異名確定
50人の捕虜達は武装解除をさせたうえで、手を拘束し、後方の町へ移送した。
移送には砦の後方に橋をかける必要があったが、俺が魔法で橋をかければ問題ない。
移送が開始されて、部隊が見えなくなったところで後方の橋を撤去。
敵にどうぞ入ってきてくださいとばかりに翌朝には再び門を開けて岩の橋を正面にかけた。
しかし、昨日の50人の捕縛が効いたのだろう。
罠だと気付いているため、昨日のように攻めて来ない。
その日は敵は様子見に終始して、戦闘は発生しなかった。
時間は援軍到着が期待出来る俺達の味方だ。
敵も後方に居た部隊が合流したが、こちらは昨日の戦果もあって士気も高まっている。
それもそうだろう、自分達を苦しめた一撃離脱戦法はこの砦に対して効果がなく、自軍よりも遥かに多い敵に対して50人もの捕虜をとる大金星を挙げたのだから。
しかし、俺は油断していなかった。
俺が作ったのはあくまで簡易的な砦だ。
簡易的ということはこれより堅固な砦など数多ある事を示している。
で、あるならそれらに対抗する方法も存在しているはずなのだ。
今回の敵は数こそ多いものの、攻城戦の準備をしていなかった軍に過ぎない。
今敵は攻城戦の準備をしているはずなのだ。
油断など出来る筈もなかった。
翌日、案の定敵に動きがあった。
俺は遠見魔法でそれを察知してクロード様へ伝える。
「敵の軍勢が迫ってきております!橋は渡らず、こちらの攻撃がギリギリ届かない場所にて進軍を停止しました。何やら魔法使い達が集まって何かをしようとしている様子です。」
「なに!それはもしかすると合同魔法を使おうとしているのかもしれん!今すぐに…」
クロード様が何かを言いかけるとドーンという轟音と共に第一防壁が崩される音がした。
クロード様に言われて急いで壁の修復と被害状況の確認に向かうと防壁が崩された事で防壁の上にいた味方数名に被害が出ていた。
敵は進軍してきておらず、次の魔法を準備しているようだ。
なるほど、これが魔法使いによる本来の攻城戦か!
一人では岩の城壁は崩せなくとも合同で魔法を使えば崩すことが出来るということだろう。
俺は即座に第一防壁を再生させる魔法を発動した。
こうなれば根比べだ!
俺は一人だが、防壁は材料さえあれば大した魔力を消費せずに再構築が可能。
いくら敵が大人数とはいえ、この程度の被害で済むなら問題ない。
俺自身は砦内部で塹壕魔法と岩楯の魔法を組み合わせて次の衝撃に備える。
他の兵はクロード男爵様が第二防壁まで下げさせた。
第一防壁に兵がいないので防御能力は若干低下するが防壁は何層にも重ねてあるのだ問題ない。
しばらくすると再びドーンという轟音が鳴り響き、防壁が崩れてきた。
すかさず俺は完全に防壁が崩れ去るまえに再構築の魔法を使って元に戻す。
そして敵からざわめきのようなものが聞こえて来たので聴覚強化をして耳を澄ます。
「う、嘘だろ攻城戦用合同魔法国崩しだぞ?
それを受けて防壁が健在だって!?」
「いや、国崩しは効いている。
最初はちゃんと崩れただろ」
「じゃあなんで防壁が健在なんだ!」
「きっと直したんだ。
直ぐにな。
さっきも時間を巻き戻すように直っていっただろう。
そんな大魔法が何度も使えるなんて思いたくなかったがな…」
なるほどあの爆発の魔法は国崩しというのか。
切り札すら効果が薄い事に敵は動揺しているんだな。
しばらく、様子を見ていると敵陣から将が一人歩み出て来た。
「我こそはクロイス国 筆頭騎士! カルロス・フォン・エイブラス!
この砦を守る最強の騎士との一騎打ちを望む!!
尋常に勝負せよ!
正午まで待つ!!」
そう将軍が宣言すると、敵兵が後ろへ後退していった。
俺も塹壕から抜け出してクロード様の元に戻って判断を仰ぐことにした。
「困った事になったな。
まさかカルロス卿がまたも一騎打ちを仕掛けてくるとは…
しかも我ら魔法騎士の中に、かの御仁に抗しうる者はいない。
他の諸侯と話し合ったが、代表者が不在の今、一騎打ちは出来ないだろう。」
「そもそも一騎打ちなんてしなくていいんじゃないですか?
こちらに受けるメリットなんて無いわけですし…」
「ところがそうでもない。
敵はこちらに城壁を破壊できる武威を見せてきた。
ハヌマーンの魔法ですぐに再構築出来たとはいえ、兵達の心理的な恐怖は拭いきれん。
ここで一騎打ちに勝てば逆に敵は攻撃が無為に終わったことと精神的支柱を失うことによって士気が瓦解するだろう。
そしてこちらの士気は鰻登りだ。」
「でも負けたらどうなるんですか?」
「負ければこちらの士気が低下して、相手の士気が上がるだろう。それでもこの砦なら易々とは落ちないだろうが、負けの目が増えることは避けられん。
一騎打ちをしなくてもそれは同じことだがな。
大将が死なないだけマシと言えるかもしれんがな」
「その一騎打ち、私に任せてもらう事は出来ませんか?」
「ハヌマーンに?
たしかに君ならあの騎士に勝てる可能性はあるが…
本当に良いのか?
敵は我らの最強の魔法騎士を降した猛将だぞ。」
「構いません、私はクロード様から受けた恩を返したいのです。
そして私であればこの一騎打ちで死ぬ事は無いという自信があります。」
その自信があらゆるエネルギーをオドに変換することで無力化出来る魔法が根拠であることは言うまでもない。
近くに居た諸侯の一人が話しかけてくる。
「一夜にしてこんな砦を築くことが出来るやつだ。
お前さんが子供だからとみくびる奴はここにはおらんだろう。
だが、一騎打ちに参加するからにはある程度の箔がなきゃならん。」
「それならこの坊主に今から異名をつければ良かろう。
一夜城の魔法使いなんてどうだ?」
「あんまり強そうじゃねぇな…
クロード卿。
あんたこの坊主の出身の領主なんだろ?
これほどの覚醒者だ。
地元でも有名になってるんじゃねぇのかい」
「たしかにクロードは有名だ。
あまりに早く動き、空を飛ぶように駆けることから伝説の仙人のような魔法使いだと言われている。
私もそんな彼の移動能力を買って伝令役の傭兵として雇い入れたのだ。」
「なるほど仙人のような魔法使いね。
たしかにこいつにぴったりだ。」
「だが、それでは異名としては長すぎるな…」
「ふむ…
では、ハヌマーン。
お主には仙魔の傭兵という異名を与えようと思う。
どうかな?」
「はい、クロード様。
私は今日から仙魔の傭兵と名乗ります!」
——
そうこの時に俺は仙人のような魔法使い傭兵。
仙魔の傭兵となったのだ。
——