『真実の愛』で全てを失った男のその後
『それは本当に真実の愛ですか?』の後の話です。
ある国にある大衆酒場、仕事を終えた私はたまに寄っている。
「おぅ、待ってたぞ」
既に友人が待っていた。
「……国王がこんな所にいるなんて誰も思わないだろ」
私は呆れた感じで言った。
「はは、王だって人間だ。たまには下町の味も堪能しないとな」
そう、友人はこの国の王である。
私と同い年で昔からの友人で全てを失った私を雇い入れてくれた。
「それに今日は息子が世話になったからな、俺の奢りだ」
「お前がワザと寄越したんだろう?」
「すまんな、でも経験者であるお前の話を聞いた方が俺や周りが頭ごなしに反対するよりも効果があると思ったんだ」
「で、その後どうなったんだ?」
「俺の所に来て『婚約者ともっと向き合いたい』って青い顔していたよ。自分が如何に浅はかな考えをしていたのか思い知ったんだろう」
「自分で話していて自己嫌悪に陥りそうになったよ……」
「いいじゃないか、今は奥さんもいて子供もいて幸せなんだろ」
「まぁな、一度大きなしくじりをした私が結婚できるとは思っていなかったよ」
「そうだな、しかもその相手が元婚約者なんだもんなぁ、運命ってわからないもんだ」
そう、実は王太子には話していなかった事がある。
私は数年前にこの酒場で元婚約者と再会していた。
しかも、その時の彼女は公爵令嬢ではなく酒場の店員をしていたのだ。
話によると私が追放された後、母国で内乱が勃発、公爵を含めた貴族は殆ど壊滅してしまった、という。
彼女は親戚の伝を頼ってこの国に来て一平民として暮らしていた。
再会した時、私は当時の事を誠心誠意謝罪した。
彼女は『あの時は悔しかったし悲しかった。でも今の貴方を見て変わったのはすぐにわかった。今の貴方だったら良い関係を築けるかもしれない』と言ってくれた。
それからはこの酒場に来るようになり彼女と色んな話をした。
当時の話を聞くといかに私が自分の事しか考えず他人の気持ちを理解していなかった事を知って穴があったら入りたかった。
というかもし時間を遡る事が出来たら当時の私をぶん殴ってやりたい気分だ。
そして再会から暫くして私からプロポーズして私達は籍を入れた。
結婚式はやらなかったが国王がお祝いしてくれた。
結婚して一年後には子供が生まれ家族が増えた。
かなりの回り道はしてしまった物の今は幸せだ。
「周り巡って結局納まる所に納まったんだからそれも真実の愛なんじゃないか?」
「そうだな、真実の愛で結ばれているんだろうな」
但し一方的な愛ではなくお互いの理解があっての愛だけどな。
「あっ、そうそう息子にちょっかいをかけてきた男爵令嬢だけどな、何の因果かわからないけど例の魅了持ちの娘みたいだぞ」
「はぁっ!? アイツ生きていたのか!?」
「ああいうのは世渡りが上手いからな、でも今回は厳しく対応するつもりだ。お前の分も今回の分もツケは払ってもらうつもりだ」
「そうか……」
もう昔の話だし気にはしていないが……、因果というのを感じるな。
その後、一つの男爵家が潰れたらしいが知らないし興味もない。
今は家族の為に日々仕事を頑張るだけだ。