ウィードとベル(中編)
ベルが別邸に来てから数日が経った。
いつものようにベルが別邸から外を見ていると、一組の親子が目に入った。
20代ぐらいの母親と5歳くらいの男の子である。ずいぶんなおめかしをして。ベルたちと同じ、休暇なのだろうか。
「ねえ、ウィード。あれを見て。こんなところまで子供が遊びに来てるわよ。珍しい。」
その親子はこちらに気が付いたのか、手を振った。ベルも笑顔で手を振り返す。
「こどもってかわいいわね。」
ベルはふと思いついたかのように笑った。
「わたしもあんな子供が欲しいわ。ねぇ、ウィード。私たち、結婚しようか。」
「お嬢様!冗談はやめて下さい!」
「うふふっ。」
ベルにからかわれ、うぶなウィードは耳まで真っ赤になっていた。
その日は午後から友人も呼んでいたこともあって、ベルは広い屋敷を使ってかくれんぼに興じたり、日が暮れるまで遊んだ。
夕刻の事である。
男の子はまだ遊んでいるが、親は見当たらない。いったいどこへ行ったのだろうか。もう日暮れである。
「おかしいわ。あの子、まだ遊んでる。きっと子供を忘れたんだわ。早く教えてあげないと。」
「いえ、……あれは。忘れたわけではありません。」
この光景を何度かみているウィードは言い澱んだ。
「いいの、言って頂戴。」
「あれは……おそらく子捨てです。」
「捨てる?どうして捨てるの?愛せなくなったの?」
ベルは、愛されて、ここにいる。捨てるという行為が、信じられなかった。
「違います。愛がないのではないのです。育てる金がないのでしょう。貧しさは罪です。」
「あの子を救いましょう。」
「駄目です。一人拾ってごらんなさい。瞬く間にうわさが広がって何十人、何百人との貧民が集まってきますよ!そうすれば私たちも生きていけません。」
ベルが部屋から出ようとするが、ウィードが立ちふさがった。
「でも今は食料はあるわ。食堂を開放させましょう。」
「私を恨んでもらって構いません。ですが、決して出てはいけません。私はお嬢様を守る責任があります。」
ウィードは動かない。強引に通ろうとしても、力で彼には敵わないだろう。ベルは窓越しから見守るしかなかった。夜になると闇に紛れて見えなくなってくる。それでも、ベルはただ一点を見つめていた。
やがて日は昇り、明るくなるそのころには子供はもういなくなっていた。ベルは泣いた。
その日は一日中、ウィードは責め苦を浴びた。お嬢様の目に触れさせてはいけない彼らをなぜ事前に「排除」出来なかったのか、と。ウィードはそのことは決して話さなかったが、その日から彼が着慣れない大きめの上着を脱ごうともしなかったことに、賢いベルは気づいていた。
ウィードは悪くない。知らなかった私が悪いのだ、と。
「この宝物のような世界は作られたものだったのね。」
つくられた楽園。ベルにはそれが重すぎた。