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2 恋と真夏と超能力 イツミ


 ど、どうしよう、どうしようっ!



「―――…来ちゃったよ」



 ドキドキする胸を押さえて、アタシは深呼吸してみた。


 颯間と言う男の人からもらった、スマートフォンに入れてあるメモの画像をもう一度確認して、辺りをキョロキョロと見回す。



「……この道で、いいんだよね?」



 画面に写る簡単な地図を、恨めしく思いながら舗装されていない砂利道を行く。炎天下頭に容赦なく照り付ける直射日光がつらい。



「……はぁ、……は、ぁ」



 少しして、急に大きく道が開け、目の前に重々しい門が現れた。門についた大きなプレートに、メモと同じ名前を見つける。



「プロジオ研究所」


「ここだ……」



 門の向こうには、幅広い舗装された道が続き、建物が一切、ここからは見つけることが出来なかった。


 って言うか……。



「……ここ、ものすごく広い?」



 アタシの耳に、何匹もの油蝉の鳴き声が、急に飛び込んでくるみたいに響き出した。それは、森の所ドコロで自己主張するように力強く鳴いていて、まるで合唱してるようで……。



「……暑いなぁ」



 あの中をまだ歩くのか。


 外の気温は、地球温暖化のお陰で現在38.7度湿度76%、もうずっと蒸し風呂に入っているみたいだ。



「せっかくオシャレして来たのにな」



 汗で濡れたワンピースの裏地を引っ張って、アタシはジリジリと真上から照らす太陽をにらんだ。


 あきらめてため息をつき門に近づくと、鳥の鳴き声のようなサイレンが、大きな音で3回鳴った。



「……っ?」



 なっ、ナニよこれ!?



『―――…ブッ、……こちら、プロジオ・ラボ受付です、御用の方は画面に触れて下さい』



 えぇっと……。


 言われるままに、アタシは、目の前の画面に手の平をあてた。



『―――…こちら、プロジオ・ラボ受付です、アポイントメントのある方はナンバーを右手画面のパネルに入力、営業・アポイントメントのない訪問の方は、左手受付棟入り口へお入り下さい』



 Ai音声のように下手くそで無機的な、抑揚のない声で、受け付けは案内した。


 ドキドキする胸を押さえて、アタシはスマートフォンのメモ画面を確認する。これで、いいのかな?



「14815-PROZ6」



 間違えないように注意深くパネルを押すと。



『照合確認…―――』



 案内の声がしたかと思うと、正面の門の上から、滑り落ちるかのように半球の玉が落ちてきた。



「えっ!?」



 それは、思ったより大きくて……。自分の方へ落ちて来そうな勢いだった。



「キャッ!」



 怖くなって、頭を抱えてしゃがんでしまった。



「なっ、なんなの?」


 

 落ちて来た半球は、アタシの目の前で止まり、まるで乗れとばかりにドアを開けたままこちらを待っていた。



「……乗れってこと、だよね?」



 アタシは、大きく息を吐くとその半球の中へ入った。


 すると、音もなくドアが閉まり、透明な屋根が半球の下から現れ、完全な球体になり、アタシは閉じ込められた形になった。


 球体の中は、黒いソファみたいな椅子とテーブルタイプのモニターパネル。座り心地は悪くない。



「意外と居心地いいかも……」



 狭くて落ち着く空間。温度調節が出来ているのか、閉じ込められたばかりなのに、冷んやりと涼しかった。



『第6エリア、颯間研究室へご案内いたします』



「は、はいっ!」



 思わず、アナウンスに元気よく返事してしまい、アタシはあわてて口を押さえた。


 まぁ、誰も見てないんだけど、ちょっと恥ずかしい……。



『第6エリアは、プロジオ研究所がアメリカと協同研究を行っている超能力を主体に研究しているエリアとなります…―――』



「ちょうのうりょく?」



『―――…第6エリア周辺は、各研究サンプルの超能力者による実験が行われている為、一般の方はこのシールドカプセルに入ってのご案内になります』



 シールドカプセル?


 確かにこれ、何か飛んで来ても大丈夫そう。アタシは、なんとなく辺りを見回して見た。


 いつの間に進んでいたのだろうか?


 さっきまでいたはずの門は、遠く後方にあり白いドーム状の建物が左手に幾つも見え始めていた。



「変わった建物……」



『左手に見えるのは、第1エリア、地球環境学、地球物理学、自然科学、地質学、気象学、海洋学、etc……、地球に関する全ての研究を行っている場所です』



「へぇ、地球についてなんて、研究してるんだ?」



 そんな勉強、聞いたことないや。



『右手に見えるのは、第3エリア、ここのエリアでは、生物遺伝子学、生物構造学、生物工学、生態学、etc……、生物のあらゆる可能性について研究している場所です』



 アタシの視界に、白い円柱の建物が幾つも、いくつも、不規則な高さや太さで林立しているのが見える。



「……っ、遺伝子?」



 この手の知識に、まったく興味のないアタシには、チンプンカンプンなアナウンスが頭の中をスルーしていくのがわかる。



「……アタシ、来ちゃっても良かったのかな?」



 こんなすごい所に。あの人の勢いに流されちゃったとはいえ……。場違いだったよね?



『―――…うちに、イヤ、ここへ来てもらえませんか?』



 慌てて名刺を差し出そうとして、見当たらなくてレシートの裏に急いで書いて渡された、ここの住所と地図。


 頭の中に、初めて会った時の颯間さんの顔が浮かんで、アタシは、熱くなる頬を押さえた。


 道路に飛び出した子供を、必死で助けようとした。


 気付いたら、颯間さんの胸の中で……、混乱した。



 一瞬の出来事…―――



 印象的な出会い、彼の顔が、脳裏に焼き付いて離れない。


 もう一度会いたくて、もう一度会えば、アタシのこの気持ちが何なのか、わかるような気がした。



 だから…―――



『―――…セキュリティーゲートをくぐります、パネルに両手を付け、顔を赤い光に近づけて下さい』



「へ? セキュリティーゲート!?」



 不意に現れた大きな白い門が、目の前にそびえ立っていた。



「うわぁ~っ!?」



 何だコレ?



『ここより、プロジオ研究所のシークレット領域に入ります、秘密保持の為に誓約書にサインと個人データを登録させていただきます』



「誓約書~っ!? なにそれ? アタシまだ中学生なんだけど?」 



 目の前にモニターが現れ、文字が流れてきた。



「ワケわかんない、……とにかく、サインすればいいんだよね?」 



 取りあえず、画面に流れてくる文字の通りに名前を書き込み、顔をモニターに近づけた。



『条件クリア、セキュリティーゲート・オープンします』



 アナウンスが流れた直後、大きな柱が、音もなく地面に吸い込まれてゆく。



「……っ」



 こんな大掛かりなモノ、最近、映画でも見たことないよ。


 大きな柱が消えると、アタシの乗ったカプセルは、ゆっくりと第6エリアへ入って行く。



「……スゴい」



 さっきまでとは、比べものにならない広い敷地に、林立した広葉樹が大きく蛇行する道に規則正しく植えられている。


 しばらく行くと、白く大きさの違う正方形キューヴな建物が、まるで積み木のように組み合わさり、奇妙な形のままそこに建っていた。



「へんてこな街……」


「そうでもないよ?」



 えっ!?



 独り言だったはずのつぶやきに、直ぐ隣から聞こえてきた可愛い声の返事。



 見ると…―――



「うえぇぇぇ~っ!?」



 いなかったはずの空間に、一人の可愛い女の子が、ちょこん、と座っていた。



「―――…な、なっ」



 なんでいるのっ!?


 あまりのことに言葉がちゃんと出てくれない。



「ナンセンスな質問~、ここは、第6エリアだよ?」



 色素の薄い琥珀色の髪と、同じ色の瞳。薄いピンク色のシフォンワンピース、まるで、西洋製のお人形のような白く整った容姿の少女。日本人、だよね?


 長いウェーブが、少女の腰まで緩やかにうねり、可憐な容姿を彩っていた。



「……」



 あまりの可愛さと、あまりの驚きに、アタシは、思考ごと身体が固まったまま、その少女を見つめた。


 琥珀色の瞳が、同じくアタシを見つめてくる。



「ユタカのお客さんかぁ、……へぇ」


「……?」



 えぇっと……。


 アタシを見ているのに、その少女は、アタシじゃないナニかを見ているよな瞳で、にっこりと笑って言った。


 ゆたか? あぁ、颯間さんのことか……。って言うか、アタシ一言もしゃべってないんだけど?



「イツミ、跳べる人なんだ?」



 へ? 飛べる人?



「と、飛んだことなんて、ないし……」



 少女は、不思議そうな顔で首を傾げ、何やら考えていた。



「ユタカと、会った時……」



 ポツリ、とツブやく少女の言葉に、アタシは、あの時無我夢中で助けようとした、子供の顔を思い出していた。



「……」



 記憶がないくらい、いっぱいイッパイで……。


 トラックの大きなクラクション、半狂乱の母親の叫び声、迫る大きな鉄の塊の気配。



 怖くて、恐ろしくて…―――



 気がつくと、颯間さんの胸の中にいた。アレを、飛ぶと言うのかな?



「あっ、博士が呼んでるや、行かなくちゃ」


「へ?」



 そう言って立ち上がる少女を見上げると、ニコッと思わず見とれるような笑顔で。



「またね! イツミ」



 言うなり、少女はそのまま、スッと、消えていった。





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