4話 彼の優しさは、本当に温かくて
「大丈夫?」
あの場所から少し離れた道で彼は立ち止まると、心配そうに、懐から出した布で私の涙を拭ってくれている。
「ありがとうございます」
こんな時はどんなことを言えばいいのかわからない私は、ただ感謝の言葉を伝えることしかできない。
「たくっ、ひどいよね。あんなこと言うなんてさ」
「でも、本当のことですから。公爵家の面汚しだという自覚はあるんです」
この国では朝廷から男爵から公爵までの地位を賜っている人物らがいる。その中でも大きな影響力を持つといわれるのが『龍』一族。そして、龍一族の中でも私と繋がりがあるのが華龍院一族の現私の父親である華龍院辰久公爵と、その分家である竜尾一族の前世での私の祖父である竜尾総一である。
類稀なる才能を持つ人物の子供、あるいは孫として生まれた人物らもまたその血を受け継ぎ、平均よりもはるかに強い異能を覚醒させていた。
そう、前世での名は竜美凪、今世での名前は華龍院花と名付けられた私を除いて。
人々は疑問に思った。なぜ、あの娘だけ弱小の異能すらも使えないのかと。異能を発現させることがなく、祖父から見捨てられた後、前世の母は不貞を疑われたことが、前世父は私と血のつながりがないのではないかと疑うようになったことがきっかけで、私を毛嫌いするようになってしまったのだった。
ーーそう、全てが私に原因がある。家族の不仲も、何もかも。
「そんなことはない!」
いきなり叫んだ彼に私は驚いた。
「君のせいなんかじゃないよ」
そういうと、その少年は私の頬を自分の掌で覆った。彼の言葉に嘘はなかった。
ーー温かい。彼の手も、彼の優しさも。言葉も。
私はボロボロと涙を流した。先ほど、涙は止まっと思ったのに、次から次へと涙が溢れてくる。
私はどうしようもなくなり、その場にしゃがみ込んだ。
「だ、大丈夫? 僕の声が大きかった? ごめんね」
わたわたと彼は膝をつき、私を励まそうと変顔までしてくれていた。
私はそんな彼の誤解を解きたくて、涙を袖で強引に拭うと、しゃっくりの出る中、懸命に言葉を紡いだ。
「私、はじめてだったんです。街の中で、悪口を言われていてもみんな知らんぷりしてて。家族も私がこんなこと言われているって知らなくて。あなただけだったんです。私を助けてくれたのは。だから、嬉しくて泣いているんです」
私は涙が溢れそうになるのを堪えて、くしゃくしゃになった顔で満面の笑みを作り彼を見た。
「ありがとうございます」
そう言うために。