2話 芽生えない異能
あれから数年が経ち、私は5歳になっていた。 私が転生したのは、華龍院という名門中の名門の一族だった。
前世でも私はその一族の話を聞いたことがあったし、うちの家門ともどうやら関わりがあったようだが、落ちこぼれの私は家から出してもらうことも碌な教育も受けさせてもらえなかったためよくわからない。
ただ、前世での姉の紗奈が『華龍院のパーティに行くためにのドレスがこんなんじゃいけないわ!』と駄々を捏ねていたためその家門の名前と、それはすごい家門なのだろうなということだけはなんとなく分かっていたのだ。
この家での扱いは非常に良いものだった。後から判明した年の離れた3人の兄たちを含めて、とてもいい人たちだとは思う。しかし、私は前世での待遇からまだ彼らを信じ切ることができないでいた。
人はいつでも見限ることができる、という考えが私の頭にこびりついてしまっているのだ。
今日の態度とは一変して明日は前世で受けた態度を取ることになればどうしよう、という恐怖が拭うことができず、ただ人に愛されるような言動を振る舞っていた。
その甲斐あって、私は家族や屋敷の使用人たちから愛されていた、とは思う。ただ、本当の私ではなく演技をしている私に向けられるその感情に私はどうしようもない虚空とも呼べる感情を持っていた。
本当に必要とされているのは私ではなく演技をした愛想の良い自分なのだと。もし本性がばれたらと思うと怖くて仕方がなかった。
そしてもう一つ私には心配事があった。
やはり名門ということもあり、この一族でも、3歳までに異能が出るのは当たり前だったのだ。
しかしーー。
「焦らなくてもいいからね」
「そうさ。異能がなくても僕たちの子供であることに変わりはない」
母と父が私を慰める。それはもう暖かな表情で
私を心配する声色でそう言った。
今世でも、私はまだ異能を発現できていない。
前世でもこの時はまだ祖父も家族も優しかった。だから、尚更怖いのだ。またあんな間に合ってしまうのではないかと。私がまだいい待遇を受けられているのは、異能が出る可能性が捨てきれないからかもしれないと。
そう思うと夜も震えて眠れなかった。
なぜ私はこんなにも落ちこぼれなのだろう、何度もそう思った。何度も涙を流した。異能検査を受けるたびに、異能がまだ発現していないという意味の『変化なし』の文字を見てどれだけ悔しい思いをしてきたか。
だから、私は毎日近くの神社に行き、祈った。
「お願いしますから、今世では異能をください!」
どんな小さな異能でも構いません。だから、お願いだから、授けてください。
そう私は境内で、涙を流した。