04-05
学校の隅には、生い茂った草木に囲まれた建物があった。それは世間から隠れるように、まるで自らが厄介者だといわんばかりにひっそりと佇んでいて。
黒魔術研究所、通称黒魔研。その名に恥じないほどには怪しさ満点である。
建物の前には、これまた、ずいぶんと年季の入ったローブを被った怪しい人物が立っていた。背は小さく、顔もフードに覆われていてよく見えない。ひょっとしたら中身は人ですらないかもしれないが。
その隠された顔を覗き見しようとして、ナナは屈んでみる。
「……こんにちは。」
そのローブの主に、予想に反して可愛らしい声で挨拶されたので。
「あ、どうも。」
ナナも釣られて声を交わす。
「ねぇねぇ、ミユ。」
「ん?」
「ちょっとフード取ってみていい?」
「……ナナちゃん?」
「ごめんごめん、冗談よ。」
ミユに注意されると、ナナは手を引っ込めた。
(気になるけど……我慢我慢。)
「ジジ、こっちが前話したナナよ。」
「わたしはジジ。……ついてきて。」
「あ、はい。」
マイペースな性格なのか、事務的に行動して研究所に入ろうとするジジの後を慌てて付いていく。
中はいくつかの部屋に分かれていた。外見からもっとジメジメしてるのかと思えばそうでもなく、不思議なことに快適だった。廊下の片隅には部屋には入りきらなかった様々な物があちらこちらに乱雑におかれている。錬金術で使うような大きな窯から、用途の分からない石柱だったり、私物みたいなぬいぐるみだったり。
あの道具の内のいくつかが魔道具か何かで空気を調整しているのだろう。
と、ここでナナはちょっとした違和感を覚えた。窓がないのだ。正確には採光用の小さな窓が上辺に取り付けられているだけであり、それでも足りない分の明るさを得るために魔法の光源を使用していた。
「変わった作りね。研究所というより、そうね、まるで牢獄だわ。」
ナナがそうつぶやくと。
「そう。……ここはもともと牢屋だった。」
「牢屋!?どうしてそんなものが学校にあるのよ!?」
「わからない。聞いただけだから。もしかしたら……悪い子を閉じ込めておくつもりだった……のかもしれない。」
「ひえっ!?」
ナナはぞっとした。
素行のいい方だとはお世辞にも言えないことをナナは自覚している。昔は何回か懲罰室に入れられたこともある。だが懲罰室とは言っても、大抵は名ばかりの何もないだけの単なる部屋であった。
そこに閉じ込められた時は、よく素振りをして時間をつぶしていたものだった。温まった体を冷ますのに窓を開けて外気を取り入れたり、有り余る時間でのんびり外を眺めたりしていた。もし、こんな石畳に囲まれたところに閉じ込められていたとしたら、そんなことすらできやしない。
まして、快適に過ごせるような魔道具なんてないのだから。
そして、ここが牢屋として機能してないことに心から感謝した。
「研究所には向いてるのよ。古い文献は光を嫌うものが多いから。」
ミユがフォローを入れる。
「へぇ。そんなもんなのね。」
こつん、こつん、と足音が響く。前を歩くのはジジ。そうなると、気になるのは目の前をちらつくローブである。魔術師らしいといえばらしいのだが、なんというか、女の子としては相応しくない。それに、これでは学園自慢の制服が台無しである。
「ジジってさ、服とか興味ないの?」
「……そんな時間も金もない。」
「えー、魔術師って貴族なんでしょ?それに、魔法を使えるとアルバイトとかの実入りもいいし。」
生徒は依頼をこなして稼ぐのが一般的であるが、いつでも依頼があるわけではない。アルバイトもまた重要な資金源なのだ。そして魔術師はその不思議な力を使えることもあって人気が高い。
しかし、ミユもジジを首を振って否定した。
「……研究にお金がかかる。魔導書とかペットの餌代とか。」
「アルバイトするにも時間が取れなくて、そんなにできないのよ。」
「ふーん、そんなもんなんだ。」
魔法に疎いナナでも魔導書の価値は知っている。貴重な魔導書は一冊で城が建つ、なんて話もあるくらいだ。しかし。
(ペット?)
研究か何かに関係があるのだろうか、そんなに掛かるものなのだろうかなどと考えてみたが、おサイフ事情はどこでも同じようなものなんだろうなと一人で納得する。
奥まで進んでいくと、突き当りには下へと続く螺旋階段があった。




