突然届いた招待状⑬
学園。それはワテレアにある学校である。
貴族や平民といった身分に関係なく、希望すれば誰でも入学できる。学園の、その名前もサンヘルムの古語で『開かれた学校』を意味するコルデュロール・ロイである。
コルデュロール・ロイは、希望すれば誰でも入学できる。王族でも貴族でも、平民でも。子供でも大人でも。ただし、一部の留学生を除いては、国民に限るが。
学園の敷地はワテレアにある。ワテレアと言っても王都ではない。実はこのワテレアという名前は、サンヘルム国王の領地の名前でもある。王が治める領地をワテレア領といい、その中心にある王都でもあり、領都でもある街をワテレアと言うのである。
それ故、混乱を避けるため、サンヘルム国の人々は、領地としてのワテレアのことを、王が治める地という意味でキングス・フィールドと呼んでおり、単にワテレアと言えば、王都でもあり領都でもあるワテレアを指している。
コルデュロール・ロイは、このキングス・フィールドにある。非常に広大な敷地を有する学園で、サンヘルム国内の大きな都市がまるまる1つ収まるほどであった。
その運営資金は国から、そして貴族や裕福な商人たちからの寄付金で賄われていた。
ところが、コルデュロール・ロイは、希望すれば誰でも入れるという謳い文句がありはしたものの、その実、学園の生徒は、貴族や裕福な商人たちの子息や令嬢がほとんどだった。
理由は簡単だ。そうではない子供たちは、自身や自身の家族のために、働かねばならない身の上の者がほとんどだったし、例え少しぐらい生活にゆとりがあったり、家族の理解があって入学したとしても、コルデュロール・ロイは完全全寮制だったため、そういった学園生は否応にも身分差を感じてしまったり、それによるいじめや劣等感に悩まされることが安易に予想できたため、結局のところ、入学を敬遠することが多かった。
このことはコルデュロール・ロイの創始以降、その学園長およびサンヘルム国王共に、頭を悩ませ続けていることではあったが、なかなか改善されることはなかった。
そんなこととは露知らないのか、それとも知らないフリをしているのか、関心がないのか、コルデュロール・ロイにはサンヘルム国のほとんどの貴族の子息令嬢が入学する傾向にあった。
フォンテとウィンディアもそんな一人であったが、当の2人は高位貴族過ぎて、そういった問題がコルデュロール・ロイに存在するなど考える由もなかったのである。
フォンテは自身の生い立ちから、やむを得ずこの学園を中途退学したのだが、その娘であるウィンディアには是非とも卒業して欲しいと願っていた。
この学園を卒業した者は、平民ならば将来が約束されたようなものだし、貴族ならば貴族社会において、男性貴族ならば、最低限の知識と一般常識がある者として評価されたし、女性貴族ならば、一種の花嫁修行の場としての格付けに役立ったからだ。
貴族の子息令嬢は各家庭において、幼い頃から家庭教師が付けられていることが常ではあったが、家庭教師ではその技量に個人差や限界もあったし、どの貴族でも、我が子に最高の教育を受けさせたいと望む者が多かったからだ。
その上、こういった場は、密かにプレ社交場という認識がなされていた。プレ社交場。それは大人たちの正式な貴族社会に出る前に、子供たちに人付き合いのノウハウを身に付けさせる場だ。これは各家庭での家庭教師からのレクチャーでは絶対に身に付かないことだった。要するに我が子たちにも社交的になって欲しいとの要望だ。
そしてウィンディアも将来の良縁を娘に、と望むフォンテの親心から、来年からコルデュロール・ロイに入学する予定であった。
【作者より】
【更新履歴】
2025.3.14 Fri. 16:07 再掲
2023.10.12 Mon. 4:30 読み上げアプリ向け修正
2023.9.3 11:21 Sun. 再掲