12話 無理ゲー 挿絵あり
「服も着ましたし簡単な検査から行きましょうか。その前に確認しますがあれだけ食べてお腹の方は大丈夫ですか?」
「大丈夫と言うか、かなり元気です。筋肉痛も引いたし身体もちゃんと動きます。」
肩をグリグリ回してみるとスムーズに動くし、手も普通に物を摘めた。起き抜けの身体の動かなさは嘘の様になくなったけど、重心の違いに慣れるにはもう少しかかるのかな?今は垂れ下がってる尻尾も・・・、尻尾を立てるとパンツが丸見えだから下げておこう。地面にぞろびかないならいいし。
「では先ず口を開けて舌を出して・・・。」
「あ〜・・・。」
検温やら体重やら測定するけど、身長って耳込みでいいんだろうか?まぁ、潰されて痛い事はないけど、耳たぶを折り曲げられたような感じで違和感がある。聴力としては前からはよく聞こえるけど、後ろからは前より聞き取りづらいかな?ただ、耳も動かせるらしいので練習すればいいのだろうか?と、言うか耳って動かせるの?
確かゲーム中では勝手にピコピコ動く事があったから、それに慣れればいける?自分の身体ながら分からん。血液検査の結果を三枝先生に聞いたけど、数値としては人として健康らしい。ただアレルギーはないものの鼻が慣れるまでは臭いに敏感で、ネギやらニンニクやらの臭いが強い物は避けた方がいいかもと言っていたな。
「ここで出来そうなものは言いとして、医療ポッドに入れたいですよね。あの棒の件も気になりますし。」
「そうですね・・・、今のマリちゃんをそのまま外な出すのは流石に混乱の元なので、夜間帯等の人がいない時間帯を狙うとしましょう。」
「やっぱり目立ちますよね、尻尾はロングスカートで隠せますけどお尻の方は盛り上がるし耳は隠せないし。」
「バニエで広げてお姫様スタイルとかやります?元から広がってるスカートなら違和感はないですし。」
「それだと耳が目立ちますよね敷田さん。私も洋服やコスプレ衣装には詳しくないですが、出来れば服装としても違和感のない服を探しましょう。」
「狐で違和感のない服・・・、マリちゃんはゲーム中では巫女服でしたよね?」
「基本的には巫女服ですけど、流石に狐巫女が病院にいたらおかしくありません?」
「流石にお祓いで呼んだとしても無理かぁ〜。ウチの病院って国とも繋がってるけど流石に霊界とは繋がってないからなぁ〜。とりあえずネットにダイブして私はスカートを漁ろうかな。」
「私の方は夜に向けてポッドの準備をしましょう。」
「その間私はどうしましょうか?」
「マリちゃんは電子書類へサインをお願いします。ペーパーベースの物は後で持ってきますが、電子書類も多いですからね。それが済んだら部屋から出ない限り軽い運動やゲームはお好きにどうぞ。」
「分かりました・・・、そう言えば私のスマホってやっぱり?」
「事故で焼けたので新しい物を買うしかないですね。スマートレンズの方も違和感があるなら買い替えて下さい。送り先はこの病院で受取人名は私の名前か受付として下さい。」
「分かりました。流石にスマホがないとなにかと不便で。」
スマホが焼けたのは痛いなぁ〜。クラウドに上げてるとは言え再度設定やDLを考えると時間もかかる。それにマイデータとかもなぁ・・・。いや、この姿で登録されてるならマイデータも使えるか。
技術の発展は目覚ましく、本人の個人情報はマイデータとして国に保護されている。これはどの時点までどんな資産を銀行に預けていたとか、どんな会社に務めていたとか個人で有料サイトに契約したとかのデータも取ってある。詐欺とかに引っかからそうなら警察から警告が来るし、管理されている分自己責任のウェイトは上がっているんだよね。
そんなマイデータにアクセスするなら本人認証やらスマートレンズからの簡易スキャン等が必要なんだけど、ゲームにもアクセス出来たし多分大丈夫だろう。これでアクセス出来なかったら口座凍結とかも考えられたし。
「ゲームに接続して個人情報がそのまま使えたので大丈夫でしょう。私がマリちゃんのゲームデータにアクセス出来たのは正規の手続をしてからですし、本人がその後ログインしたならその手続は無効になっています。」
「個人情報管理は厳しいからですね。と、バルーンスカートとかどうです?広がってて隠しやすですし、ゴシックな感じのスカートとかも合いそうですね〜。」
「人の写真使ってデータ上で着せ替え人形とかにしてません?」
「顔は隠されてるし、セクシャルガードで体型もバレませんよ?仲のいい女友達とか、若い子はこうやって服選びしたりしますからね。不快ならやめますけど。」
「不快・・・、いえ。やっていいですよ。女性の服は女性が選んだ方がいいでしょうからね。私が選ぶと普通の男物とかを買ってしまいそうだ。」
「マリちゃんならそう言うと思ってましたし!とりあえずこんな感じとかどうです?」
送られてきたデータは多少大人っぽい。でもヘアバンド?カチューシャ?はちょっと欲しいかも。今まで短髪と言うか仕事上身綺麗にしていて髪を伸ばした事もないし、結構ボリューミーな髪は邪魔ではないけど目やら口に入りそう。
「服は言いとして髪留めは欲しいですね。」
「髪留め・・・、かんざしとか?」
「それを使う難易度が高くなければそれでいいですけど、高いならヘアバンドとかでお願いしますよ敷田さん。」
そんな話をした後、三枝先生と敷田さんは出て行きネットにダイブして必要になりそうな物を買っていく。そう言えば今住んでるアパートはどうしようかな?そこそこお高めのアパートだから長く病院にいるなら一度解約するのも手か?
人目を憚るなら山奥の古民家に1人で住んでもいいしなぁ・・・。先生達が言う様な社会復帰プログラムだとすると住んでる場所は関係ないと言うか、在宅ワーカは結構僻地に住んで静かに仕事話している事が多いと聞く。
でも受け入れてもらえる下地を作るなら都心から離れるのもなぁ・・・。今後を考えると解約までするかと聞かれると迷う。まぁ、荷物は実家に送ればそれで済むんだけどさ・・・。
送られて来た電子書類に見を通しつつサインをしていくけど、結構報酬っていいんだな。前の会社と変わらないくらい出ると言うか、出向社員扱いだから変わらない。けど、病院からの報酬が上乗せされるのでトータルで見ると倍くらい。
終われば退職と言う形になるとは言え、先立つものがあるのは嬉しい。それに今回の事故の件で何人かの弁護士からもオファーが来ている。先生からは病院が選定した弁護士はこの人とあるのでその人を選ぶか。対面で話せる状況じゃないし・・・。
後は・・・、川端部長にもメッセージを送ろう。音声は流石に声が変わってしまって疑われるので文面だけとなるけど、それでも無事を知らせて悪い事はないと思う。
『川端部長。
私は今病院にで療養中となりますが元気にしています。
これから先、再度会う事は中々難しいと思おますが
事故等の事は引きずらないで下さい。』
なんだかヤバい感じもするが、これ以外に書きようもないな。流石に狐娘にメタモルフォーゼして出向して、モル狐になってるとは書けないし。まぁ、長い付き合いだしどこかで合うかもしれないけどその時は・・・、雁木 真利で間違いないな!
どう足掻いてもこの姿の俺は雁木 真利としかデータ上では認知されない!えぇ~・・・。隠れて別性で生きるとか今の時代無理ゲー過ぎる・・・。




