2・八年前に死に戻ったようです
どういうことだろうか。
ますます意味が分からない。
「死んだと思ったら、実家にいて……しかも子どもの体になってる。これって……」
元々生前も十八歳だったんだし、それも世間一般から見れば十分子どもの範疇かもしれないが……今の私の体は、生前よりも明らかに一回り小さい。
戸惑っていると、ドアのノックの音、部屋に一人のメイドが入ってきた。
「お嬢様、まだ熱も下がりきっていないのに、そうやって立ち上がったらダメですよ。ちゃんとおとなしくしておかなくっちゃ……」
「リタ!」
メイド──リタが言い終わる前に、私は彼女のもとに駆け寄った。
そしてむぎゅーっと彼女に抱きついた。
「お、お嬢様!?」
いきなり抱きつかれて、リタがなにがなんだか分かっていないよう。
──彼女は私の専属メイドで、小さい頃からお世話になっている人だ。
いわゆる『スーパーメイド』というやつで、リタは私が寄越す無理難題をことごとく達成してきた。
だけど小さい頃からそうだったから、私はそれも当たり前のものだと思っていた。
その考えが変わったのは、地下牢に入れられてから。
厳しくて寂しい生活を送っていると、彼女は毎日のように差し入れに来てくれた。
『私はお嬢様のことを信じています。お嬢様は噂のような悪い人じゃない。このリタ、最後まであなたにお仕えしましょう』
とリタが言ってくれた時には、私は号泣してしまったものだ。
でも彼女の有り難みに気付いた時には、もう既に遅くて、結局冤罪は晴れることもないまま私は処刑されてしまったというわけ。
だからこうして、リタともう一度顔を合わせると、感激で胸がいっぱいになった。
「ふふ。その様子ですと、もう熱は下がったみたいですね。本当によかったです」
リタは微笑んで、私の頭を優しく撫でてくれる。
幸せな気分になって、ずっとこうして抱きついたままでいたくなった。
だけどそうしたら、さすがにリタを困らせてしまうかもしれない。後ろ髪を引かれる気持ちで、私はリタから離れる。
「教えて、リタ。今の私は何歳なの?」
「はい?」
きょとんとするリタ。
「お嬢様、いきなりなにを……もしかして、やっぱりまだ熱が下がっていない……?」
「う、ううん! 違うの。もう元気いっぱい。自分の年齢ど忘れしちゃって、ちょっと聞きたかっただけ」
「はあ……そうですか。まあ自分の年齢を忘れることって、たまにありますもんね。とはいえ、お嬢様くらいの年頃の子どもだったら、なかなかないとは思いますが……」
リタは首を傾げたものの、ここであまり問い詰めても仕方のないと思ったのだろう。
そのことを深く詮索せずに、こう答えてくれた。
「クラリス・ギヴァルシュ様。あなたは十歳ですよ」
「十歳……」
生前は十八……ということは八年前ってこと?
一体なんで……あっ。
突然、私は生前に読んだ一冊の本をふと思い出した。
それは悪役令嬢が子どもの頃に戻って、人生をやり直すという話だ。
悪役令嬢が改心し、みんなから愛されていくストーリーは、私にワクワクと感動を与えてくれたものだ。
まさかその時には、自分が悪役令嬢だなんて呼ばれることになるとは思ってなかったけど。
──私も死に戻ったということ?
そんなバカな。
あれはお話の中だけのはずだ。
しかしそう考えでもしないと、この不可解な状況に説明が付かない。
私はまだ混乱していたけど、取りあえず「八年前に私に戻ったかもしれない」という可能性を頭に留めておく。
「あ、あのー……お嬢様?」
心配そうに私を見るリタ。
いけない。ただでさえ変なことを聞いてしまったのだ。それなのに急に黙りこくったりして……彼女も彼女で混乱している違いない。
「ありがとう、リタ。教えてくれて」
「え……?」
「ううん。それだけじゃない。いつもいつも、私のことを面倒見てくれてありがとね。感謝しているわ」
私が言うと、リタはぽかーんとした表情。
あれ? 私、なんか変なことを言った?
そう思ったのも束の間、リタは目を見開いて口元に手を当てた。
「お、お嬢様が……『ありがとう』って言ったあああーーーー!?」