反撃開始
セキサスへの増援要請はすぐに終わらせて帰ってきた。
行って帰ってくるまで2時間も経っていないだろう。
今回は急ぎだったので街のギリギリまで光速移動を使って移動したのだ。
領主様に繋いでもらい、援軍要請を行ったが緊急の伝令ということでさほど待たされることもなかったのだ。
また、俺はせっかく街に立ち寄ったのだからと、大量の物資をいままで貯めていたお金を使って購入し、防衛陣地まで運ぶことにした。
たしかに糧食は前の陣地からいくつかクロード様の軍が回収していたのだが、戦時用の保存食ばかりであまりおいしいものでもないのだ。
その点街の料理は温かく、美味い。
俺なら重力を軽くして大量に持ち運べるのだからケチることはないと鍋ごと購入して運搬することにした。
正直他人の食べ物のためにお金を使うのは少しだけ抵抗があったのだが、クロード様や軍のお偉いさんから流石に補填があるだろうと見込んで大量購入しておいた。
物資を買い込んだ俺は休むことを進めてくださったセキサス子爵にお礼を言いつつ、援軍の用意を待たずに戦場へと舞い戻ったのだ。
話では2日かあれば準備が整うとのことで3日耐えれば増援が見込めるとのことだったのだ。
ならば、少しでも耐えられるように兵士の士気向上につながればと考えての食料調達だったのだが、これが思いのほか好評だった。
「こんな温かくて旨いものを、戦場で食べられるとは思わなかったよ!」
「保存食ばかりだったからな…この肉の香りと柔らかさが沁みるぜ」
「冷えた干し肉ばかりだったから、温かいスープがこんなにありがたいとはな…」
皆、噛みしめながら用意した食事を食べてくれた。
クロード男爵からも
「戦場に温かい飯を届けるとは…なかなかできることではない。
感謝するぞ、ハヌマーン。
代金は後で私が必ず払う、本当によくやってくれた。
兵たちの士気もこれで持ち直したことだろう。」
「ちょっとした思い付きで、自分も温かい食事が食べたくなって買ってきただけだったんですが
兵の士気に影響が出るほどのことだったんですか?」
「あぁ、食事というものは案外馬鹿に出来ないものだ。
そもそも兵士の中には飢えずに済むために兵に志願した者たちも多い。
敵に押されていて気持ちが苦しいなかでこの暖かく美味しい食事。
これは心に刻まれたものも多いだろう。
君の行いはそれほど兵士たちに影響を与えたのだ。
もちろんこの強固な陣地という安心感があってこそのものであるがな。」
単なる思い付きだったのだが、行動して本当に良かったと感じた。
兵士たちも次々とお礼を言ってくれ、俺自身の士気も上がっていくのを感じる。
これなら援軍到着までの3日間をしのぎ切れるかもしれない!
夜が明けると、追撃をしに来ていたのであろう敵の部隊の姿が見えた。
皆一様にこの砦を見て驚いているようだ。
夜のうちに逃げてこれた味方は全て砦の内部に収容してある。
後は敵からの攻撃を防ぎきるのみ。
クロード男爵軍と一緒に逃げてきた予備兵力を担当していた軍の兵士たちが配置につく。
方針としては敵を砦の近くまで来させて投石や魔法を砦の凹凸の部分に隠れながら放ち、敵に被害を与える。
そして一定程度の敵を内部に誘因したら砦と敵陣を繋ぐ橋を俺の魔法で破壊して誘引した敵を孤立させて各個撃破を狙う形だ。
敵はお昼ごろまで待機し、魔法使いと騎馬兵を担当する兵たちの到着を待ってから一撃離脱戦法を試みるようだった。
一度近づいてきて橋は渡らずに石垣に向かって水の塊やラグビーボールくらいの岩、ボーリング玉くらいの大きさの火球を飛ばしてきたりしたのだが、砦はほぼ無傷と言っていいレベルで、敵はすごすごと引き返していった。
一度の攻撃で魔法による砦の破壊は難しいと悟ったのだろう。
今度は歩兵隊が砦を攻略するべく突撃してきた。
いわゆる無理攻めというものだろう。
だが、敵は攻城兵器もなく遠距離攻撃手段にも乏しい歩兵隊だ。
こちらから投げられるソフトボールくらいの大きさの岩の塊をぶつけられて昏倒するものが後を絶たない。
50人くらいが砦の中に入り内側の壁からも攻撃を行っている様子をおれは、砦内部の建物の屋上から、足元の地面を素早く盛り上げる事で自分を空中へ射出し、遠くまで見渡せる魔法こと「遠見魔法」を何度か使って戦況を確認していた。
現在は作戦通りに推移しているようだ。
そして敵兵50人ほどが中に突入してくるタイミングを見計らう。
そして、橋を破壊するために考案した、滞空中にバスケットボールほどの大きさの岩を熱エネルギーで高温にした後に爆発エネルギーと運動エネルギーに変換させた魔力を乗せて射出する魔法「メテオ」を使用して岩の橋を打ち崩した。
「うわああああああああああ」
「な、なんだ!?急に橋が爆発したぞ!!!」
「え、これじゃあ俺たち陣地に戻れねぇじゃねぇか…」
敵の兵士の悲鳴と動揺の声が聞こえる。
ほとんどの兵は砦の外に取り残された。
中にいる兵はわずか50名ばかり。
そしてこちらの兵力はまだ400は維持している。
そしてその50名を囲むように隠れていた兵士たちが次々と敵を包囲し、さらにわざと開けてあった砦の扉が閉じられた。
クロード男爵が告げる
「君たちは、我らの陣に孤立した。おとなしく投降するなら捕虜として丁重に扱うことを約束しよう。投降するものは武器を捨て手を頭の前で組んでうつぶせになるように。そのポーズをとっているものは殺さない。」
そう告げると自分たちに勝ちの目が無いことが分かったのだろう。
敵兵は一人また一人とうつぶせになっていく。
諦めるものが出てそれが連鎖していったからだろう、敵の指揮官も諦めて投降することを選んだのだった。