突然届いた招待状⑧
ウィンディアは知っている。いや、ウィンディアだけではない。この領地の者は皆、知っているだろう。
それは去年の夏。バルテシアの南西部でバッタの異常発生が起き、この領地の主力産業である穀物や花といった植物が甚大な被害を受けてしまうという出来事があった。
そのため領主であるフォンテは、被害状況の確認やバッタの駆除、現場の復旧や農家たちの支援などにクレイトンを空けることが多かった。
「それは私も存じておりますが・・・。このバルテシア領にとって、領民にとって非常に痛い出来事でございました・・・。」
マニエラは泣き顔そのままに、顔を俯かせた。が、すぐに持ち上げた。
「ですが、それはそれ、これはこれでございます。非常に悲しい出来事ではございましたが、ああいった虫や植物病の発生は、どこの土地でもたびたび起きることでございます。
ここバルテシア領とて、古くから農業や花卉産業が盛んな土地柄。そういったことには慣れていると言えなくもございません。旦那様が大事な式典をお忘れになられる理由にはなりません。」
「ホントにもうっ・・・。マニエラったらわたしだけじゃなくってお父様にも厳しいんだから・・・。」
ウィンディアは小声でボソッとつぶやいた。
「お嬢様、今、何かおっしゃいましたか?」
耳敏いマニエラは、ウィンディアのつぶやきをはっきりとは聞き取れなかったものの、何かしゃべったのは気づいたようだった。ウィンディアは慌てて首を振った。
「う、うううん。なんでもないわ。なんでもっ。」
「そうでございますか?」
マニエラは、腑に落ちないようだったが、ウィンディアの次いでの質問で気を逸らせたようだ。
「それで。そのエスカランテ様の成人の儀の招待状が、今届いたってことは、まだその式典に出席することは可能なのよね?」
「はい、左様でございます。式典は当該王子の誕生日に開催されますのでおおよそ半年後となります。」
「半年後?ずいぶん先なのね。それならお父様もマニエラもそんなに慌てる必要はないんじゃないかしら?」
「お嬢様・・・。何をそんな悠長なことをおっしゃられているんですか?」
「え?」
ウィンディアは首を傾げた。
「どういうこと?だって半年もあれば、お父様は十分ワテレアにたどり着けるわ?」
「旦那様が慌てていらっしゃったのは、式典に出席されるための旅程を危惧してのことではございません。王族の方へのお祝いですからね。それなりの品をお贈りしなければなりません。旦那様はそれを用意する期間が短かすぎると慌てていらっしゃるんですよ。」
「まぁっ!」
ウィンディアはマニエラからの予想外の返答に驚いたと同時に、少し呆れてしまった。
【作者より】
【更新履歴】
2025.3.14 Fri. 16:01 再掲
2023.10.12 Mon. 3:16 読み上げアプリ向け修正
2023.9.3 11:12 Sun. 再掲