表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

8 別れの絆 イツミ


 とんとん拍子って、こう言うことを言うのかも知れない。って言うほど、アエカちゃんの行動力のおかげで、アタシは、九月の連休にアメリカへ行く飛行機に乗ろうとしていた。



「……」



 ライル博士がウチに来て、親に挨拶した時は、正直どうしようかと思ったけど……。



「イツミ~! もうすぐお空の上だね~」



 飛行機の窓際のシートに、楽しそうに座るアエカちゃん。相変わらず、可憐で可愛い。



「そ~だね、アエカちゃん飛行機初めて?」


「うん、初めて♪」


「飛行機って雲の上を飛ぶんだよ、アタシその景色が好きなんだ」


「へぇ、雲の上」



 キラキラと目を輝かせるアエカちゃんが、普通の子供と変わらなく見えて、とても可愛かった。



「……」



 でも、空港に着いたら、アエカちゃんしかいなくて正直びっくりした。アエカちゃんが持ってたチケットで搭乗手続きをして、何とか飛行機のシートに座ったけど……。



「博士ね~、ナンか学会の発表が繰り上がったって、朝一で先に行っちゃったんだ」



 あはは……、また、心読まれちゃった。全然イヤじゃないのが不思議だけど。


 でも、そのまま二人だけで飛行機に乗るとは、正直思わなかった。アエカちゃんは、けっこうな超能力を持っていて、研究所から出られない立場なのに、誰もついている人がいないなんてヘンな話だ。


 大丈夫なのかな?



「……大丈夫、ちゃんと監視とSPの人、周りにいっぱいいるから」


「えっ!?」



 アエカちゃんの声があんまり小さくて、よく聞こえなかった。一瞬だけ、つまらなそうな顔でうつむく。


 あっ……。


 声をかけようとした直後、離陸のアナウンスが流れた。



「イツミ、そろそろ跳ぶね!」



 何事もなかったように、アエカちゃんは笑顔で顔を上げた。



「……うん」



 飛行機が、ゆっくり滑走路へ移動を始める。



「ねえ、イツミ」


「ん?」


「ユタカとちゃんとお別れした?」



 ドキッ



「……」



 アエカちゃんにウソ言っても、きっと、わかっちゃうから……。



「……実は、会うの、怖くてお手紙だけ置いてきちゃったんだ」


「そうなんだ?」



 アエカちゃんは、前を向いていたけど、どこか違う所を見て返事をした。

 

 飛行機が、最終滑走路に入り加速を始めた。



「もうすぐ飛ぶのかな?」


「うん、走りきった感じがして、ふわっと陸を感じなくなるんだよ」



 アタシの言葉通り、走りきった飛行機が、不意に空へ舞い上がる。



「わぁ、ホントだぁ! 面白いね」



 嬉しそうに、アエカちゃんが窓の外を見る。飛行機は、どんどん高度を上げて雲の上を目指していた。



「ねぇイツミ、未来ってどんなモノだと思う?」



 えっ!?



「……未来?」


「うん」



 突然の質問に、アタシは考え込んだ。未来がなんとなく、こんな感じ? と言うモノさえ思ったことがなかったから。



「……明日とか、一年後、十年後の自分のこととか?」



 大人になったら、何になる? ……みたいなこと? 考えたことなさ過ぎて、上手く言葉にならないや。



「ん~、例えば、数ヶ月前ユタカと会ったでしょ?」


「う、うん」



 颯間さんの名前が出ただけなのに、まだドキッとしてしまう。



「その時は、ボクと会うこともアメリカに行くことも、考えたことさえなかったよね?」


「うん」



 正直アメリカ行きは、颯間さんにフラれて、ライル博士に出会ってお話したから決められたことだった。



「たくさんのコトがあって、イツミは今ここにいるよね?」


「うん?」



 アエカちゃんは何を、アタシに伝えようとしているんだろう?



「超能力を使って見える未来って、一つじゃないんだよ」


「……」



 超能力で見える未来?



「ユタカに会って、研究所にイツミが来たでしょ? そしてボクに会って、博士にも出会った」


「うん」


「でも、イツミは研究所に来ない選択も、あったよね?」



 あっ……。


 確かに、メモを渡されて颯間さんに興味はあったけど、夏休みでなければ行かなかったかも知れない。



「うん、そうかも……」


「その時にはね、同時に二つの未来が存在していて、見える能力者は二つともの未来を見ることが出来るんだよ」


「……」



 それは、どう言う意味なんだろう?



「決められた未来は確かにある、でもね、それは一つじゃないんだよ」


「……」



 アエカちゃんの言葉に、アタシの胸がドキドキし始める。



「アエカちゃん、それって……」



 アタシと颯間さんのこと?



「……」



 アタシ、もしかしてまだ、あきらめなくてもいいの?



「……うん、イツミには二つの未来があるんだよ?」



 自分の鼓動が、全身で響いている。



「でも、あと少しで一つの未来に決まってしまう」


「えっ!?」


「……そしてね、ボクの未来も、ユタカの未来も半分なくなってしまう」



 えっ!?


 アタシは、大人びた顔で言うアエカちゃんを見つめた。



「それって……」



 アタシの選択で、見えていたはずの未来の半分が決まってしまうこと?



「……ユタカが今、車で空港に向かっているよ?」


「えっ?」



 無表情なアエカちゃんが、別の空間を見つめて言う。



「助手席に、イツミの手紙が置いてある」



 アエカちゃんの言葉に、ドキッとする。



「引きとめようとしてるのかな? イツミはもう空の上なのにね?」



 遠隔透視?


 アエカちゃんは、ここにいて、空港に向かう颯間さんを見ている。


 あと少しで閉ざされてしまう、半分の未来。アタシの鼓動が速くなる。



「アエカちゃん、アタシの選択する未来って、聞いちゃダメなモノ?」


「……うぅん大丈夫、イツミが選ぶ未来だから」


「お願い、教えて?」



 何故か、ものスゴく嫌な予感がする。



「イツミの選択は二つ、一つはこのままアメリカへ行く未来、もう一つはユタカを助けて日本に残る未来」


「えっ?」



 颯間さんを助ける?



「……これからユタカは高速で事故にあう、一つはイツミに助けられる未来、もう一つは引火した車の爆発に巻き込まれて…」


「……っ!?」



 全身に冷たいモノが走った。……事故に、巻き込まれて?



「……ユタカの一生が終わる未来」



 !!??



「それって、あとどのくらい? どうやって助ければいいの? ……アエカちゃん!」



 アタシは、アエカちゃんの肩をつかんで何度も揺さぶった。つかんだ腕が震えている。時間がない、だってもうこんな空の上……。



「アエカちゃん? アエカちゃん!!」



 アタシどうすればいいの?



「颯間さんを助けるには、どうすれば?」



 全身がガクガクと震えて、アタシは、泣きそうな悲鳴をあげた。



「……イツミ、見て?」



 頭を抱えるように、アエカちゃんの小さな手が挟むようにアタシを包む。そして、額にアエカちゃんのおでこが触れる。


 !!??


 頭の中に、突然、映し出される映像。


 颯間、さん?


 車の中、イライラしたような颯間さんが運転している。助手席の上に、手紙が開いた状態で置いてあった。それは、アタシが書いた手紙だった。


 そして、……あっ。どこで迷い込んだのか、一匹の子犬が路上に立っていた。すでに轢かれた後か、真っ赤に染まる胴体の切れ目から、垂れ落ちる鮮血。震えながらなんとか立っていて……。



『間に合わない!』



 颯間さんが、あわててハンドルを切ろうとしたが、ちょうど走って来た左斜線の車に激突してしまった。



『―――…イツミッ!』



 颯間さんの声が、頭の中で響いた。



「―――…~~っ!!??」



 アタシは、声にならない悲鳴を上げた。


 だって、だって……。



「イツミ、急がないとユタカが!」



 えっ? 悲鳴にも似た、アエカちゃんの声に震える。



「あっ……」



 ヤだ、怖い……。だって颯間さんが、……アタシ、どうすればいいのか、わからな……。



「イツミ!」



 小さな手が、アタシの両肩をつかんで揺さぶった。幼さに不釣り合いなほどの真剣な瞳。



「……アエカ、ちゃん?」


「博士の言葉を思い出して、強く願えば、イツミはユタカの所でもドコでも行ける力があるんだよ?」


「……ツヨ、く?」


「そう、イツミにはユタカを助けられる力があるんだよ?」


「……」



 アタシ、が? 颯間さんを?



「早く、時間がない!」


「……っ」



 颯間さん、颯間さんっ!


 アエカちゃんの言葉で、アタシは颯間さんのことを強く想った。頭が、ズキンッと痛くなる。


 アタシは、頭の中で、アエカちゃんの見せてくれた映像を思い描いた。あそこへ行かなくちゃ、颯間さんを助けなきゃっ!


 颯間さん……、ソウマサン。


 颯間さんっ!!



「……あっ」



 目の前に、倒れた颯間さんが見えた。まわりの音と言う音が消え、空気の幕のようなモノがアタシの体をすり抜ける。



 時間の止まった色のない世界…―――



 アタシは、それどころじゃなく目の前に続く長い道を凝視していた。あなたへと繋がる、白い真っ直ぐな道、アタシが作った白い道。



「颯間さん……」



 アタシは、真っ直ぐに墜ちるように下に伸びる道へ、ためらうことなく飛び降りた。



 はやく、一秒でも速く、あなたのもとへ…―――



 墜ちるように続く、白い真っ直ぐな道。音のない白い空間、歪んで止まる景色。


 あなたへと続く道を、時間と空間を引き寄せて、アタシは、ただ真っ直ぐに、まっすぐに進んだ。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ