06-01
普通の物語なら魔法が解けた時点で「めでたしめでたし」と終わるのだけど、現実は違う。それはまるで地平線の如く時空上で延々と続いているのだ。だから、レドやヨイとの問題もまだ終ったわけではないし、その誤解を解くためには彼女達といち早く接触しなければならなかった。
「ん~…眠い。」
体が重い。「清々しい朝」とは言うけれど、そんなこと言う人は嘘つきだ。
朝練以来の久々の早起きに、慣れない体はついていかない。重い体に鞭を打ち眠い目をこすりながら校舎へ向かう。レドとの誤解は「薬のせいだった」といえばすぐに解けそうだけど、ヨイの場合はそうはいかないだろう。なので、ヨイから初めに決着をつけていきたい。
そんなことを考えながら校内を歩いていると、前方に何やら人影が見える。
「んー?」
校庭に見慣れぬ少女が立っていた。白いワンピースを纏い、ふわふわのハニーブロンドをなびかせ、だたっぴろい校庭のド真ん中に立っているのでやたらと目立つ。
(中等部の子かな?)
それにしては着ている物が違う。その透明感はまるでビードロ人形みたいで、髪をかき上げる様がそこはかとなく上品さを感じさせた。が。
「そこの庶民!」
(は?)
むかむかむか。外見からは想像もできないほどの失礼過ぎる物言いに、怒りが沸き上がったナナは無視して通り過ぎようとした。
「そこのみすぼらしい庶民!貴女の事よ!」
そこまで言われては、さすがに黙っちゃいられない。
「…はぁ。私の事ですか?」
「そうよ!ほかに、誰がいるの!」
怒りを抑えて、抑えて、言葉を絞り出す。
「……何か御用ですか?お嬢様。」
それでお気に召したのか、その少女は機嫌を直した。
「ま、いいわ。野猿に礼儀など期待してないもの。それより、パパ、知らない?」
「はっ?パパぁ?」
ご存じの通り、聖金星学園は女性だらけの全寮制だ。パパ何てのはいっしょに住めるわけがない。それが初等部の子でもだ。
「そ、パパ。」
「……悪いけど、あなたのお父さんなんて知らないわ。」
しかし、彼女は食い下がる。
「いいえ、あなたは知ってるはずよ。だって、この学園で唯一の男だもん。」
そういわれて一人、思い出される男がいた。あいつである。
(まさかね。)
あいつが子持ち何て聞いたことないし、そもそもファミリーネームはないはずだ。
(……ひょっとして隠し子じゃないわよね?)
そんなことを疑いながら、冷静に返答する。
「知らないわ。他当たって頂戴。」
「……本当?」
「本当よ。」
「しらばっくれてる?」
「本当よ。」
「本当に知らないの?」
「だから本当だってば!」
こんなやりとりを数度繰り返す。疑り深く見ていたが諦めたらしく、ため息をついて別の方向に走っていった。
(一体何だったの……)
しかし、これだけでは終わりではなかった。教室に向かう途中で、また変わった感じの子が一人、大きな本を抱えて何かを探していた。
(あら、かわいい。男の子かな?)
白いシャツにチェックのズボン。先ほどの少女より少し幼く見えるが、若干成長が遅い男の子なのだから、ひょっとしたら同級生なのかもしれない。彼はナナを発見すると、息を切らせながらナナの方に向かってきた。
「あ、あ、あの、あ。」
「……大丈夫?」
ナナは心配そうに男の子顔を覗き込む。
「だ、だい、じょうぶ、です。ひ、姫様を、み、かけませんでしたか?」
「姫様?」
確かに、すばしっこいやつは見かけたけど。あれが姫様なのだろうか。
「姫様かどうか知らないけど、見慣れない女の子なら見たわ。」
「ど、どちらで見かけましたか!?」
「あっちよ。ちょうど南の校舎の方に向かったと思うけど。」
「あ、ありがとうございます。」
息継ぎしながらも、その子は丁寧にお辞儀をした。そして息を整えると、再び走り出す。だが、あの女の子を探しているのなら、この分では追いつけそうにもないだろう。
しかし、『パパ』とは一体何だろうか。
(……いやぁな予感がするわ。)
予定変更。ナナはターゲットをヨイからウィードへ切り替えた。ヨイへの謝罪は後回し。ナナはウィードがいる教官室へ向かった。




