04-01
「おはよ~!」
「キャッ……おはよ。」
翌朝。珍しくミユの姿を見つけたナナは彼女の肩を叩くと、ミユは突然の出来事に背筋を反らせて後ろを振り返った。
「ミユ~。今まで何やってたのよ。忙しかった?」
「別に大した用ではないわ、ちょっとしたことよ。」
モゴモゴと何か言いづらそうにミユは答える。
「そういうナナちゃんはどうなの?忙しかった?」
「そうそう、大変だったのよ。」
ナナは、待ってましたとばかりに例のパンツ泥棒事件のことを一部始終話した。
「やっぱあいつ、おかしいわ。」
あいつとは当然、ウィードのことである。ナナはその言葉に憎しみを込める。
「そうかな。そんなことないと思うけど。」
うんうんと肯定してくれると思っていたミユが否定したので、ナナは驚いた。
「ん?ミユは私の味方をしてくれないの?」
「う~ん、そういうわけじゃないけどさ。先生にもいろいろと事情があったのよ。きっと。」
「きっと?あんた、もしかして……」
何か様子がおかしいと訝しんだナナは、間を溜めながらまじまじとミユを見る。
「な、何か?」
「……先生に惚れた?」
がくっ、っとミユは項垂れて、そのまま首を振って否定した。
「そうよね~、ミユの趣味は違うよねぇ」
「そうそう……って馬鹿にしてる?」
「してないって。」
ナナが笑いながら答える。ナナとミユの趣味が違うからこそライバルにもならずに上手くいく。些細な例外はあれど、基本的に共存共栄の関係なのだ。
「でもさ、一カ月くらい何もなかったんでしょ?そろそろ先生を信じてもいいんじゃない?」
「たった一カ月よ!」
ミユの言葉を遮り、ナナは身を抱えて大げさに震えるように見せた。
「わかる?一瞬でも素敵だと思った男性が、実は変態でした、ってさ。このおぞましい感覚。」
「……気持ちはわかるけどさ。」
少し考えこんで、ミユは続ける。
「でもさ、今までだって、ドデカゲルスライムやアブラナブラワームと戦ったことあったでしょ。顔ごと包まれたこともあったじゃない。キスなんてかわいい方でしょ?」
「ギャ―!やめて!」
ナナは頭を掻きむしった。戦士は前衛として常にモンスターに身一つで対処しなければならない。もちろん、ナナにもそういった経験はあるわけで。
「あれはモンスターだから!人じゃないから!ノ・ー・カ・ウ・ン・ト・な・の!」
封印された悪夢が記憶の扉から漏れださないように、ナナは力強く否定する。
「それだったら、吸血鬼だってモンスターのようなものじゃない。だから、さっさと忘れたほうが……」
「……モンスター?」
「わかってくれた?」
「そうよ!モンスターよ!吸血鬼ってモンスターじゃない!どうして、学園なんかにいるのよ。」
考えてみればおかしな話だ。モンスターが、冒険者学校の教師なんかやっているのだから。ナナは興奮して捲し立てた。
「そうじゃなくてね……ナナちゃん。」
ミユは落ち着いて話そうとナナの手を握ってみるが。
「ありがと、ミユ。いいヒントになったわ。あいつ一発ぶん殴ってくる。」
その手をぎゅっと握り返して答えると、ナナは校舎の方へ駆けていく。
「ちょっとまって、ってもう!人の話を聞かないんだから。」
あっという間に遠ざかっていくナナの背中に向かって、ミユはそうつぶやいた。




