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東の森の中で

初投稿。ゆっくり書きます。




「世界は祝福されてるんだって」

「呪われてるの間違いダロ」


 暗く静かな夜の森。

 1人と1体の小さな話し声、焚き火の燃える音が聞こえる。



「この世界における信仰の話だよ。教会では毎日神様への感謝を捧げるんだってさ、祝福してくれてありがとうって」

「じゃあ俺様のこの体は祝福ってカァ?」



 真っ白なふわふわな毛に、柔らかそうな布生地。黒いベストの洋服を着たウサギのぬいぐるみ。

 誰が見ても愛らしいぬいぐるみだ。見た目にそぐわない若い男性の声で、ぬいぐるみは自身の体を嘆く。



「不便さを除けば祝福じゃない? ふわもこボディ。可愛いし」

「可愛さなんてイラネーヨ。細けー作業は出来ないし、女抱けネーシ」

「確かに三大欲求が満たされないのは人間にとっては死活問題かもね……人間にとっては」

「俺様は人間ダァーー!」



 地面を転がるぬいぐるみを見ながら、1人――少年は笑みを浮かべる。


 月に照らされる銀色の髪。長いまつげが縁取る、蜂蜜を溶かしたような金色の大きな瞳。

 成長しきっていない少年期の細く白い体躯。天使と見紛うほど美しい少年は、透き通った声で楽しそうに笑う。



「人間だった、でしょ? もう戻れないんだからあきらめなよ」

「わかんねーダロ! 俺様は人間に戻ってみせる、絶対にダ」



 ぬいぐるみはふわふわの両腕を突き上げる。

 


「ほらほら、あんまり大きな声を出すと獣が寄ってくるよ。可愛いボクが食べられたら大変でしょ」

「ハッ!それはダメダ。俺様静かにスル」



 少年はぬいぐるみに付いた土をはらって、胸元で抱きしめる。

 ぬいぐるみはおとなしく体を預ける。



「ぬいぐるみなのに暖かいなんて不思議だよねぇ」

「俺様は生きてるカラナ」


「……そっか。生きてるからかぁ」



 ぼんやりとまどろむ瞳。

 ぬいぐるみは少年の体をポンポンと優しくたたく。



「眠いんダロ。子供は寝る時間ダ」

「うん……おやすみ、ネロ」

「オヤスミ、カルル」



 ゆっくりと少年が瞳を閉じる。少年の輪郭が曖昧になり、淡い色彩が空気に溶ける。


 存在が世界に溶け込み、1人と1体は世界に隠された。




共和国:東の森での一夜

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