03話 幼馴染
オルディアの元を去ってから一週間程経っていた。
私はと言えば、ふらっと立ち寄った町にいた。
ふらっとと言っても、魔法で高速移動しての事だ。
自分が悪いのだが、傷心状態でやる気が起きない。
だから宿屋で部屋を借りて籠っていた。
でも、オルディアを想いながらの自淫だけは別だ。
処女では無くなった瞬間、私のタガは外れていた。
ついつい、オルディアとの濃密な性交を思い出してしまう。
次第に私はもう、自分の指だけでは満足できなくなり、どうにもならなくなっていた。
いつもの防具だけを身につけて外を歩けば、簡単に男性の一人や二人捕まえられるだろう。
でも、今だけはオルディア以外としたくなかった。
そこで私は、記憶を頼りにオルディアの息子の分身を魔法で作ることにした。
全て魔法で創り出す事が出来るので、お金は掛からなくて経済的だ。
だが創造するには、それ相応の魔力が必要だった。
こんな時、制約スキルの『羞恥』が役に立つのだ。
私は、久しぶりにいつもの防具を身につけた。
◇◇◇◇
造って、試して、消して。
造って、試して、保留して。
何度も何度も試行錯誤しているうちに、徐々に拡がり緩くなってきてしまった。
それが原因で大問題が発生してしまう。
一番肝心な太さと硬さの違いが分からなくなった。
困った私は、保留してあった息子の分身を握った。
すると、今まで悩んでいたのが嘘のようだった。
すぐに問題は解決し、遂に分身が完成したのだ。
まさか前世の記憶が役に立つとは思わなかったが。
◇◇◇◇
完成した直後から私は、オルディアの息子の分身の虜になっていた。
魔力が込められており、自動で激しく動くのだ。
動きについてはオルディアを思い出し記憶させた。
目を閉じれば、オルディアとしている感覚に陥る。
私はオルディアを想い、泣きながら使用し続けた。
何日も使い続けて、寂しさが余計に募ってきた。
このままではダメになると、ようやく気付いた。
気分転換に私は外套を羽織り、外へと出かけた。
久しぶりに吸う外の空気は清々しく感じられた。
それに、高速移動をしていた関係もあり、この町が一体どこの地域なのかも全く分からなかった。
私は今は亡き故郷の集落を、十六歳の頃出ていた。
そして、期待膨らませあの街へとやって来たのだ。
それから、ついこの間まであの街で暮らしていた。
だから、あの街の周辺の事しか分からないのだ。
「あの、すみません。この周辺の地理の本はありますか?」
私は宿屋近くの道具屋で店のご婦人に声をかけた。
「おや?お姉さん、エルフかい?それにしては上手に喋るねぇ?この店には、神聖共通語の本しか無いけど、読めるかい?」
神聖共通語は、人間が使い、共通言語にあたる。
神聖古代語は、エルフやダークエルフが使う言語。
深淵共通語、深淵古代語は、魔族等が使う言語。
帝国共通語、帝国古代語は、ドワーフが使う言語。
それぞれの種族で使える言語が違ってくるのだ。
私は、元々は神聖古代語しか喋れなかった。
でも、オルディアと話したい一心で、神聖共通語を一生懸命覚えた。
それがこんな所で役に立ちそうだ。
「はい!それ頂けますか?」
「じゃあ金貨五枚になるよ?」
「では、これを。」
ジャラッ…
「確かに。それでは地理の本はこれになるよ?重いから気をつけな?」
お店にご婦人から直接手渡された本は、非常に分厚く重いものだった。
「実は、こう見えて…私。魔術師してるんです。『軽量化』!!」
地理の本に向けて私は魔法を唱えた。
「あら!!まぁ、こんな可愛らしいお姉さんが、魔術師様かい!?そうだ、魔道具屋に行ってごらん?エルフの子供が、魔術士になりたくて働いているよ?」
「エルフの子供ですか?情報ありがとうございます!!では!!」
軽くなった地理の本を片手に、私は魔道具屋へと急いだ。
魔術士志望のエルフの子供なんて、弟子が欲しい私にとって願ってもない逸材だ。
私が魔道具屋の前まで来た時だった。
「あのぉ、お姉さん?」
「わっ?!ビックリした…!!」
後ろから急に声をかけられ、驚いてしまった。
振り向くと、エルフの男の子が立っていた。
「あ、お姉さんもエルフなんですね!!」
「そうだよ?あれ…その首飾り…。リュシェの…。」
私の遠戚で幼馴染の純血のエルフ、リュシェ=ルディスが身につけていた首飾りだった。
確か、あの襲撃でリュシェは見つからず、未だ行方不明のままだった。
「なぜ…?なぜお姉さんは、僕の父の名を知ってるんですか!?」
「私の幼馴染だったからね?それに、私もルディスだし?」
「あの…。お姉さんはどちらのルディスですか?」
「魔法剣士のルディスって言えば分かるかな?」
屋号みたいな感じで、魔法剣士は父だけだった。
「もしかして…あなたがティリエスさんですか?」
「何で私の名前知ってるの?!」
まさかの私の名前を言い当てるとは。
リュシェにでも教わったのだろうか。
「父が“幼馴染のティリエスは俺たちの誇りだ“って言ってました。あと、僕を逃す時にこの首飾りを手渡して”ティリエスを頼れ“って…。」
と言う事は、この子はあの襲撃を逃げ切ったのだ。
まさか、生き延びたあの集落のエルフが居たとは。
「もう、その話は外でするのやめよ?あと、今日限りでそのお店辞めておいで?」
もう、私の中でする事は一つだ。
この子を責任もって育てて、私の弟子にする。
「え?!いきなり辞めろって言われても…。意味がわからないです…。」
「こう見えて、私。魔術師してまーす!可愛い弟子も募集中でーす!どう?」
堅苦しいのも嫌なので、軽い感じで言ってみた。
魔術士になりたいと聞いたので、反応が楽しみだ。
「えっと…辞めてきます!!」
そう言ってリュシェの子は足早に魔道具屋へ入って行った。
◇◇◇◇
おかしい。
辞めると言えば、辞めれそうな気もするのだが。
暫く魔道具屋の外で待ったがなかなか出てこない。
心配になった私は、魔道具屋の中へと入ってみた。
「こんにちは…。」
店の中に入ると、私を待ち構えていたかのように、店主が立っていた。
「あんたかい?うちの店員をそそのかしたのは?」
「私はその子の親戚のティリエスと申します。」
遠戚で幼馴染の子だ、間違ってはいない。
「親戚だろうと、俺は容赦しないよ?辞めさせたければ、この店が受ける損害分の金を払いな?」
完全に私の足元を見られてしまっている。
とりあえず金貨千枚までなら何とかなる。
それにしても、辞める理由なんて言ったのだろう。
「いくらでしょうか…。」
「金貨千枚だな?払えなければ、あんたの身体でも良いぜ?一ヶ月間使わせて貰うがな?」
金貨千枚払ったら、残りは金貨百枚程度になる。
そうしたら、また冒険者ギルドにでも登録しよう。
この子を連れて依頼に行けばいい。
でも、そうすればオルディアに居場所がバレる。
彼には冒険者ギルドにコネがあるからだ。
夜の飲み屋で、皆の前で服を脱いで踊る手もある。
そうすれば冒険者ギルドからの情報は漏れにくい。
とりあえず、この話早く終わらせたくなった。
「金貨千枚払います。それで良いですか?」
「じゃあ決まりだな?早く持ってきてくれよ?」
「『空間収納』!!」
ゴドンッ…
「金貨千枚分の金の延棒です。」
私は魔法を唱えると、現れた異次元の空間から、金貨千枚分と等価の金の延棒を出すと、魔道具屋の机の上に置いた。
「金の延棒だと!?あんた…ほ、本当に魔術師なんだな…。」
「はい。魔術士の方かと思われました?」
金の延棒については、それぞれの“師”でなければ、店屋を除き取り扱いが許されていないのだ。
「じゃあ、行こっか?ところで、名前聞いてなかったよね?」
「僕の名前は、リュティエです。宜しくお願いします。師匠!!」
私はリュティエの手を握りしめ、魔道具屋を後にした。