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3・ありがとうと伝えたら

「はい?」


 リタの驚きっぷりに、私は気圧されてしまう。


「私、なにかおかしなこと言った?」

「おかしいですよ」


 断言するリタ。


 しかしすぐに失言だと思ったのか、


「い、いえ……あの、お嬢様に『ありがとう』だなんて言ってもらえたこと、今まで一度もなかったですから……驚いてしまって……」


 としどろもどろに答えた。


 その表情を見て気付く。

 あー、そっか……私、元々()()()()性格だったもんね。


 元々の私は使用人がちょっとしたミスをしたら、必要以上にそれを責め立てた。その上、なにをやっても「ありがとう」と感謝を伝えることもなかった。


 だけどそれは彼ら・彼女らのことが嫌いだったわけではない。

 それは貴族の振る舞いとして、当然のことだと本気で信じていたからだ。


 使用人のミスを指摘したのも、将来もっと大きな失敗をして彼ら・彼女らが困らないため。

 それにいちいち仕事をやったからといってお礼を言ったらキリがない。だってあちらもプロなんだから。こっちは(私が直接というわけではないけど)高い給金を払ってるんだから、これくらい出来て当然だと思っていた。


 でも……もっと言い方があったと思う。


 人は褒められると喜ぶ生き物だし、感謝されると「次も頑張ろう」とやる気が出てくる。

 そのことを無視して、ただ責め立てて相手に感謝すら伝えないのは、ただの怠慢だ。


 地下牢に閉じ込められて不自由な生活を強いられた時、私はそのことに気付いた。


 こんなんだから人望がなくなって、見え見えの冤罪でもみんなは私を守ってくれなかったってわけね。


 だから。


「今までの私、ちょっとおかしかったみたい」


 リタの瞳を真っ直ぐ見て、こう言葉を紡ぐ。


「でも気持ちを切り替えたわ。今までもあなたに感謝していたけど……それをこれからは、もっと言葉で伝えるようにする。そうじゃないと伝わらないもんね。だから……リタ。今までありがとう。そしてこれからもよろしくね」

「──っ」


 私が言うと、リタは瞳に涙を浮かべた。


 ちょっとオーバーすぎる反応では!?


「こちらこそ、ありがとうございます! お嬢様からそんなことを言っていただけて、嬉しくて嬉しくて……」

「あ、あのー、リタ。泣かないで?」

「す、すみません! お見苦しいところを! でもこれは嬉しくて泣いているだけなのでご心配なく」


 ハンカチで目元を拭うリタ。


「こうなったら、成長したクラリス様を伯爵様と伯爵夫人様に伝えにいきましょう!」


 伯爵様……私のお父様のことだ。伯爵夫人は当然、お母様のこと。


「そんな大袈裟な……」

「いいえ! 大袈裟ではありません。なんにせよ、朝ご飯の時間ですし……お嬢様の体調も全快したなら、早く向かいましょう!」

「ちょ、ちょっと、リタ! そんなに慌てないで!」


 こんなにテンションが上がった彼女を見るのは初めてかもしれない。

 元々、こういう性格の子かもしれないわね。元々私が抑え込んでいただけで。


 暴走気味のリタを止めながら、私は両親のことについて考える。


 地下牢に入れられた時、両親は私の冤罪を最後まで王家に訴えてくれたらしい。


 だけど所詮、お父様は伯爵だ。

 私の敵には殿下や公爵もいたし、伯爵風情がその決定を覆すことは非常に困難。というか不可能と言っても過言ではないだろう。


 両親はリタみたいに差し入れに来てくれなかったけれど、それは王家から止められていたためだ。

 二人とも、私にすごく会いたがっている……とリタから聞かされていた。


 だから両親に会うのは久しぶりのこと。



 ──二人と顔を合わせたら、感動で泣いちゃうかもしれない。



 それはちょっと恥ずかしい。


 しかし私のそんな懸念は杞憂に終わった。

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