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06-02

 ということで、東館にある教官室に到着したナナである。


 以前来た時にはずいぶんと騒々しく賑やかだったけれども、今は早朝のためか物静か。人の姿を見かけることもなく、あの少女もまだ来てはいないようだった。何事もなさそうでひとまず、胸をなでおろす。


「ウィード、いる?」


 扉をノックして確認を取るもの、返事はない。


(留守かな?)


 仕方なく、ドアを開けて中に入ってみると。


「きゃぁぁぁあ!」


 ナナは叫び声をあげた。なぜなら、そこにはウィードの死体が転がっていたから。


「し、しんでる!?」


 いや、まだ死体かどうか分からない。ツンツンと足でつついて確認するが、動きそうにもない。

 

(お、お、おけつち、私。こういう場合はどうするんだっけ?だ、ダイイングメッセージを探したり?)


 そうだ、落ち着くんだ、古典的な冗談を言ってる場合じゃない!そもそも元から生きてるのか死んでるのかよくわからない奴じゃあないか。そう、彼は吸血鬼なのだから。


(そうだ!吸血鬼!) 


 だとしたら、手段は一つ。ナナは彼の唇を見つめた。が、そこはかとないエロティシズムを感じて躊躇する。


(ええい!何も考えるな!)


 覚悟を決めてナナは自分の口をウィードの口に近づけた。


(これは心通わすためのキスじゃないの!ただの、食事としてのキスだから!)


 そう、これは約束も何も関係ない、意味を持たない、ただのキス。そう言い聞かせてナナは舌を絡ませた。血を吸わせるような感覚で、よくマナを吸収させるために。




「……助かったよ。ありがとう。」


 目覚めたウィードはすまなそうにお礼を述べた。


「君に助けられたのは2度目だな。本当にありがとう。」 

「一体何があったのよ?」


 当然の疑問である。助けたのだから、聞く権利くらいはあるだろう。


「その、何だ。何から説明すればいいか…」


 ウィードは目線を宙に浮かべしばらく言葉を模索していたが、やがて淡々と話し始めた。


「そうだな。私には協力者がいてな。」

「協力者?」

「そうだ。以前、マナが切れないように特殊な魔法薬を用意していると説明したと思うが。」

「あ!あの検疫で引っかかった奴ね?」

「……そうだ。」


 ナナはあの出来事を思い出し、うっかり出てきそうになる笑いをかみ殺した。ウィードは冷静さを装ってはいるがどことなく恥じているようにも見える。


「あれを毎週送ってもらったのだが、3週間前から届かなくてな。」

「ふーん?」

「ただ遅れてるのかもしれない、と、それでぎりぎりまで待っていたのだが。」

「これでこのザマってわけね。」


 まったくもう、とナナは特大級のため息をついた。


「そんなことぐらい、相談すればいいのに。唾液ぐらい、いつでも提供してあげるわよ。」

「……しかし、あの時は拒否されたのだが。」

「ぐっ。」


 思いもよらない反撃にナナはつばを飲み込む。


「あの時はあの時!あれはあんたがデリカシーがなかったからで。」

「では、もっと丁寧にお願いすればよかったのだな。」

「そうじゃなくてぇ。」


 深々と頭を下げるウィードに何て言っていいかわからず、ナナは頭を抱える。


「ああ、そうだ!その協力者とやらはまだ連絡がつかないの?」

「そうだ。」

「ひょっとして、何かに事件に巻き込まれたりしてない?」

「それはないと思う。そんな重大なことがあれば通知だけじゃ済まないだろう。国家を揺るがすことだからな。」

「国家を揺るがす?そんな大げさな。」


 ナナは笑い飛ばそうとしたが、ウィードの目がマジである。やめておいた。と、ふと気になった事がある。


「で、協力者って誰なの?もしかしたら何かわかるかもしれないわ。」


 しかし、自他ともに認めるほど頭がいいとはいえないナナの事、分かるはずがなかった。そう、これはただの興味本位である。


「ああ。セントラルに知り合いがいてね。」

「当然、女の子なのよね。」


 年を取った血液はお腹を壊すとか言ってたから、協力者は若い女性のはず。ナナはかまをかけてみた。


「そうだな。ちょうど12歳くらいの、女の子だ。」

「ちょっと待って!」

「何か気づいた点があったのか?」


 ウィードは何か期待したような目でナナを見た。が、ナナにそんな芸当が出来るわけがない。中断させたのは別の要件だ。


「そんな子に唾液を提供してもらったの!?この変態!」


 ナナが強い言葉で非難したが、ウィードは落ち着いて言葉をかわす。


「なんだ、そんなことか。」

「なんだとは何よ!重大なことなのよ!幼い子に唾液をもらいに行くだなんて、変態すぎよ!」

「そこは安心してくれ。私は唾液の提供は受けてはいない。そもそも血液の代用は唾液に限らない。体液ならば何でも構わないのだよ。」

「体…液…?」


 不穏な言葉がもやもやと引っかかり、ナナの頭にあらゆる可能性が駆け巡る。唾液以外の体液といえば……。ナナは激昂する。


「そうだ。……どうした?」


 只ならぬ様相を感じ取ったウィードは尋ねた。


「何を考えている?」

「それはこっちのセリフよ!た、体液って!こ、この、ロリコンがぁ!」


 ナナがウィードに掴みかかり殴ろうとちょうど馬乗りになった時に、ガチャリ、と、扉が開かれた。


「パパ!やっと見つけた!」

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