共和国:アレストリアの街
共和国アレストリアの街。
人口5万人ほどだが、冒険者や商人の出入りが多く、交易に盛んな街だ。町周辺には広大な森、ダンジョン、そのほかの資源が多く採集できる地域が多く初心者からベテランまで幅広い世代の冒険者が駐在している。
人々が行き交う街の中、1人の少年が軽い足取りで歩いている。
柔らかそうな猫毛の銀色の髪、蜂蜜を溶かしたような金色の瞳。成長しきっていない少年期の白く細い体躯。
すべてのパーツが完璧に配置された、天使と見紛うほどの美しさ。見た目は10歳程度の少年だ。
行きかう人々の視線を集めながら、少年は楽しげに歩く。
数メートル先のパン屋の前で、売り子の女性が拡声魔法で呼び込みをしている。
「焼きたてだよー! 名物白パン、今が買いどきだよー!」
少年は嬉しそうに駆け寄ると、銀貨を2枚手にとってパン屋の女性に渡す。
「お姉さん! 白パン10個ちょーだい」
「あら、カルルじゃないか! 銀貨2枚丁度だね。いつもありがと」
女性は少年――カルルを見ると嬉しそうに笑って白パンの入った紙袋を差し出す。
カルルは白パンの入った紙袋を受け取り、首を傾げる。
「……あれ? ちょっと数が多くない?」
「いつもたくさん買ってくれてるからサービスだよ!」
「うわぁーいいの? この前もサービス貰ったけどいいのかなぁ」
「いいのいいの、子供がそんなこと気にしないの!」
「えへへ、ありがとうお姉さん」
カルルは無邪気な笑みでお礼を言って女性に抱きつく。女性もカルルの可愛さにとろけたような顔でまんざらでもなさそうだ。
カルルが街を歩けば色々な人に声をかけられる。カルルは無邪気な顔で手を振りながら、足早に商店街を通り抜ける。
ある程度人が少なくなったところで、カルルは白パンをかじりながらゆっくりと歩く。
「うーん。ボクもてもて」
「……毎回思うケド、愛想振りまいて疲れネーノ」
少年の肩から若い男性の声がする。
それは白いふわふわの毛のうさぎのぬいぐるみだ。黒いベストの洋服を着ている。ふわふわの両腕を肩に引っ掛けて乗っている。
「ぜんぜーん。それに注目されちゃうのも、こんなに可愛くて美しくて儚げなボクの宿命だよ」
「確かにオメーは可愛くて美しクテ儚いのはワカル。でもチョー自信過剰な発言は可愛くナッ」
「ネロはうるさいなぁ」
カルルはぬいぐるみ――ネロの口に白パンを突っ込んで静かにさせる。ネロは小さな口をもごもご動かし器用にパンを食べる。
商店街を抜けた少し先、ひらけた広場には複数の大きな建物が並ぶ。その内の1つ、剣のマークが書かれた看板を掲げる、ひときわ大きな建物に向かう。
カルルは両手でドアを押して中に入る。