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7 博士と言う人 イツミ


『―――…イツミ、なにやってんの?』



 へっ?


 あの告白から三日。


 案の定、颯間さんにフラれて、研究室に行けなくなっているアタシの頭の中で、急に声が聞こえた。その声は、アエカちゃんのモノだった。



「えっ!? ……アエカ、ちゃん???」



 ど、どこにいるの?


 部屋の中を探しても、アエカちゃんの姿は見えない。



『遠隔テレパス』


「えっ? ……かくテレバス?」


『ぼく、このエリア内でしか自由に動けないから、これがせいいっぱい』



 スゴいな、あんな遠くから、アエカちゃんは声も送れるんだ?



『――…イツミは、もうここには来ないの?』



 頭に響く声が、寂しそうにアタシの中で響く。



「……アエカちゃん、アタシフラれちゃったんだ」


『えっ!? ユタカが? イツミを!?』



 驚く、アタシの中の声。



「……うん」



 告白、聞かなかったことに、されちゃったダケなんだけど、ね……。



『……』



 ゴロン、とベッドに転がって、アタシは天井を仰いだ。やっぱ、中学生じゃ、女とは思ってもらえないよね?



『そんなことない! だって、ユタカはっ!』



 怒ったような大声が頭の中で響く。その声で、ちょっとだけ頭が痛い。



「……アエカ、ちゃん?」


『待ってて、ボク、ユタカに言ってくるから!』


「えっ? ……待って、何を?」



 アタシはあわてて起き上がる。頭の中で響いていた声が、まったく反応がなくなってしまった。


 言うって、……何を?



「……アエカちゃん? アエカちゃん???」



 響かなくなったアエカちゃんの声。


 どうしよう。



「……」



 アタシは、いてもたってもいられず起き上がると、クローゼットを開け目に入ったワンピースを被り、研究所へ行くために家を飛び出した。



 暑い…―――



 こないだの雨とは打って変わって、真夏の太陽がジリジリと髪を焼く。にじむ汗とゆがむ蝉の声。



「……ハァ、ハァ」



 走って来た研究所の前、迎えてくれる涼しい球体カプセルに乗り込むと、アタシは一息ついた。



「……はぁ」



 アエカちゃん、無理してないといいけど。



「ホンット、ムカツく! 何あの頭カタイの、もうオッサンだよね、オッサン!」



 えっ!?


 不意に、聞こえたかと思うと、すぐ横にアエカちゃんが座っていた。



「アエカちゃん!?」


「イツミ、ユタカなんてやめちゃいな!」



 アエカちゃんは、真っ赤な顔して怒っていた。とりあえず、落ち着いてもらわないと、お話にならなそう……。



「……どうしたの? アエカちゃん」



 それに、やめるもナニも、もうフラレちゃってるんだけどね?



「……せっかく、一番簡単な選択を教えてあげたのに、ホント頑固で分からず屋なんだから!」


「……」



 簡単な選択? アエカちゃんは、何か違うことで怒っているのかな?



「未来は、まだ決まってないのに」


「???」



 未来?



「イツミは、ユタカのことまだ好きでしょ?」


「えっ!?」



 アタシの顔が、一気に熱くなる。……何でまた、イキナリこの質問なの?



「……う、うん」



 アエカちゃんが、あんまり真っ直ぐアタシを見て言うから。


 頷くのも、恥ずかしい……。



「だよねぇ~」



 仕方ないって、ため息をついた後、アエカちゃんは不意にアタシの手をとった。



「アエカ、ちゃん?」


「イツミ、博士の所に行こう」


「へ? ……博士って、アメリカ、の?」


「うん、今はまだ日本にいる、ボク紹介するから行こう?」



 え、っと、何て答えればいいのか混乱していた。アメリカに行く気はなかったし、この力だって特に何もしなければ、きっと普通に暮らせるレベルだろう。



「……」



 でも、このまま遠退いて、何もなかったみたいに颯間さんとのこと、ここでのこと、忘れて生きていくのかな?


 それはとても味気なく、寂しいような気持ちがした。



「そうだよイツミ、そんな寂しいこと考えないで?」



 差し出された可愛いアエカちゃんの手。



「……う、ん」



 アタシは、引き寄せられるように自分の手を重ねた。そして……。


 !!??


 グラ~ッと、まわりの景色がゆがんで、時間が止まった白い空間に入る。


 アエカちゃんが作る、白い道。



『行くよ? イツミ』



 アタシの頭の中で声が響いた。頷く代わりに、手を強く握り返す。手の中には、アエカちゃんの手の感覚。うん、大丈夫。


 泳ぐように


 歩くように


 その道のゴールに向かって、アタシは一本の道を進んだ。



 そうして行き着いた部屋は、知らない場所だった…―――



「……」



 颯間さんの研究室と同じような作りのはずなのに、全然違う。



「博士~っ!! イツミ連れて来たよ」



 ぱちんっと、空間の割れる感覚。


 次の瞬間、全ての時間が流れ出す。


 目の前に、優しそうな外国の……、白衣を着たおじいさんが立っていた。


 あっ……。



「一緒に跳んで来たのかい?」


「うん、イツミも跳べるんだよ」



 颯間さんと同じ形の、白衣を着た上品な老人だった。



「……」


「はじめまして、ロバート・ライルだ、ここでは心のお医者さんみたいなことをしている」


「あっ、初め、まして……、佐藤五美です」



 にこやかに差し出された右手に、握手した瞬間、とても暖かい人だと何故か思った。



「心の、お医者さん?」



 超能力研究の博士じゃなくて?



「そうだよ? お嬢さん」



 まるで、心の中を読んでいたかのような言葉に、ドキッとした。



「あなたも、心が読めるんですか!?」



 アタシの言葉にライル博士は目を丸くして、すぐに大きな声で笑い出した。



「イツミは面白い子だね」



 あっ……。


 目線が同じになるように、ライル博士はかがんでアタシの顔を覗き込んでいる。


 そう言う人、なんだ。



「私には能力はない、でも、能力を持っている子達にだけ、素敵な魔法がちょっとだけ使える」


「……ま、魔法?」


「そう、心が楽しくなる魔法をね?」



 イタズラっぽい笑顔で、博士はウインクした。アタシは思わす笑ってしまった。以前颯間さんに、キャンディをもらった時のことを思い出したから。


 少し似てる……。


 きっと颯間さんは、この博士に教わったりしたんだ。思い出したらちょっとだけ、胸の奥が痛んだ。



「博士っ! イツミもアメリカ行きたいって!!」



 えっ!?



「アエカちゃん!?」



 まだ、アメリカに行きたいなんて、言ってなかったよね?



「ゼンはいそげだよ、イツミ」



 意味がよくわからないよ、アエカちゃん……。それにしても何て言おう、まだアメリカなんて、夢のまたユメだわ。



「イツミは、超能力って、どんなモノだと思っているのかな?」



 えっ?


 目の前の博士が、とてもやわらかい表情で、アタシを見ていた。超能力がどんなもの、か?



「……」



 イキナリ聞かれても、言葉が出てこないよ。



「……あの、上手く言えないかも、知れないんですけど」


「うん、イツミの言葉で言ってくれればいい」



 ライル博士は、安心させるように言ってくれた。


 アタシが思う、超能力。まだ、よくわからないけど……。



「他の人にはないスゴい能力で、何か特別なコトをする? お仕事とかしてそうで、あと特殊だから小さい頃はイジメられたり隠したり利用されたり、漫画とか映画でしか見たことないけど、こんなイメージです」



 ライル博士は、優しく頷いて聞いてくれた。



「アタシみたいな中学生が、こんな大きな研究所に入れるのも、そうコトなのかなって……」


「一般的な認識は、確かにそう言うモノが多いね」


「……はい」



 心地よいテンポで、ライル博士は言葉をくれる。



「別の質問をしよう、イツミはジュニアハイスクールで得意な科目はある?」



 あれ? 全然違うハナシ?



「えっと、……英語と家庭科かな? 新しい言葉を覚えるのは楽しいし、家庭科は、お菓子を作るのが好きなんです」



 ライル博士は、嬉しそうに頷いて、どんどん質問を繰り返した。



「それはいい、スイーツは脳の回転を良くする、じゃあ苦手な科目はある?」


「……数学と体育です」


「数学は女の子に多いね、体育はどんな競技もダメかい?」


「走るのが、苦手で……」



 でも何で、こんな質問をするんだろう?



「何故こんな質問をしたのかと言えばね、どんな能力にも個性と個人差がある、と言うことを言いたかったからだよ」



 また、心を読まれたようなタイミングで、欲しい答えが返ってきた。



「個性と個人差?」



 って、どういう意味だろう? 首を傾げて博士を見る。



「そう、個性と個人差……」



 博士は頷いて、遠い所見るような顔をした。



「―――…例えば、視力がいい、数学が得意、暗記が得意、走るのが速い、過去の映像が見える、数日後のことを予知出来る・夢に見る、これら全てみんな同じ能力の個人差だと言える」



 同じ能力の個人差? 当たり前のものとそうじゃないものが混ざっているような気がした、けれど?



「……」



 博士の言っている言葉の意味が、難しくてつかみきれない。



「むかし人間は、当たり前に超能力を使うことが出来た」


「えっ!?」



 信じらんないことを、ライル博士はさらりと言った。



「ちっ、超能力をですか!?」


「そう、息を吸うのと同じくらいにね」



 アタシがスゴく驚いたことに、博士は嬉しそうに頷いた。



「……」



 だ、誰でも、あたり前に!?



「ただ今の人々は、便利さに慣れすぎて、強く想うことのしなくなり、自分が当たり前に持っていた能力まで、忘れているんだよ」


「……」


「全ては、想うことで成されてく」


「想う、こと?」


「昔の人々は、自然を愛し・敬い、雨や風を呼び、動物・植物と話をし、そして強く想うこと(願うこと)で、その夢や願いを叶えてきた」


「……」



 ライル博士の話は、まるで何かの物語が始まるような、不思議な雰囲気を持っていた。



「叶える力は、さっき言ったような、手先の器用さだったり、人間が得意な、工夫するアイデアだったりしたかも知れない、ただ、人間だけでは分からない知恵や情報を得る能力は、人間以外から得たものも例外ではない」


「人間以外のモノからの情報?」


「そう、地球は偉大だ、自然も動植物も人間も、全て地球から生まれた生物だ、私達が知らない繋がりや情報はゴマンとあるだろう」


「……」



 私達が知らない繋がりや情報って、いったいどんなモノなんだろう?



「例えば、石の声を聞けたり、猫と話が出来たり、花の歌を聞いたりね?」


「……っ!!」



 また、心の中を読まれたような、答えを博士は教えてくれる。石や猫やお花と? でも、そんなことが本当にあるのかな?



「人間の常識に捕らわれることを失くした時、真実が見えてくる、そして全ての人々に忘れていた能力が蘇るだろうと、私は思っているよ」


「……っ!」


「ただ素直に、自分にその能力が有ると知り、子供達が言葉や歩くことを覚えるように、サポートをすれば、その子の能力が開花する」


「……」


「イツミの持つ、瞬間移動(テレポーテーション)は、時間を止めて行きたい場所(空間)を引き寄せる能力だ」



 時間を止めて、行きたい場所(空間)を引き寄せる能力?



「人によっては、止まった世界を歩く子もいれば、白い道が見える子もいるし、過去・現在・未来を同時に認識する子もいる」



 過去・現在・未来を同時に認識する?



「……」



 同じ能力でも、人によって使い方が違うの?



「同じ能力にも個人差がある、そして得て不得手が有り、簡単に出来る事・努力しても出来ない事がある、これが個性だね」



 あっ……。


 アタシの中にストンッ、と何かが落ちたみたいに、博士の難しい内容が理解できた。



「すごい!」



 目からウロコって言うか、わかった、ような気がする。本当は一ミリも、理解出来ていないかも知れないけど。アタシが考えていたモノとは、全然違うんだって、コトがわかったと思う。



「あはは……♪ 博士、またファンが増えちゃったね!」



 アエカちゃんが、楽しそうに笑って博士に言った。



「私は一人でも多くの子供達に、持っている力を自覚し開花して欲しいだけだよ?」



 やわらかい笑顔で、ライル博士はそう言った。



「……」



 ナンだろう? 心がスゴく軽くなった。もっとこの人の話を、聞いていたいと思った。



「ね! イツミ、博士と一緒にアメリカに行ってみたくない?」


「えっ!?」



 博士と、一緒に?



「……」



 確かに、博士と一緒なら、この能力を特別視しないで自由に使えていくような気がした。



「……うん」



 ウチのこととか、まだ中学生だしイロイロあるけれど、今まで当たり前だったことが、そうじゃない世界って言うのを、博士から聞いてみたいと思った。



「やったぁ~っ!!」



 アタシの返事に、嬉しそうに跳ねるアエカちゃん。



「博士! アメリカに戻るのっていつ?」


「あぁ、九月には一度戻る予定だよ」


「イツミ! じゃあ九月に一回行ってみようよ!」


「えぇっ? 学校始まっちゃうよ」


「大丈夫だって、一度行くだけだし、ねっ、博士」



 はしゃぐアエカちゃんを、やさしく見つめるライル博士。


 アメリカか、どんな研究所なんだろう? 少しだけ期待してる自分がいる。



「……」



 ふと、アタシの脳裏に颯間さんの顔が過ぎる。


 アタシが、アメリカへ行くって言ったら、颯間さんは何て言うだろう?


 関係ないって、言われちゃうかな?





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