仕事に生きるわ 生きるために(切実) 2
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「驚きましたわ、お父さま。ウォーカー商会で頂いていた給金と、桁が違いますのよ」
「ほう……そうだね。それでアイリス。キミは、これをどう考える?」
「どう? ……と、おっしゃいますと?」
「ウォーカー商会の時と、仕事内容が違うのかな?」
「あまり違いは感じませんわ、お父さま。むしろ、帳簿など任されることが増えましたので慣れてはおりませんの。知らない事もありますから先輩方にお聞きすることも多く、かえって手間をお掛けしているのではないかしら? と、思っておりましたの……だから、この金額には驚きましたわ」
「うん、そうか。帳簿か……なら、人件費についても見ることができるね」
「はい」
「それならば。その金額が妥当なのか、多いのか。自分で考えてみることができるね」
「……はい」
「その金額を渡された意味を、自分で考えてみると良いよ」
「……意味?」
「その金額が多いと感じるのなら、未来への期待と見ることもできるし。妥当だと思うのなら、ウォーカー商会で受け取っていた額が少なすぎたと判断することができる。お前がどう受け止め、どう感じたのか。よく考えてみなさい」
「……はい」
「それと、もうひとつ。覚えておいて貰いたいことがある」
「何でしょうか? お父さま」
「私はね、アイリス。可愛いお前が軽んじられるのは嫌だよ」
「はい……お父さま」
既に破棄されておりますが、セオドア・ウォーカー子爵令息との婚約は政略的なものでありました。
その婚約は、私を犠牲にするつもりで結ばれたものではなかったのです。
現ウォーカー子爵は優秀な方で、ウォーカー商会の経営も上手くいっております。
父とウォーカー子爵は意気投合し、未来を託すために私たちの婚約を結んだ、と、聞きました。
ウォーカー子爵には商売を広げて国全体を豊かにしたいという、夢がありました。
父は爵位による信用を貸す形でウォーカー子爵を助け、ビアズリー伯爵家の所有する領地はもちろん、国を豊かにすることに協力したいと考えていたのです。
もっとも。
国を豊かにするという理想も、セオドア・ウォーカー子爵令息が愚かだったせいで叶わなくなりそうですけれどね。
現に、婚約が破棄されたことで信用が落ち、商売の方が傾いてきたと聞いていますわ。
今となっては、私たちには関係のない事ではありますけれど。
ウォーカー子爵さまは、さぞガッカリされていることでしょう。
でも……。
もっと早く、婚約を止めていたら。
破棄ではなく、解消で済む段階で話を進めておいたら。
こんな結末を迎えたでしょうか?
「セオドア・ウォーカー子爵令息に違和感を感じた時点で、お父さまに相談すべきでしたわ」
「ん……終わった事だ。次は、すぐに相談しておくれ」
「はい、承知いたしました」
次とは何の事かしら? と、首を傾げつつ、私はお父さまの書斎を後にしました。
◇◇◇
机の上にあるメモ書きを見て、サットン子爵は美しい眉をひそめました。
「これはキミが?」
「はい。本日は在庫のチェックをいたしましたの。足りなくなりそうな商品を書き出しておきました」
「在庫管理は別の者の仕事では?」
「はい。そうですけれど、今日は忙しそうでしたので私の方で済ませましたの。帳簿と合っているかを確認しただけなので手間もたいしたことはありませんでした。もちろん、在庫管理の方には許可を頂きましたわ」
「ああ、そう言えば今日は……配達の者が何人か休みだったな」
「ええ。毎週水曜日に休まれる方も多い上に、体調不良の方が何人か出てしまったので……」
「それは大変だったね。臨機応変に対応してくれてありがとう」
「お役に立てたのなら嬉しいですわ」
「でも、取り扱い点数が多いから大変だっただろう?」
「いえいえ。前に働いていたウォーカー商会は主に食品を扱っていましたので、もっと種類が多かったのです。季節によって扱うモノが違ったり、スパイスなど輸入品など身近ではないモノだったりで、慣れて覚えるのが大変でしたけれど。こちらは文房具や雑貨が主な商品ですから、そうでもありませんわ」
「そうなんだ」
話し始めた時には不快そうに歪んでいたサットン子爵の眉も、いつしか柔らかな弧を描き。
なにやら機嫌よさげな表情になっていました。
そうなるとサットン子爵の顔の良さが目立ってきます。
私は頬が熱くなってくるのを感じました。
貴族とは、どうしてこうも無駄に顔が良いのでしょうか?
まぁ、私も貴族なのですけどね。
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