突然届いた招待状⑫
ウィンディアが訪れたこの書斎は、フォンテの私室へと続く、言わば私的な書斎である。彼の領主としての公務を行う書斎は、別にある。
ウィンディアは、父親であるフォンテが招待状を抱えて、その贈り物や準備にあれこれと悩むなら、おそらくここにいるだろうと予想してここを訪れたのだが、どうやら正解だったようだ。
ソファーの向こうのデスクに座っているフォンテは、いつもは落ち着いた様子なのだが、すっかり忘れてしまっていた式典のことに取り乱しているのか、その髪はやや乱れ、デスクの上に置かれているらしき招待状と熱心ににらめっこをしていた。
「お父様・・・。」
ウィンディアから声掛けされてやっと、フォンテは彼女の訪問に気がついたようだ。彼は、ハタと顔を上げると疲れきった様子で笑顔を作った。
「や、やあ、ウィン。すまないね。庭で宿題をしている最中だったんだろう?」
「ええ。でももうすぐ終わりそうだったから、いいの。それよりもマニエラに聞いたわ。わたしにも招待状が届いたって。」
ウィンディアがそう言うと、フォンテはやや困り顔でため息を吐いた。彼は椅子から立ち上がると、デスクの前に出てきた。
「そこへ座って話そうか。」
フォンテはウィンディアの肩に手をかけて、彼女をソファーの席へと促した。2人はそのまま隣り合ってソファーに腰を下ろした。フォンテは腰を下ろしながら、デスク脇に控えていたジョセフに、アイコンタクトを送った。
アイコンタクトを受け取ったジョセフは、いそいそと部屋の片隅に停めてあったティーワゴンへと向かい、主人とその令嬢のためにお茶を淹れる。
「ね、お父様。わたしもエスカランテ様の成人の儀に、出席しなくてはいけないの?」
マニエラたちと同じように、てっきりウィンディアがワテレアに行きたくないと言うだろうと思っていたフォンテは、その返事に躊躇した。
「あ、うん、えっと・・・そうだね。成人の儀は大事な式典だからね。私たち貴族は全員が招待されていると思うよ。」
「全員ってことは、わたし以外の貴族の子供もみんなってこと?」
フォンテは大変言いづらそうだが、何とか口を開いた。
「あ、いや、うん、えっとー・・・。ウィン以外は、半成人の10歳以上で、心身健全な貴族の子息令嬢で、希望者だけかな。」
「えっ?」
ウィンディアは驚いた。
「・・・わたしは、6歳なのに・・・それじゃあ、どうして・・・?もしかして王族に近いから?」
フォンテはウィンディアがショックを受けていると勘違いして、非常に慌てた。
「あ、でも、他にもほら、一番末の王子だって招待されているし。」
「末の王子様って・・・ハーネイ様よね?確かわたしより6つ上の12歳だったと思うけど?とっくに半成人を越えられてるわよね?」
フォンテは焦った。どうにかウィンディアに快く出席を了承してもらわねばならない、と。
「あははは。そう、だった・・・かな?あ、うん。そうだったね。ウィンはワテレアには行きたく・・・ないのかな?でもほら、来年からはあちらの学園に進学する予定なんだし?学園の下見ついでに行ってみてはどうかな?」
【作者より】
【更新履歴】
2025.3.14 Fri. 16:06 再掲
2023.10.12 Mon. 4:06 読み上げアプリ向け修正
2023.9.3 11:19 Sun. 再掲