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まもなくワテレア②

「あ~あ、なんって退屈なのかしら。」


幼い少女は窓越しに空を見上げながら、もう何度目になるか分からないため息を吐いた。


ウィンディア・ロイ・ザファーネ・バルテシア。


フォンテの一人娘である。


彼女は今、先頭の馬車に乗っている。彼女の父親であるフォンテと向かい合わせになった座席に。


はしたないなどと注意する者は、誰もいない。向かいに座った父親は現在、本の虫だからだ。


けれどもフォンテが例え本の虫ではなかったとしても、彼はウィンディアに注意をするようなことはしないだろう。


フォンテは元来の温厚さに加え、亡き妻の忘れ形見であるウィンディアを、それはそれは溺愛(できあい)していた。ウィンディアは生まれてこの(かた)、フォンテから、(しか)られたことなどない。


彼女を(しか)るのは、もっぱら乳母のマニエラで、次いでフォンテの筆頭執事のエイドリアンと、その息子のジョセフぐらいだろう。他の従者たちはフォンテの身分もあって遠慮している気配があった。


エイドリアンとジョセフは今回の旅には同行していない。バルテシア領にある屋敷で留守番をしている。唯一同行しているマニエラも、その他の従者たちと一緒に後続の2台の馬車のいずれかに乗っている。


その点に置いては誰からも叱られる心配がないので、ウィンディアは安堵(あんど)していた。


(こんな退屈な旅の最中にお行儀良くなんてできないわ!)


それを証拠に彼女は馬車の中で非常に(くつろ)いだ格好をしていた。と言ってもそれは(よそお)いではない。彼女の服装は就寝中を除き数時間ごとに、マニエラやその他のメイドたちに整えられているからだ。彼女は姿勢を(くず)してリラックスしていたのだ。


バレエのトゥーシューズのような布靴を脱ぎ捨て、真っ白いレース生地のハイソックスのまま、座席の上で横座りになっていた。(さいわ)いにもその足はふっくらしたドレスの下に隠れていたからいいようなものの、とてもじゃないが、貴族のご令嬢としてはあり得ない、してはいけない格好だった。


おまけに窓の内側に(そな)え付けられた膳板(ぜんいた)の上で、両ひじを腕枕にして窓の外を見上げていたのである。これはマニエラが同乗していたのなら雷を落としたところだろう。


けれどもマニエラはこの馬車にはいない。


よほどの事情がない限り、基本的には貴族が乗る馬車に、彼らの従者や家来が同乗することはないからだ。


なので、ウィンディアはこの旅の道中で休憩を取るか、宿に泊まるかしない間は、ずっとこんな状態で過ごしていたのである。


もちろん、旅に出た最初の頃は、フォンテも会話や盤上ゲームの相手をしてくれたし、ウィンディアも持参してきた本を読んだりしていたから、ここまで退屈ではなかった。


だが、さすがに1ヶ月、娯楽(ごらく)もすでに万策尽(ばんさくつ)きていた。

【作者より】



【更新履歴】


2025.3.14 Fri. 15:37 再掲

削除


2023.10.12 Mon. 1:20 読み上げアプリ向け修正

2023.9.3 10:56 Sun. 再掲


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