まもなくワテレア①
ガラガラガラ。
3台の馬車が舗装されていない街道を進んでいる。粉砂糖のようにサラサラとしたクリームイエローの砂が、馬車の車輪の跡を形作って、数本の筋を描いている。
先頭の馬車は黒毛のサラブレット2頭に牽かれた箱馬車で、その外装は黒く艶光りする塗装が施されており、あちこちに金の装飾品があしらわれていた。いかにも高貴な身分の者が乗っている馬車だ。
後続の2台は金の装飾品は付いていないものの、やはり黒く艶光りした車体をしていた。おそらく先頭の馬車が主で、こちらは執事や家来たちが乗車をしているのだろう。これらの馬車は栗毛のアングロアラブの四頭牽きだ。
周囲には、私兵の護衛なのだろう、揃いの軽鎧を纏った男たちが周囲を警戒しながら、ある者は馬に騎乗し、またある者は徒歩で闊歩している。一同はライトグレーの内着と繋がっているフードを被り、その上から黒とシルバーの鉄製の軽鎧を、肩と肘、心臓と膝、そして下肢に当てている。
腰や背中にはそれぞれ得意の武器なのだろう、長剣や短剣が収められた鞘や、槍や大剣、戦斧などさまざまな武器が装備されているのが見える。
彼らはみな先頭の馬車に乗った主人に付き従う家来たちである。
ここはサンヘルム国の王都、ワテレアへと続く街道。
一行はワテレアを目指してもうかれこれ1ヶ月ほど、このような旅を続けているのだ。
飛行機や鉄道、車といった交通手段はこの世界にはない。移動手段はもっぱら徒歩が当たり前の世界だ。馬や馬車はある程度お金に余裕がある者たちか、都心部で暮らす者たちに限られる。そんな中で馬車3台やら護衛の私兵やらを引き連れて旅する彼らの主人は、いかに富める者であるかが分かるだろう。
彼らの主人、その名は、フォンテ・ガル・エヤック・バルテシア。世間一般からはフォンテ公と呼ばれている人物だ。
なぜ、彼の敬称に公が付いているのか?それは、彼が現サンヘルム国王の従兄弟にあたり、貴族の3爵を持っているからである。王族の傍系として与えられた公爵、配偶者籍に入ったことによって継承した伯爵、そしてもう一つ。
サンヘルム国の北西に位置する広大な地、バルテシア領。その領主として、フォンテはバルテシア辺境伯の爵位も与えられていた。
複数の貴族爵を持つ者は少なくない。けれどもここまで高位の爵位ばかりを持つ者は珍しい。
加えて、フォンテは非常に温厚で穏やかな人物だった。寄付や慈善活動も自ら積極的に行うその姿勢から、人々から尊敬と親しみの念を込めてフォンテ公、と、そう呼ばれていた。
此度のこの長い旅路はフォンテの用向きのためである。
彼は彼のたった一人の娘を伴って、ワテレアで催されるこの国の第3王子の成人の儀に出席しようというのである。
【作者より】
他の作品の更新待ちにどうぞ。
作者的には、壮大で一番おもしろい作品だと自負していますし、読者は男性の方が楽しめると思います。(笑)
何度か投稿してはエタって削除を繰り返している作品です。
ぜひとも応援よろしく!
なお、本作が本編になりますが、脇役などを主人公にしたスピンオフ作品が29作品存在します。作者の作品には珍しく、ストーリーの大まかな流れと最終話が決まっています。
作者の他の作品のあれこれは、この作品を執筆した時のあれこれを参考にしてたりするので若干被ってるかもしれません。
【更新履歴】
2025.3.14 Fri. 15:28 再掲
削除
2023.10.12 Mon. 1:10 読み上げアプリ向け修正
2023. 9. 3 Sun. 10:41 再掲
2021. 9.24 Fri. 3:14 再掲
2021. 7.26 Mon. 6:25 見直し作業中
2021. 3. 2 Tues. 1:49 加筆作業完了
2021. 2.26 Fri. 16:41 原色大辞典様より掲載許可取得
2021. 2. 7 Sun. 21:05 加筆&再投稿
削除(これ以前は履歴を付けていなかった)