原点の攻撃魔法
筆頭騎士カルロスが槍を地面に突き立てて悠然と立つ場所へ向かい一歩一歩、力強い足取りでハヌマーンは向かっていく。
敵兵は俺を見るなり明らかに楽観的な表情を浮かべた。
俺が年若い少年であるため侮っているのだろう。
ハヌマーンの装備も鎧を着用せず、皮鎧とマントそして普通の鉄剣だけという出で立ちなのも影響しているのだろう。
だが、カルロスは俺を見ても揺るがぬ態度でそこに立っていた。
「この砦を守る最強の騎士を所望と聞いた。
だが、あいにくと最強の騎士は貴殿が倒してしまわれた。
その代わり、この砦を守る最強の傭兵がお相手致そう!」
「よくぞ我が呼びかけに応じた、名も知れぬ若者よ。
砦の者たちが認めて送り出したのだ。
侮ることなどせぬし、手加減も期待するな。
この我が!全力で汝を葬り去ろう!!」
カルロスの叫び声が空気を震わせ、ビリビリとして緊張感が戦場に迸る。
「私の名はハヌマーン!仙魔と謳われたこの砦最強の傭兵なり!!」
「意気やよし!我こそはクロイス国 筆頭騎士! カルロス・フォン・エイブラス!!」
「「いざ尋常に勝負!!!」」
ハヌマーンが叫ぶと同時に、一瞬で空間が歪んだような感覚が彼の体を包む。光速移動の魔法で敵から見て右斜め前方へ向けて移動する。
同時にオドの濃度を高めて頭に集中し、光速移動中も即座に反応できるようにしながら指弾を撃っていく。
「早い上に無詠唱魔法!だが!!」
指弾は全て槍と相手の鎧に阻まれてしまう。
「大気よ雷を我が槍に捧げよ。我が敵と槍を雷で結びて彼奴に馳走せん!」
カルロスの詠唱が聞こえる。
俺は詠唱が終わる瞬間を見計らう。
「いざ雷を纏いて飛翔せよ!剛雷槍!!」
今だ!俺は遠見の魔法を使って空中へ自分を射出する。
自分が射出に利用した足場を槍が打ち貫くのが見えた。
凄まじい威力だ…
俺は空中で態勢を整えてカルロスを見る。
「それで我が槍を避けられたと思うてか!」
カルロスがそういうと、後ろに飛び去ったはずの槍がこちらに方向を変えて飛んで来ようとしているのが見えた。
そうか、電磁石!
俺の持っている剣にやつの槍が引き寄せられているんだ!!
気付いた俺は剣を槍に向かって投擲する。
すると予想通り、槍は剣に引き寄せられていき剣とぶつかったところで雷光を迸らせて勢いを失った。
「何!そうかハヌマーンは鎧を着ていない。
剣さえ捨てれば我が槍は剣に引き寄せられてしまうということか!」
槍という武器がなくなったカルロスは腰から下げていた剣を引き抜こうとしている。
だが、その剣で攻撃する隙は与えない!
俺が回避のためだけに上空へ飛んだと思っているのだろう。
だが、俺はそんな間抜けな真似はしない!
砦と対岸を繋ぐ唯一の橋を破壊した、魔法「メテオ」を俺は空中で発動させる。
「吹っ飛べえええええええ!」
バスケットボールほどの大きさの岩が炎を纏って射出される。
こちらの攻撃に気づいたカルロスは回避しようと走り出す。
だが、俺は即座に小規模な塹壕魔法をカルロスの足元に展開して態勢を崩させて転倒させる。
カルロスはとっさの転倒にもかかわらず前転する形で着弾点から距離を取ろうとしている。
俺の体も重力に引き寄せられて地面へと向かっている。
メテオが着弾し、転倒の影響で距離が足らなかったカルロスの背を爆発したさいに飛散した岩が殺到する。
俺は地面につく前にもう一度メテオを放つ。
「もう一発!」
背中に受けた岩によって鎧が破損してダメージを負ったのだろう。
一瞬動きが遅れたが、すぐさまその場から離脱を図る。
メテオがカルロスの居た場所に着弾して爆発する。
今度は着弾の寸前で伏せることで被弾を避けたようだ。
だが、その態勢ではすぐに反応できないだろう!
「うおおおおおおおおお」
俺は雄たけびを上げながら光速移動を使ってカルロスのもとへ突き進み、とどめの一撃を準備する。
だが、カルロスの口から何かが聞こえる。
「…いて飛翔せよ!剛雷槍!」
!!!
回避に専念していたはずのあの状況で詠唱を唱えていたのだ。
彼の手には槍はない。
だが、その手から鉄の剣が投げ放たれた。
そうか、鉄の武器でありさえすればその技は放てるのか。
俺は驚愕していた。
眼前には既に雷を纏った剣が目の前にあり、回避など間に合うはずもなかった。
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俺が、あらゆるエネルギーを魔力に変換する技術が無ければ死んでいたのは俺の方だっただろう…
そのまま気にすることなく剣へと突っ込でぶつかる。
その瞬間剣が持つ運動エネルギーと電気エネルギーが魔力に変換される。
俺はその増えた魔力と唾液を魔力に変換する。
そして立ち上がろうとした姿勢で驚愕していたカルロスに向かっていく。
カルロスはすぐさま気を取り直して防御の姿勢をとる。
その機転の速さは見事だが、この一撃の前では葉を盾とするが如し!
俺は彼の腕に手のひらを当てた状態になって停止する。
一瞬の静寂。
今から放つのは俺が最初に覚えた魔法。
ただ前方に運動エネルギーを押し出すだけの魔法。
おれはこの魔法をこう名付けた。
「発勁!!」
俺がそう唱えた瞬間、彼は風の爆発とともに大きく後ろへ吹き飛ばされる。
地面にたたきつけられて数度転がったあと、彼は起き上がることなく倒れ伏していた。