9 こんなにも青い空の下で ユタカ
「―――……さん、颯間さん!?」
こえが きこえる……。
きき おぼえの ある かわいい こえ
いつみ のこえ?
「……?」
俺は、まだ生きているのか?
片方だけ目を開けると
夢か?
空港にいるはずのイツミが目の前にいた。
「颯間さん!!」
「……イツ、ミ?」
目の前に、こぼれそうな涙を瞳いっぱいにためた、イツミの笑顔があった。
何で、泣いているんだ?
俺が、また悪いのか?
イツミの頬に触れようと上げたはずの左腕には、まったく感覚がなかった。
「待ってて、今病院に連れて行ってあげるから!!」
え? ……病院?
あぁ、俺
もうすぐ死ぬんだっけ?
「……」
それなら……。
「……イツミ、もういい」
「えっ!?」
驚く、イツミの顔が、少しかすむ。意識を保つのも、つらくなってきた……。
「俺は、……もうすぐ死ぬから、置いていっていい」
「……なに、言ってるの?」
震えるイツミの声。
「……イツミ、早くここを離れろ、巻き込まれる」
「……っ!? だからアタシが助けに来たんだよ?」
「イツミ、早く……」
最期に、会えて良かった。想いは、伝えられないけれど……。
俺は、ぼんやりと目の前に広がる青い空を見つめた。
きれい、だな……。
「バカッ!!」
えっ?
少女の手で、思い切り頬を挟まれて俺は、イツミの顔を見ることになった。
「……?」
「あなたはここで死なないの! アタシが助けるの!!」
そう断言した少女の手は震えていた。
「……っ」
あぁ、これは本当に夢かも知れない。俺が作り出した、都合のいい最期の夢。
ふわふわとして気持ちいい、幸せな……。
夢なら……、出来なかったことをしても許されるだろうか?
動く方の右手で、俺は、イツミの身体を引き寄せる。バランスを失ったイツミが、胸の中に倒れ込む。
「……そ、颯間さん!?」
混乱した彼女の声が、すぐ近くで響いた。
「好きだよ、イツミ……」
聴かないことにして、ゴメン。傷付けて、ゴメン。
言わないつもりの言葉を、夢の中で叶えるのを許してくれ……。
「……っ、バカァ……」
ギュッと、胸にしがみつく感覚。俺は、イツミを抱く手に力を込めた。
「……」
たぶん、もう悔いはない……。
こんなにも晴れた青い空の下で、逝くのも悪くない。
なんて都合のいい夢なんだろう。
視界がかすむ、晴れた青い空が歪んで止まる。
白い空になって俺の目に映る。
俺は、胸に抱いた愛しい感覚をかみしめながら目を閉じた。
直後…―――
もの凄い爆音が響いて、俺の意識は途絶えた。