点を言うならひたすら動くので脳的には結構疲れるとか?なにせアーツは選択して出せるけど、戦闘を組み立てるのは自分だし格闘技未経験だと格闘ゲームで見た様な動きになる。
モンスターと戦うならそれでいいけどPvPだとフェイントやらアーツじゃない動きで翻弄されたり、逆にやり込んでるゲーマーならゲームならではの動きで翻弄したりと剣にしろ格闘にしろ結構人気があるんだよね。
「そう言えば録画してて声入ってますけど大丈夫ですか?」
「ん?配信者さんか何か娘さん。別に声くらいなら・・・、声入れて撮影してもいいからPvPやってもらえないか?」
「PvP・・・、いいですけど格闘はあんまり使えませんよ?」
「いいよいいよ。肉無しAIとやり合ってても歯ごたえないし、竜やらに挑んでも人と形が違うからどうもね。辻斬りスタイルも一時期考えたけどアサシンPKは面白くない。」
「あ〜、イベントじゃない限りPK1日5回までって制限もありますからね。やっても旨味がないんですけど。」
「そうそう。誰にPKされても5回以上はその日PKされないし、やる方も5回以上PK出来ない。PvPは別だからやるならちゃんと申し込んで承諾してもらってからだな。PvP受けてもらうからには何か出すけどなにがいい?」
「う〜ん・・・、撮影許可貰ったからそれでいいですよ。色々あってリハビリ中ですし。フィールドとかレベルはどうします?レベルキャップなしだとそのままのレベルで戦う事になりますけど。」
「レベルはそっちに合わせるさ。これでもレベル200は行ってるしな。回復アイテムはなしで魔法での回復もなしでどうだ?」
「回復はいいとしてレベル200・・・、50レベル差がありますけどいいですか?」
「いいぞ?フィールドはこの森で頼む。PvP専用フィールドでやるよりやりがいがある。」
この人はPvPジャンキーなんだろうか?趣味で格闘技を観戦する人もいるし、その延長線でのめり込む人もいる。なんにせよ相手・・・、ハヤト2564836レベル205からPvPの申込みが来ているので承諾して位置取りへ。PvP専用ならフィールド礼て始まりだけど、そのままのフィールドを採用したので準備時間がある。
とりあえず真正面からは避けてヒットアンドアウェイかな?レベル差45と言えどゴリゴリの殴り魔法使い相手に真正面から事を構えたくはない。ぴょんぴょん跳ねて木の上へ。PvPはデスマッチじゃない限り最大5分と制限があるけど、ハヤトさん相手なら俺が逃げない限り決着がつくかな?
開始の文字が表示されてカウンターが減りだす。誘ってるのか森の真ん中で悠々と構えてガンガンバフを積もうとしてるけど、流石にそれを見逃すほど優しくはないかな?
「囲え狐火!更にイフリートハンマー!」
「アンチマジックアーム!アストラルアーム!渾身!」
「やっぱり殴魔!」
魔法防御を上げて狐火を叩き落としつつ、妖精やらゴーストを掴めるアストラルアームで振り下ろされたイフリートの拳が殴り返される。盾じゃなくて籠手だからジャストガードは出来ないだろうけど、側転緊急回避も入れつつ木の上に向かってきてる。流石に距離は詰められたくないので、木の上を移動しつつ・・・。
「声に応えよ妖精達!クラフトマイン!草結び!」
「また変な魔法を!」
「発生シナリオは楽しいですよ!?」
光るオーブの様な妖精達が目に向かい矢を放ち、足元からはスタン&バインドさせようと草が延びる。一瞬でも引っかかってくれれば地雷で爆破出来るけど、魔法レジスト値も高いな・・・。神族って速度と魔法攻撃力が高いのよね・・・。逆に魔族は魔法防御と物理攻撃力が高し。
「シャドウステップ、ミラージュボディ!さて、どれが本物か分かるかな?」
シャドウステップで分身したりハヤトさんが更に蜃気楼で増える。一応、ミラージュボディは目眩ましじゃなくて本来の力の半分の攻撃力を有するけど、HPは1なので侮らなければまとめて吹っ飛ばせる。
ただこのスキルってアサシン御用達なのよね。盾に切り替える時間も惜しければ分身を盾にする。HP1って事はすぐ死ぬ代わりにそこにいるもの判定してくれるし、ヘイトばら撒きなんかもやれる。まぁ、それで上位モンスターだと一気に本体ごと薙ぎ払ってくるけど・・・。
「分からないので・・・、シャイニングバースト!」
「うげっ!分身出したら出した瞬間に消された!」
「ドーモ、ハヤトさん。MP回復前に畳みますよ!双子の雷神招来!もういっちょ!朱雀舞!」
「砂上の盾!息吹!オーバーリビドー!」
「ふへへ・・・!イマイチボスには使い勝手悪いけど今ならやれる!」
双子雷神がバコバコランダムに雷を落とし、天空を舞う朱雀がコレまた森に炎の羽を降らせる。覚醒大麻様々!コレを出してもまだ余力もあるしMPもガンガン回復する!やはり覚醒大麻は微課金に合法!って、マジか!
砂上の盾は魔法で作った盾で1回だけ攻撃を無効化してくれる。本当に1回だけでMP消費も激しいのであんまり使う人はいない。しかし、その1回に賭けて更に速度を上げて雷と炎の中を突っ込んでくる。流石にノーダメじゃないけど、既に相手有利な間合いだな。ただ、木の上って言う格闘戦向けじゃない所がまだ救いとか?
「狐の嫁入りからの百鬼夜行!皆さん〜、邪魔してくださ〜い。」
本来なら妖怪やらがやって来て共に戦ってくれるスキルだけど、狐の嫁入り中は召喚したモンスターは攻撃を辞め平伏する様に攻撃を辞める。割と凄いのはドラゴン呼んでも平伏する事とか?朱雀や双子の雷神も攻撃をやめてるけど、抜け道としてデバフ掛けれるモンスターはデバフをかけてくれるよのね。
「ヘビーナッ・・・!」
「それは袖引き小僧ですね〜。パイルスラッシュ!」
殴りかかろうとして来たハヤトさんの腕を袖引き小僧が引いて行動を中断、その隙に大麻を構えて突進突き切り出すけど肘と膝で挟まれてブロッキングされた。
「貰った!」
「なんのなんの!」
膝をおろしながらの振り下ろしのチョッピングライトをナインテールでジャストガード!身長が低いと言う事は上から下に振り下ろす時に距離が若干あると言う事なんだよ。『カコンッ』と言ういい音と共に腕が跳ね上がり、捉えられていた大麻が抜ける!
「無拍子三段!」
「うぉぉぉ!!!!」
額、跳ね上がった右腕でガードされた。左肩、滑り込ませま左手でガードされた。よくもまあガードする。息吹は集中力がリアルに上がると言われてるけど今度やってみ見ようかな。
「最後!」
「うん、最後!」
大麻は2度ガードされて跳ね上げられた。なら斬撃はまた読まれるだろうし次はカウンターが飛んでくる。なにせ無拍子が2回も目で追われて反応されてるんだし。でもこれで両腕の位置は固定出来たし打撃を放てるのは左手のみ!飛び込みながら右に回りつつ身体を折り畳み、尻尾を立てて更に姿勢を低く!
「神速拳!」
「打刀:影打ち!」
カウンターで飛んできた拳は尻尾にぶち当たりちぎれ飛んだけど、再生も完了した9尾を腕に巻き付けハヤトさんの下っ腹に掬い上げる様に渾身の柄打ち!壁はないけど腕を固定されたら逃げられないだろ?衝撃の瞬間に尻尾を離すとハヤトさんが軽く浮く。しかし、その重さおも柄打ちの1点に集約されてカウンターと相まって大ダメージ!
「これでちょうど5分ですね。」
「お手合わせありがとうごさいました。流石はカンストプレーヤーですね。」
「ゲーム楽しんでただけですけどね。あれで時間残ってたら次は湖の上を走る事になりました。」
「水蜘蛛ですか、マスターしてますけど水の上で踏み込みは辛いなぁ〜。よかったらフレの願いしていいですか?」
「いいですよ。色々あって時間的な余裕もありますし。」
「ありがとうごさいます、そう言えば配信するならチャンネル教えて貰っていいですか?自分の動きもツキさん視点で見てみたいですし。」
「あ〜・・・、撮影はしてますけどUPするかは決めてないんですよ。動画データだけなら今渡せますよ?」
「なら下さい。趣味でボクササイズやってるんですけど、わざわざ撮影ドローン飛ばしてまで自分の動きを見るのが恥ずかしくって・・・。こう言うゲームなら撮影しても恥ずかしくないんですけどね。」
「その気持は分かりますよ。生身を撮影するとなんだか恥ずかしいですもんね。」
生身を撮影と言うか今の姿を見られるとヤバい。流石に解剖される事はないと思うけど、下手すると一生モル狐な訳で・・・。三枝先生達は社会復帰プログラムとか言ってたけど、機械的な認識はいいとして人の目がなぁ・・・。
そんな事を思いつつハヤトさんと別れて街へ。途中、なんだかよく動く尻尾が気になり色々試すと、仰向けに寝たままでもシャカシャカ動いて尻尾で走れる・・・。うつ伏せでやったらGっぽくなるのでやるなら尻尾の上に座ってから走るとか?現実でもこれって出来るのかな?
歩くのが面倒とは言わないけど、動物くらいには俺の尻尾も動くみたいだし・・・。やめよう、汚れるのも嫌だしガムとか踏んだらそこだけ毛刈りしてハゲ尻尾になる。時計を見ると昼だったので一旦ログアウトする。
配信する予定はないけど仮にするならアイコンどうしよう?面倒だから頭と言うか額から上だけ写して耳を見せるか。流石に自分の顔をアイコンにするのは気が引けるし・・・。
メッセージの欄が点滅しているので開くと川端部長から。元気になってよかったとか、なにか障害が残ったのかと書かれていたが、どう説明しようか・・・。面会は謝絶されてるんだろうし元気だと言っても音声メッセージを送るのもなぁ・・・。
自分の尻尾を手繰り・・・、寄せなくても動かせたのでモフモフ。枝毛とかないので素直に触り心地がいい。そう言えばあの黒い棒と言うか大麻ってどうなったんだろう?
怖いから目を逸らしてたけど、身体の中にあるのかな?流石にゲームじゃないからインベントリから取り出す訳にもいかないし、寧ろそれで取り出せたら更に不思議が加速する。なんにせよ夜の検査待ちかなぁ〜。
コンコン
「どうぞ。」
「マリちゃんお昼ですけど食べられます?朝結構食べましたけど。」
「大丈夫と言うか腹ペコですよ敷田さん。なんと言うかこう・・・、シャトルラン何往復もした様な感じですかね?」
朝ほどまでではないけど腹は減った。それにちょっと汗ばんでいる。風呂かシャワー浴びたいけど大丈夫かな?まぁ、なんにしても先ずは昼食から!
「運動してないと言うか、ここで出来る運動って精々筋トレとかストレッチなんですけどね。自分で食べられますよね?」
「ええ。それは大丈夫ですけど、私への面会って謝絶中ですよね?」
「そうなりますね。少なくとも今晩の検査が終わるまでは外出出来ませんし外部との接触・・・、文章だけならいいですけど音声も控えて下さい。」
「分かりました。もう少し悠々自適な生活を楽しみます。」
「そう言えば尻尾よく動きますね。焼き肉弁当ですけど好物でした?」
「単純に腹ペコなのと、ゲームで尻尾動かしたからですかね?まぁ、そんなわけないですけど。」
「ゲームで尻尾を・・・、撮影とかしてませんか?」
「してますよ。リハビリするなら撮影して客観視するのも大切ですからね。ゲームって言ってもお手軽リハビリ体験システムですし。」
「やってるのはトラブルオンラインだけでいいですか?」
「ええ。他にもいくつかしてましたけど、今はコレだけですね。」
「なるほど・・・、撮影データは後から送って送っておいて下さい。焼き肉弁当は・・・、とりあえず4つあるので食べたいなら全部どうぞ、ては!」




