06-03
この後、揉めるに揉める事になるのは想像に容易い事だろう。そして、二人も例外ではなかった。
「あっ!」
「あっ!」
見つめ合ったが最後、ナナは少女の小さい顔を、少女はナナの縛っている髪を互いに掴もうと飛び掛かる。これは野生でのルール、いち早く動いたものが勝利をするのだ。
「なんであんたがこんなところに!」
「あんたもよ!」
それは、まさに野猿そのもの。言論不要、本能の争いだった。即座に仲介に入ったウィードが居なければ、辺り一面は血の惨劇になっていた所だろう。
2人はウィードに促され、おとなしく彼の差し出した席に座った。二人とも何か言いたそうにしていたが、まずはウィードから口を開く。
「なぜ、こんなところにまで?連絡が来ないから心配したんだぞ。」
「別に、ふざけて遅らせたわけじゃないわ。」
と、少女はまだ不満そうに、ふんぞり返りながらいった。そして、一通の手紙を差し出す。
「なにこれ?」
「とある報告書よ。『事案その1。女生徒とのトラブルについて。』」
「ま、待ちなさい!」
少女が読み上げると、その中身に気付いたウィードは封書を取り上げ、そそくさとコートの懐にしまう。
「ま、始末書、ともいうけどね。聞いたわ。入学時のトラブル。」
「……これはお嬢様が見ていいものではありません。」
「そうかしら?私も関係者の一人だけど。」
と、彼女ご自慢のさらさらヘアをなびかせる。
「パパもパパよ。キスでいいのなら幾らでもしてあげるのに。私が涙を出すのにどれだけ苦労してると思ってるの。」
「……涙?」
「そ。何か問題でも?」
「いや、なんでも。」
何か勘違いをしていたことに気付いたナナは周りをきょろきょろと見まわして誤魔化そうとした。
「だから、留学生に合わせて、私も一緒についてきたってわけ。」
「留学生?なにそれ。」
初耳である。全く知らないことが進行していることにナナは驚いたのだが。
「聞いてないの?モンスター退治の合同訓練。今年は勇者学園も協力するのよ。」
「私は何度か言ったのだがな。……お前は授業をサボり過ぎる。」
「うっ!」
どうやら、ナナだけが知らなかったらしい。色々あったとはいえ、サボったことは事実。何も言い返せずに、ナナは項垂れる。
「わたしがいれば、あんな薬なんていらないわ。だから、こうやって来たわけだし、ありがたく……」
と、少女は何かに気付いて、言葉を中断した。
「……なんで起きてるのよ。マナは大丈夫なの?」
「ああ、彼女に助けてもらってな。」
ウィードがそういうと、疑いの目をナナに向ける。
「あなたが、キスしたの?」
「そうよ。悪い?キスくらい、普通でしょ。」
「……そう、あなたが。」
「お、やるか?」
また掴み掛るのではないかと、ナナは身構える。が、そうではなかった。
「あなたはキスで助けれることを知っていた……つまり、あなたが、報告書の女生徒ね。」
そうつぶやいたと思ったのも束の間。彼女は一気にまくしたてた。
「パパの頼み事を断るって、最低の下民だわ。どうせ下世話な想像でも働かせたんでしょう。この下民!野猿!不感症女!」
「お嬢様!」
余りにも品のないやり取りにウィードがたしなめる。
(さっきからなんなのこの子!)
最初に見たときは、それこそ精巧なお人形のような、可憐で儚い少女だと思っていたのに。口から出てくる言葉は、外見に似つかわしくなく汚い言葉だらけ。
(全く、親の顔が知りたいものだわ。)
「そういう、あんたはナニモンなのよ。そんなナリで人のことを下民といえるの?」
そのかけ離れた邪悪な中身にナナはそう尋ねずにいられなかった。しかし、少女はそんなナナの態度にも気にもかけず軽く咳払いをし、胸に手を当て堂々と言い放った。
「私?そういえば、自己紹介がまだだったわね。私はミルナース、この国の王女で、パパの婚約者よ!」




