1・私、死んだんじゃなかったの?
「お前には失望した」
「クラリス……信じてたのに……」
殿下や婚約者だった男が、口々に私を罵る。
──どうして、こんなことになったんだろう。
今も軽蔑の眼差しを向けてくる男たちは、紛れもなく私のことを愛してくれた人だった。
いや……正しくは愛されていた、と私が思い込んでいただけか……。
そう考えると虚しくなってくる。
今でも、なにか間違いだと信じたい。
しかしこうして処刑台に上げられ、『死』を待つ私にとって、それは逃れられない現実だった。
「クラリス様……あの世でしっかりと罪を償ってください」
そんな彼らの傍らに一人の女がいる。
彼女は私から全てを奪った『泥棒猫』であった。
心残りがあるとするなら、死ぬ前にこいつを殴らせて欲しい。
しかし両手両足を拘束されている身では、それも叶わない。
「最後に言い残したいことは?」
処刑人が私に問いかける。
だけどそれはあくまで事務的なものだった。
私の話に耳を傾けるつもりはないに違いない。
「……ありません」
だから私はそう答える。
処刑人から「無駄な時間を使わなくてよくなった」と少しほっと安心したような様子が感じ取られ。
そのまま私──クラリス・ギヴァルシュは十八年の人生に幕を閉じたのだ。
「死にたくない!」
目が覚め、バッと上半身を起こす。
「え、え……? ここは?」
頭がぼーっとする中、辺りを見渡しながら私は現在の状況を確認した。
ここは……私の実家?
そして私の部屋だ。少し違和感があるけれど、その正体が分からない。
そこのふかふかベッドで、どうやら私は寝てたらしい。
私、死んだんじゃ……?
そうだ。
私──クラリスはギヴァルシュ伯爵家の令嬢として生を授かった。
両親としては待望の女の子だったみたいで、私はそれはそれは花や蝶のように大切に育てられた。
幼い頃から、私はそれに疑問を覚えず、贅のかぎりを尽くしてきた。
そして十歳の時、公爵家の跡継ぎと私との婚約話が持ち上がった。
私と両親はそれを快諾。
その婚約者はイケメンで、しかも将来有望ということもあったから子どもの時の私は大層舞い上がったものだ。
そんな順風満帆の生活を送っていたけれど、学園に入学してから雲行きが怪しくなってくる。
泥棒猫の罠にはめられ、婚約者には婚約破棄され……気付いた頃には四面楚歌の状態。周りに味方はいなくなった。
そんな私のことを、人々は物語の悪役になぞらえて『悪役令嬢』と呼んだ。
死にたくなかった。もっと長生きしたかった。
しかしとうとう私は処刑台に上がり、滞りなく刑は執行されて……私は死んだ、はずだった。
なのに。
「どうして私、生きてるのかしら?」
もしかしてここは天国?
だとするなら、どうして実家と同じ場所なんだろうか。そうだとするなら、神様はとんだ悪趣味なヤツに違いない。
処刑されたのも夢だった?
だけど処刑される時の恐怖や絶望感は、とてもじゃないけど夢とは思えなかった。
「とにかく……部屋を出てみましょうか」
そう呟いて、ベッドから立ちあがろうとしたら。
私は自分の体に気付いて、こう驚きの声を上げた。
「なんで私、子どもの体になってるの?」
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