突然届いた招待状⑤
「お嬢様!いけません!」
マニエラは激しく首を左右に振った。
「ここには私たち従者しかいないと安心して、そのようなことを口になさってはいけません!ここは領主の館。常に人の出入りがございます。
いつどこで誰が聞いているともしれません。それなのにそのように嘲弄(※からかう)するものではございません!私たちとて人の子。お嬢様がそのようなことをおっしゃられたと口にしないとも限りません!」
ウィンディアはやれやれといった表情をすると、パタとペンをテーブルの上に置いた。
「別に・・・いいわ。わたしがそう言ったってみんなに知れ渡ったって。」
「いけません、お嬢様!我が国の始祖をそのようにおっしゃられては!お嬢様の遠いご先祖様でもあるんですよ?」
マニエラはメッ!と顔をしかめた。ウィンディアはぷぅと頬を膨らませた。
「だって・・・ドラゴンなんて伝説上の生き物じゃない?おとぎ話の中や絵本でしか見たことがないもの。マニエラだってそうでしょ?」
「・・・そうでございますが・・・。」
マニエラは返事に窮した。
「ほら!でしょ?きっと、この国を興したっていうわたしのご先祖様が箔付けのために『自分はドラゴンだ!』って吹聴して回ったんだわ。」
「お嬢様・・・、そのように始祖様を嘲弄するものではございません。」
「いいじゃない?だって馬鹿げているわ。ドラゴンって大きくて翼の生えた生き物なんでしょ?象よりもキリンよりも、もっとずっと大きいって絵本には描いてあったわ。」
「左様でございます。このマニエラも、世間の者たちもそう認識しております。」
「でも誰も実際には見たことがないんでしょ?」
「・・・左様でございます。」
「ね?そんな見たことのない想像上の生き物が、わたしのご先祖様だなんておかしいわ。それにほら?わたしやお父様は、どこからどう見てもちゃんと人間だわ。マニエラたちだって、わたしをお風呂に入れてきたんだから、わたしがちゃんと人間だって知ってるでしょ?それともどこかマニエラたちと違うところがあった?翼があった?鱗があった?牙があった?」
「いいえ!お嬢様におかしなところなど、どこにもございません!このマニエラ、誓って申し上げますが、お嬢様は私たちと同じく人間でいらっしゃいます。」
マニエラは側に控えたままのメイド2人と相づちを打ち合った。
「ですが、お嬢様をはじめ、このサンヘルム国の王族のご先祖様、この国を興したと言われている始祖様はドラゴンであったと、伝説では伝えられております。この国の民も、他国の人間たちもそれは半信半疑ではございますが、なんとなく信じている節がございます。」
ウィンディアはやれやれとため息を吐いた。
「知っているわ。ドラゴンってわたしたちが使う魔法よりももっとずっとすごい魔法を使うんでしょ?もっとずっと強力で、摩訶不思議な魔法。誰も見たことがないのにね。」
「過去にそれを目撃した者たちがいるのでしょう。それが各地で伝説や記録となって残っているのです。」
「・・・なんか、バカみたいだわ。みんな、そんな見たこともない、おとぎ話の中だけに出てくるような生き物のことを、本気で信じちゃって。」
【作者より】
【更新履歴】
2025.3.14 Fri. 15:52 再掲
2023.10.12 Mon. 2:39 読み上げアプリ向け修正
2023.9.3 11:06 Sun. 再掲