勝利の後【1章終了】
辺りを静寂が支配していた。
誰も彼もがこの光景を信じられない、と受け止めきれずにいたのだ。
だから俺はこの静寂に止まった時を動かすために勝ち名乗りを上げた。
「この一騎打ちは仙魔の傭兵、ハヌマーンが勝利した!!!」
俺の声にハッとしたのだろう。
砦から大きな歓声が聞こえてきた。
ん?些か歓声が大きすぎやしないか?
そう思って砦を見ると砦から次々と兵士が駆けていく。
どの兵士も見覚えが無い兵士達だった。
兵士達が俺の脇をすり抜けて敵に襲いかかっていく。
敵兵はまだ混乱から抜け出せていないのだろう。
散発的な反撃はあるが、反応は鈍く次々と討ち取られていく。
そして間をおかずに総崩れとなっていた。
俺の近くに誰かが来た。
クロード様だった。
「よくやってくれたハヌマーン。
君のおかげで我々はこの戦に勝利出来るだろう。」
「クロード様、あの兵は…?」
「あれは君が呼んだ援軍の兵達だよ。」
「あ、なるほど。
どうりで見覚えが無い兵達ばかりなわけだ。」
援軍が到着した事で籠城戦だけでなく、野戦も可能になったのか。
それなら士気が瓦解した今をおいて反転攻勢を仕掛ける機は他にない。
納得したところでクロード様に断って、俺はカルロスの様子を見に行った。
カルロスは腕の骨が折れ、鎧も裂けて脱げていた。
だがほとんどの衝撃をそれが受け止めたのだろう。
息はあるようだ。
肋骨なども折れたり、ヒビが入ったりしていてもおかしくないのだが、重症ではあっても助かる見込みは高い。
俺はクロード様にカルロスの助命を願い出た。
「クロード様、カルロス、いえカルロス卿ですがまだ息があるようです。
適切に処置していただければ命を助けることが出来るでしょう。
彼を助けて捕虜とすることで、クロイス国に対しての交渉材料にしていただくのが良いかと。」
「ふむ…
たしかにな。
助けられるなら助けておいた方がいいだろう。
よし、彼を砦の救護室に運んでくれ。
戦争の事なら気にするな、もう我らの出番は無いだろう。」
「わかりました。」
俺はカルロスの肉体に光速移動のための魔法をかけて出来るだけ体に負担がかからないようにして救護室へ運搬するのだった。
それからはたしかに俺の出番はなかった。
ドイチル国の軍は瞬く間にクロイス国の軍を国土から叩き出し、逆侵攻を仕掛けた。
それによってクロイス国の領土の5分の1当たり前で手中に収めることとなる。
そのあたりでクロイス国から和平の使者がやってきて停戦が持ち掛けられた。
ドイチル国としても逆侵攻に成功したとはいえ、戦費は嵩み被害もバカにならず、クロイス国を全て飲み込んだとて、クロイス国自体が経済的に負債を抱え込んだ毒饅頭だ。
統治する方がマイナスが大きい。
そのため、ドイチル国も和平に同意し、今回の戦争で得た領地と賠償金で手を打ったのだった。
俺はというと英雄として祭り上げられ、多額の報奨金をいただいた。
このお金を村に注入したことで、村に訪れる商人が増え、商人も定着したうえに村で結婚ラッシュが発生したのだ。
経済的な不安が無くなった事で村に来ていた兵や商人と結ばれる人が続出。
その中で村長となった商人が英雄ハヌマーンを元にしたモニュメントや商品を展開したことで、観光資源が生まれて村は町になり、暮らしも豊かになっていった。
俺はというと村ほど順風満帆とはいかなかった。
初めは英雄として祭り上げられて大いに国威の向上や戦意向上のためのプロパガンダとして活用させられた。
まぁ、これは受け取った報奨金の分の仕事だからと割り切って利用されるがままとした。
ただ、戦争が終結するとそれも必要無くなる。
そうなると俺の台頭をよく思わない輩も現れる。
一時は貴族への陞爵という話もあったのだが、俺の年齢と出身を問題視する声が上がったり、騎士でも兵士でも、ましてや貴族ではない輩が力を持ちすぎている事を問題視するやつが居たりとさまざまな邪魔が入って陞爵の話は流れてしまった。
まぁ、俺自身貴族になる事に興味なんてなかったので、まぁ良いんだが問題は俺の力を問題視した奴等が俺を秘密裏に暗殺しようと動き出した事だ。
自分でこれを退けたり、クロード男爵に助けられたり、何故か俺の従者のようになってしまったカルロスの機転で助かったりとなんとかなってきたのだが、流石にこのままでは母さん達にも被害が及びかねないということで俺はこの国を出奔することになったのだった。