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黒魔研

 学園の一画に、誰も近寄らない薄汚い研究室がある。黒魔術研究会。通称、黒魔研。


「ナナちゃんは黒魔法って聞いてどういうイメージを思い浮かべる?」

「えーと、悪い奴が使う魔法?」


 ファイターのナナに魔術の知識があるわけでもない。適当にミユの質問に答える。


「世間のイメージはそうかもしれないわね。でもね、魔術の色識別って善悪で決めてるわけじゃないの。魔法っていうのは一括りにするには種類が多すぎるの。それで色による分類がされたってわけ。自己意識を高める白、物理に効く赤、相手の精神に作用する青、自然に影響する緑、生命に影響する黄色、といったように。それらを全部合わせたのが黒。つまり黒魔法ってなんでも魔法って事よ。」


 なんでも、と聞いてナナはごく自然に出た疑問を口に出した。


「何でもできるなら、もう黒魔法だけでいいんじゃない?」

「そうね。でもそれには魔術のすべてを学ばなければいけない。それは魔法に人生をささげるってこと。私には無理ね。」


 黒魔研の入り口には、年季の入ったローブをかぶった知らない生徒がナナたちを待っていた。


「こんにちわ。あなたがナナさんですか?」

「はい、そうですが。」


 その怪しい姿からは想像できないくらい、愛らしい声のギャップにやや戸惑いながらも、ナナは挨拶を返す。


「紹介するわ。彼女の名前はジジ。黒魔研研究生で、私の同級生、つまりあなたの同級生でもあるの。」

「話は聞いてます。」


 ジジと呼ばれた生徒は、静かに答えた。同級生というが、全く心当たりがない。そういう心を読まれたのか、表情に出てしまっていたのか。


「気にしないで。普段は隠蔽魔法使ってるから。戦士科の人間には存在を悟られていないはずです。」


 とジジは説明してくれた。

 

 魔法ってずるい。そんな便利な魔法があるなら授業で当てられることもないのに、とナナは羨ましがったが、人生の全部をささげないと魔法を学べないんだった、と思い直す。


 ジジの案内により中に入ると、内部は乱雑であるというか、所狭しとあちらこちらに見知らぬ薬品や研究論文と思われる書類が散乱していたり、あるいは、きちんと整頓されている区画もあったりして、それぞれが担当する研究者の性格を思わせた。


 その中でも、ミユは少し奥に入った、突き当りの大きなガラス扉の前に立った。


「本当はここから先は重要機密で入れないのだけど。」


 ちょうど通りかかった、中にいる人物に入室の許可を求めた。名札から彼女の名前はレドと読み取れる。


「ウエトリア先生から許可をもらってます。Lv2まで通っていいかしら?」


 レドは軽くウエトリア先生のサインを確認すると、棚から書類を取り出し、ミユに渡した。


「重要機密?そんなのに踏み込んで大丈夫なの?」


 と心配するナナだったが。


「大丈夫大丈夫、生徒たちが勝手に決めたことだから。ナナちゃん、これに記入して。」


 ミユにその書類を渡された。


「契約書みたいだけど、なんて書いてあるの?」


 別に文字が読めなくないわけではないが、専門用語で羅列されているであろう、魔術文字の長文は読みたくない。ミユに丸投げしてみる。


「要約すると、ここで見たことは決して口外しないこと。もし口外をしてしまった場合、関係者ともども忘却魔法をかけられることに同意する、って書いてあるのよ。」

「そんな便利なもんがあるのなら消してもらいたい記憶があるのだけど。」


 例の事件の、あの忌々しい記憶を消してもらいたい。そう思っていたのだが。


「忘却魔法は頻繁にかけてもらうものじゃないわ。そのうち忘れてはいけない記憶も忘れて馬鹿にになってしまうもの。」

「そんな危険な魔法をなにかけようとしてるの!」

「大丈夫。口外しなければいいだけの話よ。」


「ぐぬぬぅ。」


 言い返せない。最近こんなのばっかりだな、とナナは意気消沈した。どうやらミユもサインしているようなので、としぶしぶ書類に同意する。



「見せたいものというのはこれよ。」


 研究所の奥。

 ガラスで隔てられた部屋に、鎖につながれた銀髪の亜人がいた。以前のショタが美しい銀髪だとしたら、こちらはやや灰色がかった汚れが目立つ。野性味あふれる、その青年は全裸であった。何もかもが、その……丸見えである。


 ちょっとばかり見入ってしまったナナに


「あら、使う?トイレはあちらよ。」


 レドは気を利かせてかペンとティッシュを渡してきたが。


「使わないわい!」


 意味を分かってしまったナナはそれらを床に投げつける。


「そう、ならいいのよ。結構人気者なのよ、彼。」


 そんなナナの様子にも取り乱したようなこともなく、落ち着いてペンを拾いながらレドは言った。


 青年は必死で机にしがみつき、勉強しているようだった。読めそうにもない、汚い文字列を紙に書きなぐり、椅子にもまともに座れず、体を悶え、時折、吠える。


「モンスター名、ワービースト。銀狼亜種。彼の名前は……なんでしたっけ。」

「ジン。私のペット。」


 ミユの質問にジジはそう答える。ナナは叫んだ。


「そんな、亜人をペットだなんて。正気じゃないわ!」


 ナナにも、亜人の友達はいる。ちょうど、ニニの顔を思い出した。ペットだなんて信じられない。


「彼はモンスターよ。モンスターは人じゃないわ。」


 しかし、ミユははっきりと、モンスター、といった。いったいどういう事なんだろうか。


「戦士科のナナちゃんにはまだだったわね。モンスターと亜人の違いについて。」


 ジンから目線を外すと、ミユは優しくナナを諭した。


「例えばウィード先生が人権だ!とか言って手当たり次第にキスを始めたらどうする?」

「ぶっ〇ろす。」


 乙女という設定を忘れてナナははしたない言葉を発する。


「う、うん。そうね。でもナナちゃんが知っている通り、それが吸血鬼の特性だとしても?」

「許されないわ。」


「そう。だから彼は吸血鬼でも、吸血鬼としての権利を主張してはいけないの。それが人でありたい者がずっと大切に守ってきたルール。その道から外れたら、それはもう人間ではないの。モンスターなのよ。それはウィード先生もあの銀狼も、そして私たちも例外じゃないの。」

「だから、亜人達は人間のルールで、人間の振りをしないと駄目。でも、ジンはそれができない。だから、今はまだ、私のペット。」


「……あいつは人間でありたいのかな。」

「さあ?本人に聞いてみれば?」


 ミユははぐらかす。本人に聞けるわけがない。ずいぶんと卑怯な答えだ、とナナは思った。

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