05-02
そんなわけで、ナナはウィードを監視する。
授業中や、中休みや昼休み。ヨイたちに追いかけられてる時や、休み時間に質問を受けて指導していたり、教室へ移動中だったり、トイレの時まで……というわけにはさすがにいかなかったが、できる限り見張っていた。
そして、今、ナナは食堂にいる。目的はもちろん、ウィードだ。
食堂は戦士科が食事を取るスペースと、魔術科が取るスペースとで大きく分けることができる。とはいっても、実際に隔離されているわけではない。金星学園には、世界各地の冒険者が持ち寄ったであろう、レシピから考案されたメニューがあった。それは、安くて腹が膨れるリーズナブルな物から、シェフが腕を振るった高級品まで様々で。
つまり、分かれるとは値段の壁で、特に仲が悪いわけではなく、悲しいかな、お財布事情からくる必然的なものだった。
(あれは……ミランダ先生?何を話しているのかしら。)
ちょうどいい席を取れなかったナナは遠くから見守ることになった。
ウィードと相席してるのは、ミランダ先生。眼鏡をかけた、比較的若い魔術科の先生だ。年齢は特に聞いたことないし気にしたこともなかったが、もしかしたら、ああいう地味な感じが狙われやすいのかもしれない。
(ここからじゃよくわからないわね。なんか楽しそう?)
ミランダ先生とウィードに全集中を向けていると。
「なにやってるの?」
「!?…ってなんだ、ミユか。」
振り返ると、ミユがいた。知り合いを複数引き連れている。
「驚いたのはこっちよ。ナナがこちら側に来るって珍しいね。」
どうやら気を取られて、うっかり魔術科側に入っていたらしい。とはいっても、ペナルティなどはないのだが。
「ちょっとね。」
その視線の先に気付いたのか、その内の一人が声を掛けてきた。
「何?あんたまだやってんの?」
「あ、レド。」
見知った顔だった。
「そうね。どうでもいいでしょ。」
初めて会った時から碌な印象がないナナは、あまり関わらないほうがよさそうだとそっけなく返すが、レドはナナの食事に興味を示した。
「ん?あんた、何喰ってるのよ。」
「見りゃわかるでしょ。」
「わかんないわよ。何よ、そのスープに浸ってるパスタ?この浮いてるのは木の根?皮まで入ってるわ!」
「はぁ?文句は食べてから言ってよね。」
悪口ばかり言うので、ナナは問答無用とばかりにレドの口元に太い緬状のものを押し付けると。
「ちょ、やめて!あつ、あつ、あつ、そこ鼻、はな!」
レドは大げさによろけて見せる。
「これはゴボテンウドンよ!」
「……聞いたことないわね。」
ミユが珍しそうにしげしげとどんぶりを眺める。
「ずいぶんと粗末なものを食べてるのねぇ。まるで拷問だわ。」
レドはそう言いながら、似合わない純白のハンカチを取り出して口を拭くと、その態度に、ナナはとうとう切れた。
「何が拷問よ。あんたの発言の方がよほど拷問で傲慢だわ。粗末といったら、あんたのプレゼントの方がよほど粗末で下品だったわよ!」
「粗末?粗末ねぇ。もしかして、あれじゃ満足いただけなかったかしら?」
「な、何が満足よ!」
ナナはまくしたてたが、レドは鼻で笑った。
「あーらー?私は、昨日の出来事を記録するためのペンを渡したつもりよ?そりゃ、形は変だったのかもしれないけど、粗末な物って。ナナちゃんは一体何を想像しちゃったのかなぁ?」、
ナナが怒りと恥ずかしさのあまり何も言えないでいると、今度はレドはナナの耳元で囁いた。
「一体ナナちゃんは何と勘違いしちゃったのかな?」
「うっさいわ!」
その手をはたいたが、レドは止まらない。
「で、硬かったの?」
「黙れっ!」
「やだぁ、筆感の話よぉ?」
けらけらと笑いながらレドは勝ち誇る。
(ほんと食えないやつ!)
ナナが憤慨していると、そんな様子を一部始終を眺めてたミユが言った。
「で、いいの?先生、どこかに行ったみたいだけど。」
見れば、ミユが指差した先にはウィードの姿は何処にもおらず、代わりに生徒たちが談笑していた。
「あー!!!!」
ナナは叫んだ。
「バカバカバカ。あんたが話しかけたから、見失っちゃったでしょうが!」
「あのさぁ、そんなにウィード先生が気になるの?」
「気になるわけないでしょうが!監視よ!」
「監視ねぇ。」
レドはやれやれというように首を揺らしたが、ふと、何か思いついたような表情を浮かべた。
「そうね、今の貴女にぴったりのものがあるわ。先ほどのお詫びにそれをプレゼントしてあげる。」
と、慣れない妙な言葉を使いながら、レドは下衆な笑みを浮かべるのであった。




