1話 転生
私は昔から出来損ないだった。
私たち公爵家の家門の人間ならば、誰しもが3歳の時点で発言させることのできる異能を私は14歳にもなって発言させることもできないでいた。
『まあ、気長に待とうじゃないか』
私が3歳の時、そう言って笑ってくださった祖父も私が5歳になることにはさすがに愛想を尽かし、私を存在しないもののように扱い始めた。
それを見ていた他の家族も、それに倣うように私を家族の一員だと見做さないようになっていった。
そうして待ち受けていたのは公爵家の令嬢の待遇とはとても思えない環境だった。家族としてではなく雑用係のように扱われ、使用人たちからも疎まれる日々。
そんな扱いに耐えていた14歳の夏、私は死んだ。
そうして、私は人生を終え、体も魂も無に帰ることができる、そう思った瞬間だった。
目の前に光が広がったのだ。
「あう?」
視界に入ってくるのは、知らないものばかり。私はなぜか動かない体を諦め、目だけを動かし周りを観察することにした。
私の知らない部屋、私の知らない調度品、そして、私の知らない人。
「真理、僕たちの子供の花が目を覚ましたよ」
「まあ、なんで可愛いのかしら」
金髪と緑色の目を持つ男性と、淡い桃色の髪とさくらんぼのような赤い目を持つ女性はなぜか顔を綻ばせながらそう言った。
ーー今、僕たちの子供って、そう言った?
「う?」
そう言おうとしたのに、舌足らずに言葉を発生させることができない口がもどかしい。
「ほら、返事をしているみたいだ」
「なんて賢いのかしら!」
感動しちゃう! と言いながら口を手で覆い感涙を流す彼女に私は呆れた。
ーー返事なんてしてないから! それよりも、やっぱり自分たちの子供って私のことなのか教えてよ!
私はそう叫ぼうとするも、やはり出てくるのは『うー、あー』という舌足らずな声のみである。
どういうことか説明してよ! と心の中で叫ぶものの、目の前にいる男女にはもちろん伝わることはない。
言葉を発しようとしている私をひとしきり堪能した後、『ご飯を食べに行こうか』と男性が提案したことにより、二人はこの部屋を出て行こうとした。
それに私が制止をかけるべく、手を伸ばし、その手が私の視界に入ってきた時のことだった。
ーーあ! 私の手、ちっちゃくなってる!?
私はふかふかの布団の上で悶絶した。
舌足らずな声に、小さくなってしまった手に私は現実を受け入れるしかなくなった。
どうやら私は転生してしまったらしい、ということを!
私は混乱する中、ただ彼らがこの部屋から出ていくのを見ているしかできなかった。