イケメンより夜会へのお誘い(即OK)
「お先に失礼します」
「あぁ、お疲れさま」
お父さまに爆笑された翌日。
私は普通に仕事へと出掛け、普通に仕事を終えました。
実際には、いつもよりちょっと気合を入れて身支度をして、胸をときめかせながら一日を過ごしましたの。
お父さまが『誘われたら、お前が思ったように対応すればいい』と、おっしゃいましたので。
……でも。
誘われませんけど?
などと思いつつドアへと向かっていた私の背後から響く、サットン子爵の声。
「……あっ、アイリス君」
「はい」
あら?
先ほどとは、口調が違います。
私は期待に胸を膨らませて振り返りました。
「あ……、あの……」
机に向かって座っていたサットン子爵が立ち上がり、こちらに向かってきますわ。
「はい?」
私はちょっと首を傾げ、上目遣いで彼を見ました。
近付いてくるサットン子爵は、本日も無駄に素敵。
なにくわぬ顔をしている(つもりの)私ですが、実際には胸がドキドキしていて大変です。
私の心臓は大丈夫でしょうか?
少しばかり頬を紅潮させた背の高い美形が、私の前で立ち止まる。
「その……キミさえ良ければ……あの……今度の夜会、一緒に行ってくれないだろうか?」
「ハイ、喜んで」
ちょっと食い気味に返事してしまいましたわ。
仕事の出来る男であるサットン子爵が、一瞬、固まったように見えたのは気のせいかしら?
「あ……ホントに?」
「はい。誘って頂けて嬉しいですわ」
私は気持ちのままを口にして、少し高い所にある青い目を見つめる。
意外にも、最初に視線を逸らしたのはサットン子爵です。
スッとさりげなく視線を横に落として、呟くような声を響かせる。
「あ……ホントに……あぁ、それは……ありがとう」
感情を露わにしない訓練に長けているハズの貴族男性が、耳まで真っ赤にして目前にいます。
「こちらこそ。誘って頂いてありがとうございます」
ちょっと戸惑いつつも、キチンと返事ができました。
「あぁ……私は、ホントに……このような事に慣れてなくて……」
「まぁ……」
あら、意外ですわ。
ハンサムな独身貴族男性ですもの。
てっきり慣れているものだと思っていましたわ。
「父が早くに亡くなって……弟や妹もいるし……商会の事もあるから……自分の事は後回しになってしまって……あぁ、恥ずかしいな。いい年をして。私はこういう事に全く慣れていなくてね。上手にエスコートできなかったら、ごめんね」
「いえ、大丈夫ですわ」
美形なのに女性慣れしていない、ということですの?
それはむしろご褒美では?
無駄に麗しい見た目をしていらっしゃる上に、妹さんや弟さんを優先するという優しさ。
商会を盛り立てていく有能さと誠実さを併せ持つなんて。
素敵すぎます、サットン子爵。
私はフワフワした気分のまま帰宅しました。
◇◇◇
「その表情から判断すると、上手くいったのだね、アイリス」
「もう、お父さまったら。揶揄わないでくださいまし」
「うふふ。私の娘も大人になってしまったのね」
「もうっ、イヤですわ。お母さままで」
帰宅した私を待っていたのは、両親のニマニマした含みある笑顔です。
「なら、夜会へ行くための準備をしなくてはいけないね」
「夜会は来週ですわよ、お父さま」
「あら、アイリスったら。夜会に出るのなら、ドレスやら何やら用意しなければいけないでしょ?」
「そうですけど、お母さま。手持ちのモノで十分ですわ」
「あっ、そうだ。サットン子爵殿から何か届いていたぞ」
「まぁ、お父さま。それを先に言って下さらないと」
「あらあら、ウフフ。どんな物が届いたのか、ぜひ見たいわ」
「お母さまったら、表情で揶揄うのは止めてくださいな」
「私も見たいな」
「お父さままで」
ふと私が振り返れば。
回りには沢山の使用人たち。
その一人一人が、お母さま達と同じような表情でコチラを見ていましたわ……。




