表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仙魔の傭兵  作者: 安綱
5/9

クロイス国 筆頭騎士カルロス視点

我が国は資源が乏しい。

海に接してもおらず、山もない。

広い平原といくばくかの林があるのみだ。


川はあるが、よく氾濫を起こして田畑の多くに被害をもたらす。

だがこの川を利用しなければ畑を満足に使用することもできん。


ゆえに我が国は災害に弱く、災害のたびに他国から食料を多く輸入しなければならないという制約がある国であった。

それには多くの銭がいる。

だが、特産物もないこのような土地に多くの銭など集まるはずもない。

必然我が国はその財政逼迫状態を解消するために、他国から土地と資源を奪う方向へと舵を切ったのだ。


そして最初の標的となったのが国境付近での小競り合いが絶えず、仮想敵国となっていたドイチル国である。

我が国は貧しいゆえに食うに困った民が野盗となりドイチル国を脅かすことが多々あったのだ。

この国は豊富な森林資源に周囲を山に囲まれた天然の要害を要す国であり、隣国は我が国のみ。

他国とは国交を結んでいないため他所からのちょっかいをかけられることもない。

自国のみで生きるのには困らないからと引きこもりを決めている国家なのである。


そして引きこもりを決めている国家であるからこそその軍事力も大したことがない。

いや守りに特化しており、一定程度の戦力は保持しているのだが、最新の技術の情報などは何も入ってこない閉鎖国家であるがゆえに時代に取り残されている国なのだ。


だからこそ我が国が付け入るスキがあるというもの。


昨今近隣国家で大戦果を挙げたという騎馬と魔法兵を組み合わせた一撃離脱戦法による陣地破壊戦略というものがある。これは中規模国家だったアレリア国と騎馬民族の国家だったハンス国との戦争の折、ハンス国の騎馬主体の攻撃に対して野戦ではさんざんに打ち負かされたアレリア国が砦に籠るようになった際、ハンス国が仕掛けたこの戦法によってアレリアの砦は瞬く間に陥落した。

そうして次々と国土を侵されていき、最後には王城をも占領されて支配されてしまったという出来事があったのだ。

いまではアレリア国は滅亡し、ハンス国に統一されてしまった。


我々はこのハンス国が使用した戦法を取り入れ、同じく守るしか能のないドイチル国を手中に収めようと宣戦布告を行い、進軍を開始したのだ。

大義名分は、ドイチル国が我が国の民を害したというものにした。

小競り合いが頻発していたので、大義名分を作るのには困らなかったのだ。


そうして、我らは進軍を開始した。


そして当初は目論見通りに推移していった。

貴重な騎馬兵と魔法兵を惜しげもなく使い、敵陣を悉く破壊しつくしていったのだ。


なぜか空堀だけは埋めても次の日にはすぐに掘り返されてしまったが、敵の馬防柵や木でつくられた防壁は見る影もないほどに壊れていった。

だがこちらも被害が全くなかったわけではない。


いくら最小限の被害に抑えられるように対策したとはいえ、敵にも魔法兵がおり、矢も多数飛んでくるのだ。

何人かは負傷したし、馬がやられて落馬し、討ち取られてしまったものもいた。


たしかに全体から見た被害は少ない。

だが、騎馬兵は金がかかるのだ。

貧困に喘ぐわが国で騎馬を養うのは並大抵ではない。

そして魔法兵も言わずもがな数がとても少ないため希少な戦力である。

その二つの超貴重な戦力を削られていく。

この戦法は確かに有用だが、その被害はわが国では見過ごせぬほど大きなものだった。


ゆえに我は一計を案じた。

こちらも被害が出ているとはいえ、敵から見ればほとんど倒せておらず自分たちばかり戦力を削られているようにみえていることだろう。

2日目から明らかに士気が低下しているのが見て取れた。


で、あるのならばここらで我が一騎打ちを申し出れば敵はこれを断れまい。

互いに最強の武将が戦うこの一騎打ちは、申し出を受けねば弱者であることを認めそのうえで命もかけずに逃げる卑怯者だとみなされる。

そのような卑怯者で弱者の将のもとで戦いたいものなどおるまい。

この士気が大きく低下した状況で一騎打ちから逃げれば、この将に従う価値なしと判断されて兵士は離散してしまうだろう。


もちろん負けても士気は瓦解する。

だが、勝てば士気は盛り返して戦況を5分にまで戻せる可能性があるのだ。


このままではじり貧だと奴らも考えているはず。

であれば一騎打ちを避けるなどという愚は犯すまい。


我が一騎打ちを申し出ると案の定やつらはこちらの提案に乗ってきた。

敵の将は真新しい鎧に巨大な剣を持つ雄姿のようだ。


敵にとって不足なしと見た我は今一度名乗りを上げて勝負を挑む。


「我こそはクロイス国 筆頭騎士! カルロス・フォン・エイブラス!!汝の名を問おう!」


「私の名はナリス伯が嫡子!ルーザリア・ナリス!!我が剛剣を持って汝が槍を打ち砕かん!!」


「よぉ吠えた!その意気や良し!!我が剛雷槍にて汝を撃ち貫かん!いざ尋常に」


「いざ尋常に勝負!!!


「肉体に剛力を!おおおおお!ストレングス!!」


ルーザリアがまず腕力強化の魔法を唱えて突っ込んでくる。

強化魔法は詠唱が短く済むため魔法騎士には特に好まれている一般的な魔法だ。


だが、こちらは槍、やつの剣もデカいとはいえリーチはこちらが上だ。

我は詠唱を開始しながらやつの攻撃をさばいていく。


いくら腕力を強化したとてそれは得物を自在に操ることができるようになるだけ。

元よりこの肉体は我が剛槍を操るにいささかの苦もない。

ゆえに我が唱えるのは肉体強化の魔法にあらず。


「大気よ雷を我が槍に捧げよ。我が敵と槍を雷で結びて彼奴に馳走せん!」


「くっ!させるわけには!!うおおおおおおおお!」


こちらが必殺の槍を放とうとしているのが分かったのだろう。

がむしゃらに剣をふるってせめてくる。


だが、我は後ろに大きく飛びすさり、奴の剣の間合いから離れる。


そして


「時は満ちた!いざ雷を纏いて飛翔せよ!剛雷槍!!」


我は詠唱が完了するタイミングで槍を投げた。


ルーザリアは覚悟を決めて槍を迎撃することを選んだ。


そして見事に剣を振り、飛翔する槍に合わせることに成功した。

目にもとまらぬ速さで飛翔する槍に剣を当てるなど早々出来る芸当ではない。

だが、奴が剣を槍に合わせた瞬間


「ぐがああああああああ」


我が槍が纏う雷が奴の剣を伝い、奴自身に強烈な一撃を見舞う。

そして若干軌道はそれたが、剣に槍を合わせた程度で我が一撃は減速などしない。


そうして飛翔した槍は奴の鎧とともに肩を貫いた。


我が剛雷槍は相手の金属鎧と槍を強力な電磁力で結び、槍に強力な雷を纏わせて射出する必殺の槍。

相手が金属の鎧をつけていれば避けることも弾いて防ぐことも不可能なのだ。


勝負は決した。

ルーザリアは倒れ伏し、致命傷は避けられたものの意識はない。


「この一騎打ちはクロイス国 筆頭騎士 カルロス・フォン・エイブラスの勝ちぞ!皆の者勝鬨を上げよ!」


「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」


「カルロス様」


我が勝利宣言を行うと侍従のスレイアが話しかけてきた。


「スレイアか、ちょうどいいルーザリア殿を捕虜として捕縛し、丁重に治療するのだ。」


「はっ!、ですがよろしいのですか?」


「うむ、このもの剛雷槍に剣を合わせて致命傷を防ぎおった。死なすには惜しい」


「カルロス様がそうおっしゃるのでしたら、承知致しました。」


将が敗れて囚われたからだろう。

敵兵は目に見えて士気が低下し、逃げ出す者もあらわれている。


「さぁ我らが勇敢なる(つわもの)どもよ!今こそ敵陣を食い破る時!!掛れええええええ!」


「「「「わあああああああああああああ」」」」


今まで温存させていて体力も有り余っていた歩兵たちが一斉に敵に進軍していく。

士気が地に落ちた現状では奴らに抗う術などないであろう。


そうして目論見通り最小限の被害でもって敵陣を突破することに成功した我らはそのまま追撃を慣行した。

多くの敵兵が逃げまどいながら討ち取られていく。

だがこの陣城にあったはずの糧食などの戦略物資が消えていた。


目端の利く輩が負けを見越して先に撤退していたのかもしれぬな。


だが多くの敵は蹴散らせたのだ。

この戦争は我らの勝ちで揺るがないだろう。


我はこの時まではそう確信していたのだ。

追撃した先で見た石造りの巨大な砦に行く手を阻まれるまでは…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ