1話 楽しいゲーム 挿絵あり
ゲームと言う物はいつの時代にもある。くじ引きにじゃんけんにトランプやらオセロに時代が進んでTVゲームからVRへ。生活の一部と言うか、ポータブルゲームがあってそれに電話とインターネット機能を付けたモノがスマホ。異論は認めるとして、スマホを使つなら動画なんかのサブスクプランはキャリアから出されていたし、その動画サブスクアプリの中にも何らかのミニゲームはあった。
「さ〜て、ログボ貰ってデイリーこなしたら何しようかな?」
VRMMOゲームは乱立し話題タイトルは出た瞬間の収益が最高潮で、その後はどれだけ固定ユーザーを獲得出来るかで寿命が決まる。いくつかのVRMMOをやったが、1年経たずにお亡くなりになるタイトルもあれば細々と続くものもある。
今俺が事前登録からやっているVRMMOも一時期は話題の新作として持て囃されたが、3年も経てばイベントの天丼感は出てくるし、後から出るタイトルにはグラフィックでは勝てない。そもそも今時のゲームはAI自動生成シナリオが主で、シナリオライターがシナリオを書くのはイベント時くらいか?
「無料で貰える金塊は貯蓄するとして、デイリーは納品か。さっさと納品して無料ガチャポイントは・・・、どうするかなぁ〜。」
脳波でウィンドウを開いて視線項目選択しつつ、オートマーカーをギルドにセットして勝手に歩くキャラクターの尻尾を見つつ納品アイテムを確認。まぁ、デイリー納品アイテムなんて初心者が取れない様なだいそれた物は要求されないのでカバンを漁れば出て来る。
「あら?ゴブ爪足りん。露店で買うか。」
オートマーカーを切ってギルド近くに陣取る露店で爪を買う。別に取りに行ってもいいのだが面倒くささとゲーム内通貨を天秤に掛けるなら、モンスターを倒せばドロップする通貨で買う方を選ぶ。だってその方が楽だしな。
「ゴブ爪ちょうだい。」
「店主は不在です、価格に納得されたら支払いを。」
「はいはい。う〜ん・・・、40個買っとくか。」
ボロボロ落ちるゴブ爪だが、デイリー狙いの価格設定なのか若干高い。ただ他の露店もどうせどんぐりの背比べなので、備蓄用に多めに買ってさっさとギルドに納品して受付を離れる。クエスト受注用のボードの前にはそこそこ色々な種族がいるが見知った顔はいない。ログボも貰ってデイリーもやったがどうするかなぁ・・・?
このまま落ちてもいいし、溜まりまくった無料ポイントをぶん回してもいい。メイン武器の大麻、神主が振る棒を模した武器は無料専用ガチャ最高レア装備なので、ブン回さないと出ないし武器覚醒するなら5本いる。4本までは集めたけど後1本が物欲センサーに抵触したのか出て来ない。
まぁ、ガチ勢はこれよりも性能もよく覚醒させた最新装備を振り回して遊んでいるが、微課金勢である俺としてはそこまでリアルマネーを突っ込む気にもなれない。配給元としては限定装備やら限定アイテムに金を落として欲しいのだろうが、壱万円を秒で溶かしてゴミしか出なかったら後悔しか残らない。
「おっ!フロムさんinしてる。最近いなかったから引退かと思ってたけどまだやってんだ。」
フレンドリストは登録した人がログインすれば名前が白くなる。そこそこフレンドはいるが、既に引退したのか長期でログインしていない人もいる。フレンド登録を外してもいいのだが、そのままでも困らないので放置だな。枠が一杯になった上で新たなフレンドを迎える時にでも切ればいい。
フレンドにオートマーカーを付けるとキャラクターが勝手に歩き出す。あちらも俺に気づいたのがメッセージが飛んでくるのを流し見しつつご対面。
「お久しぶりですフロムさん。忙しかったですか?」
「ツキさん久しぶりだな。仕事だよ仕事、納品迫った仕事があってようやく落ち着いてきたからな。しっかし相変わらずモコモコだなその尻尾。趣味か?中身は男だったはずだが。」
「ゲーム内まで男の尻を見とうない。他にもMMOやってるけど私の持ちキャラ全部女性だよ。」
ネカマなる業界用語が過去にはあった。しかしジェンダーレスへの高まりから全身スキャンはモーションに必要だからされるとして、アバターの作成は本人メインを強要される事はなくなった。当然と言えば当然だが、有名俳優がそのままの姿でアバターとして現れれば当然ファンはそのアバターを追う。
それでは支障をきたすし、本人としても息抜きにゲームをしているのに周りの目が気になって全く楽しめない。そんな声を反映して性別項目は男女+その他の項目があるし、誰が何を選んでも体型やら顔付き、声も含めていくら変えてもOK。
懐かしのキャラメイクが復活して拘る人は相当時間アバター作成に時間を費やすらしい。まぁ、費やしたとしてそのゲームを続けるかは分からないが・・・。寧ろ詳細に身長や体重と言った項目まで設定出来て、それがボーナス値になるから作り込む方がお得感はある。だから一通りは作ってみた。
「あ〜、確かツキさんFPS視点が苦手なんだっけな。」
「そそ。このゲームであれは酔う。やるなら俯瞰モードで全体を見渡した方が楽でいいよ。それにこのアバターもキャラボーナス高いのよ?」
「知ってるよ大麻に身長負けるけどな。」
「小さい子が大きな武器を振り回すのには一定の需要と万病に効く効果がある。と、この前学会で発表されました。」
「怪しげな学会だなおい!」
まぁ、フロムさんが言う様に俺のアバターは身長を最低に体型も最もスレンダーにしたアバターとなっている。ただこれには意味があり体型によるボーナスステータスと言う物がある。例えば高身長スレンダーキャラを作れば速さとリーチにボーナスが入るものの痩躯なのでHPは育ちにくい。
逆に低身長樽型キャラを作ればHPと防御力にボーナスが入るものの速さは諦めろとなる。スキルやバフである程度は改善出来るものの選んだ種族特性やLvアップボーナスにも限界はある。その辺りを加味した結果、ロリィタな妖怪狐娘が1番性に合っていた。
ゲーム的な種族と言う括りで言えば人族、魔族、神族、亜人族に供物族と別れるのだが、人族は魔法防御と物理防御が高く他は平均等種族的な特性があり亜人族、妖怪やらドワーフなんかは物理と魔法攻撃に特化している。その火力を引き出すには速さが必要なので最もスレンダーに、回避をメインとするので身長も最低にしてある。
割とこの体型のキャラは多く、見渡すと街中はロリィタばかりなんて言う状況もあったな。そのうち何人が本当に女性で何人かネカマで何人が俺の様にゲームでまで男の尻や背を見たくないと思った人なのだろうか?
「そもそもセクシャルガードやら性別その他の時点でお察しでしょう?ネトゲナンパとかいつの時代の話だって言うんですよ。」
「さーてな。出会い欲しい奴は藁にもすがるぞ?」
「藁にも縋るなら外に出ろ。アバターに恋してリアルに幻滅したら元も子もない。」
「全くだ。と、そう言えばこれから暇か?」
「ログボとデイリー消化して暇ですよ。何か素材欲しいなら付き合いますけど?」
「素材と言うか新人をパワーレベリングしようかと思っててな。コツコツやるのもいいが武器のレベルキャップは面倒だしアクションスキルも少ない。ワイワイやるならそこそこレベルがあった方がいいだろう?」
「新規勢がいないわけじゃないですけどレベルキャップは悪い文明ですね。アレのせいで新規勢が参入しづらいって分からないのかな運営。」
このゲーム名をトラブルオンラインと言うのだが、他のMMOに習いわずわしい所にはショートカット機能やら自動生成自動収集機能がある。課金特権だが一度課金すれば永続なのでやるなら解放をお勧めするが、その中でも運営が譲らないのはレベルキャップ。
平たく言えば装備品に対して使用者制限レベルがある。例えばエクスカリバーを装備しようとするならキャラクターLvが80以上とか。コレがまた悪さをしてプレイヤースキルで補えない様な動きをする武器なんかもある。まぁ、武器を使い続けて極めれば他の武器でもそのモーションが可能になるので、武器を売りたい運営からすれば外せないのだろう。
「うんだうんだ。運営は悪い文明。それでパワーレベリングするにしても1人より2人の方が捗る。行き先は古竜の庭でどうだ?」
「いいですけど初期装備の初心者だと与えてダメージ1、下手すると即死ですよ?見学接待プレーを了承するならいいですけど。」
「かまわんだろう。続けるも止めるもゲームは自由、ゴブリンと乱闘するなんざ他のゲームでも嫌と言うほどやってるよ。このゲームを楽しむならある程度のレベルでガンガン動いてスキルプッパするに限る。おっ!チュートリアル終了だとさ。」
そう言ったフロムさんの方に見慣れた初心者特有のフルプレートメイル装備の人物が近付いてくる。既に攻略サイトではどんなキャラメイクがいいなんて情報は出揃い性能房ならそれに習ってまとめてくる。しかし、新人だろう奴は身長も体型も弄らないザ・標準と言う感じ。
確かに標準には標準の良さがある。誰でも扱える様に種族性能以外に癖なく、レベルアップボーナスの割り振りでカスタマイズ出来る。まぁ、物足りないと言えば物足りないがエンジョイする分にはいいか。ただ顔はフルフェイスの兜で分からないし性別も分からない。分かったところでそれが本当の性別かも分からないからどうでもいいか。
「遅くなりましたフロムさん。えっと・・・、そちらの人は?」
「フロムさんのフレンドでツキって言います。パワーレベリング要員として捕獲されました。」
「コイツ古参だから普通に強いぞ。」
「よろしくお願いします。今日始めたばかりの篝火2264です。人気そうなネームだから古参って分かりやすいですね。」
「同じネーム禁止制限あるからねこのゲーム。ただそれでネームを売買する人もいる。まぁ、売る気もないしぼちぼち行きましょうか。」
新人を連れて古竜の庭へ。レベル帯で言えば80レベルからが推奨とされているがチマチマ遊んでいればレベルカンストもする。運営が出した今の最高レベルは250、そのレベルになった後もEXPは蓄積されるのでガチ勢は上限解放即時カンストと言う感じになるらしい。まぁEXPを貯めるに越した事はない。変換神殿に行けばカンスト組は膨大なEXPを支払い割り振りポイントが貰えるのだし。
古竜の庭は草原フィールドである。低い木と背の高い草で覆われたフィールドは風が吹けばそこそこ気持ちいい。ただ低身長故の弊害で草の先がちょうど目の位置に来る。頭装備の面布を付けて歩くが・・・。
「尻尾気になる?」
「えっ!?えっと・・・、はい。街でも見た事ない装備なので。もしかして種族進化とかアバター課金ですか?」
「いや?コレ盾だよ。イベントで貰ったナインテール。」
「一時期性能壊れって言われてたな。壊れな癖して見た目がアレなのと微妙に扱いづらいから人気なくなったんだったか?」
「そう。9回までの自動ジャストガード機能とフル解放してるから盾の高速再生が付いてる。但し、普通なら守ってくれるのは背中だけ。」
見た目はまんま9本ある狐の尻尾。自動ジャストガードすると尻尾がちぎれ飛ぶ。覚醒しなければ全部消し飛んでから再生が始まりその間は重りでしかない。フル開放で高速再生が付き全損しなくても尻尾が生えてくる。性能的にはかなりいいのだが、その大きさのせいで背中以外にマウントすると視界を塞ぐし、おっさん男キャラが装備するといたたまれなくなる。ガチ勢は保管しているらしいが手放す人も多く、課金装備でもなかったので開放までこぎ着けた。
「普通なら?」
「亜人族で狐娘だから普通に自前の尻尾がある。それを操作するとこの尻尾も動かせる。攻略サイトにもある小技だな。全部前に持ってくれば真正面からでもフルクロスで9回無敵!」
「高速アサシンに速攻9回切られて全損したりするけどな。」
「言うなよフロムさん。高速再生加味すれば12回は行ける!」
前に持ってきて尻尾をモフモフ。VRMMOは脳波に干渉して質感やら匂いなんかを再現してくれる。元々は医療目的のリハビリ技術だったのだが分母はデカい方が儲かる。なのでゲームに落とし込まれ一般に普及し、その金で医療技術が向上している。
「と、前方に土竜。フロムさんタゲ取りよろ。」
「あいよ。篝火はそこで待機な。巻き込まれたら死ぬ。」
「分かりました。」
ガサガサと草を掻き分けながら走りアクティブじゃない土竜の膝へ大麻を叩きつける。弱点は頭だがすっ転ばした方がダメージは稼ぎやすい。ただ流石に一撃じゃ無理か。先制したが土竜はアクティブになり突進の構えを取るが、そのモーションは既に見慣れている。
「間欠泉からの瀑布!」
「押せ押せか?タゲ取り言ったくせに。クラッシュハンマー!」
「風が・・・、風が吹いている気がする・・・。押し込めそうなんで押せ押せで。」
土竜が走り出そうとした瞬間に地面から弱点属性の水魔法で打ち上げ更に上空から水魔法で叩き落とし、そこにフロムさんが駆けつけハンマーを頭に叩きつける。ドワーフキャラでプレーするフロムさんの一撃は重い。モンスターにHPバーなんて親切なものはこのゲームにはないが、大ダメージを与えればモンスターは怯むし蓄積すれば動きは悪くなる。
「そらもういっちょっ!粉砕無骨!からのタコ殴りだ!」
貫通ダメージを付与したハンマーでボコスカ土竜を殴っている横で一緒に大麻で殴るが流石にソロソロ暴れ出す。その前に魔法で攻めてさっさと倒そう。こんな格言があるのがご存じか?曰く、弱パン最強と。
「ウォーターバレット、ウォーターバレット、ウォーターバレット・・・!」
「弾幕ゲーか!」
「このゲーム弾幕ゲーだよ?知らなかったんですか?魔法使うなら初期魔法連打がDPS的には最強ですよ?」
ゲーム的にはよくあるMP自動回復。しかし、このゲームの回復速度は伊達じゃない!なにせ秒間4回復する。人族亜人族の最大MPは200、神族魔族は250、供物族は150。これは固定値であり装備で上げる以外の手立てもなく、ボーナスポイントも割り振れない部分である。それだと少ないと感じるかもしれないが初期魔法は一律MP消費が5。つまりMP1で魔法マシンガンが可能なのである。
ただまぁ、バフやら回復やらを魔法でこなしているとすぐにMPは尽きるし走り回りながら魔法を撃つので命中率も悪い。さらに言えばMPは武器アーツと共有なので余裕はない。命中率補正を考えると供物族が最高なので少ないMPに反して魔法スナイパーは供物族に多いな。蜂の巣にした土竜が消えていき残されたのはお金とドロップ品。
「土竜の頭蓋か。フロムさんいる?」
「う〜ん、心臓ならいるが頭蓋は要らんな。ツキさん貰ってよ。逆に金くれ。」
「いいよ〜。」
「激しいゲームですね?!」
ガサガサと草むらから篝火が出てくるが、確かに傍目から見れば激しいよなこのゲーム。棒立ち禁止でモンスターの動きを意識しつつ側面にポジショニングしてひたすら攻撃を叩き込む。魔法にしても武器アーツにしてもリキャストタイムはほぼない。あるのは回復魔法と蘇生魔法くらいか?
「トラブルオンラインは格ゲーでシューティングゲーで領地ゲーて言われてるからね。サブ職とかない代わりに何でも・・・。」
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「あら?サーバーダウン?珍しい。」
スマートレンズによる網膜投影が切れたので脳は操作でネットへダイブ。公式HPを見ると停電による通信障害とそれに伴う緊急メンテが入ったようだ。大体メンテは事前告知して深夜にやるものだが、突然サーバーダウンすればどこまでデータが残っているかも分からないし、下手すればボス戦でトドメを刺そうとしたのに流れたなんて事もあるし、次にいつ同じメンバーで集まれるかも分からない。
「緊急メンテで詫びが貰え、時間が延びれば更に豪華に。ちと早いが晩酌して寝るか。」
冷蔵庫をあさり適当な摘みとストゼロで1人乾杯。今年で30になるが結婚の予定もない独身貴族。過去には何人かと付き合ったが結婚までには至らなかった。まぁ、自分の時間と言う物を大切にする質なので仕方ないと言えば仕方ないか。そんな事をつらつら考えながら2本目を飲み干しシャワーを浴びて就寝。
「ええ、ええ。・・・、はい。ではその契約で進めさせて頂きます。契約書の方はご多忙だと思いますが早期にお願いします。・・・。部長、契約成立です。」
「ありがとう雁木君。そこそこ大きい契約だったけどまとまってよかった。次も頼むよ。」
「はい。」
電車に揺られる事もなくバスで会社へ。朝イチから契約をまとめ仕事としては一段落。そこそこ大手に勤めているが、繁忙期とは無縁の業種なのでこう言った隙間時間もある。
「先輩・・・、手空きですよね?」
「ん?手空きだけどどうした柳田。」
「手伝ってもらっていいですか?」
「いいけど・・・、手伝う事あったか?確か医療ポットの発注だったよな?それも仕様書も下請けも決まってて右から左へ流すような仕事だったはずだけど。」
「それがですね・・・、発注元が急な仕様変更を言い出して、これから価格の打ち合わせなんです。ただ、この仕様変更は絶対と言って譲らないから料金の方を増やす方向で話し合ってくれと部長から・・・。」
「あ〜・・・、下請けは飛騨製作所?」
「はい・・・、お願いできますか?今度飯でも何でも奢りますんで。」
「いらんいらん。後輩に奢られるとか格好悪ぃよ。タバコとコーヒー、コレでいさ。」
「貰うんじゃないですか!」
「飯からすれば半額以下だ。コレから向かうから飛騨製作所の方への支払額は上げとけよ?流石に無料仕様変更なんて話になれば関係が悪くなる。」
「それは俺の方で頑張ります!コレが仕様変更の書類です。後これにサイン貰えます?」
「これは・・・、新型バイオナノマシンの被検体承諾?これはちょっと・・・。」
「大丈夫ですよ。被検体は欠損等の身体的障害がある方を優先して使うので要は数稼ぎです。ほら、部長もサインしてますよ。」
そう言って柳田が見せてくるが、確かに部長のサイン入った承諾書がある。まぁ、数合わせなら構わないか。そんな書類にサインをして会社を出る。普通ならネット会議で済むが飛騨製作所の部長は対面を好むんだよな。俺がペーペーの時から懇意にさせてもらっているが、職人気質のチームを率いて評判もいい。ただ突発的な仕様変更は好まない。なにせ丹精込めて作った品が鶴の一声で変えろと言われるのだ。作り手からすれば頭にくるだろう。
バスに揺られながら変更書類を見るが・・・、ナノマシンの様式を従来の物から新型の物に変更するとしてある。従来のナノマシンは薬を患部に運び的確に作用させる事によって、薬による副作用を軽減している。それに引きえ新型バイオナノマシンは外傷治療や損傷治療にも使えるものとして開発された。言ってしまえば薬の運び屋だけから外科医者もやる事に変わるのである。
さらに言えば治療後にバイオナノマシンの制御装置を体内に埋め込む事によって永続的に外傷や病気治療も可能だとしてある。そもそもバイオナノマシンとはのDNA塩基配列情報を基にして、主にアミノ酸のような生体物質を材料として作られるタンパク質だ。なので燃料としても普通の食事で補えるし増殖も制御装置が行うとしてある。
「まるでテセウスの船だな。古い映画・・・、ターミネーターの様な金属骨格は無いが細胞レベルで入れ替わればターミネーター2の警官の様だ。」
そうは言ってもこの治療法を待ち望んでいる人もいる。




