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決戦は授業中に

 さて、善は急げである。

 奴を狙うは5時限目、彼の体術の授業とナナは焦点を絞る。魔術科のミユとは別の授業になってしまうが仕方ない。


「今日、イケメン教師が来るんだってナ!ニニ、期待してるゾ!」


 獣人のニニが目を輝かせた。

 事件をよく知らない、よそ様ではそういう評価になっているのね、とナナは呆れた。外面だけはいいんだから。


 しかし、運命とは切り開くものである。

 

 逆光のシルエットから覗かせるニヒルな笑顔。なんて、そんなかっこいい登場シーンはさせやしない。彼が校庭に出た時が勝負。彼の姿が見えた瞬間、間髪入れずに飛び蹴りを浴びせる。完全な不意打ちであったが、躱された。でも、想定通り。相手の強さは見て分かっているから。これは負け惜しみじゃない。


「何事!?」


 暫リ(暫定リーダーの略。緊急時におけるリーダー設定。)のトモが叫ぶがとりあえず無視するとする。今はリーダーの命令を聞かなくてはいけない場面ではない。


「ウィード!勝負よ!私が勝ったらここから出ていって!」

「うむ、そうだな。構わないぞ。」


 ウィードは落ち着いた様子で構え、多少の押し問答を覚悟していたナナは提案をすんなり受け入れられたことに拍子抜けした。


「うん?どうした?ここでは私は新人だからね。ここの生徒は相当わんぱくと聞いている。大方、私の強さを確かめたいんだろう?」

「いえ、そうじゃないです。違います。」


 ナナは手と首を横に振って否定した。


「そうですか、違うんですか。」


 話の食い違い。まったくかみ合わないんだから。


「いいこと?私が勝ったら、ここを出ていってもらうわよ!」


 ウィードは少し考えるような素振りをした後に、


「それは別にかまわないな。君たちのほうが強いのなら、私が教えることはなにもないだろう。」


と、軽く了承した。どうにも食えないやつである。


「誰か審判をやってくれるものはいないか?」


 ウィードは呼び掛けたが、名乗り出るものはいなかったので、ウィードは適当に身近に生徒を指定した。彼女はムギといい、地味ながら大剣を振り回すパワーファイターだ。、


「審判ってどんなことをすればいいんですか?」

「そうだな、開始の合図でもしてくれたらそれだけでいい。綺麗に型が決まったら勝負ありの1本勝負。決着がついたらなんでも好きに叫べばいいさ。型の見方はわかるな?」

「できます。わかりました。」


 勝負の形式も決まり、ムギの審判の元で改めて対峙したときに、ウィードが余計なことを言い出した。


「そうだ、私が勝ったら、ちょっとした事を聞いてもらおう。」

「ちょっと!後で条件をつけるのは卑怯よ!」

「なんだ、君は今から負けるつもりなのか。勝てばいいのではないか?」


 ウィードはさらに肩をすくめて煽る。


「ぐぬぬぅ。」


 悔しい。言い返せない。


「大丈夫だ。そんな変なことを頼むわけではない」


 嘘だ。出会ったときは変なことしたではないか。ええい、勝てばいいのよ勝てば。


 なにも無策で飛び出したわけではない。ナナには勝算があった。ナナはウィードの戦闘を見ている。しかしウィードはナナが何が得意であるかを知らない。戦闘において、知識の有無は有利に働く。勝敗は何も実力だけで決まるものではないからだ。


 彼は接近戦のインファイターだが、ナナにはインファイトの経験はあまりない。相手に詰められたら終わりだろう。だがそれならば間合いを詰められなければいいだけである。リーチの差で一方的に戦えばいい。ナナは木刀を構え、間合いを取る。


「そうだな。私は体術の講師だ。接近戦では不利と読んで、間合いを取り、警戒する。これは正解に近い。」


 ウィードはまるで授業を行っているかのように冷静に褒めた。



 勝負は一瞬であった。


 先に動いたのはウィードである。速い。動きをとらえるだけでも辛い。もう懐に入るような動きを見せた。


 ナナは即座に、間合いを取ろうと牽制の中段を入れようとするが、ウィードはやすやすと、それを搔い潜り、ナナの鳩尾に重い一発を与えた。ナナはうずくまって咽た。型が決まれば勝ちが決まるんだからもっと手加減してくれ、と勝手ながら思う。


「勝負あり!」


 決着を告げるムギの声が響く。


「近いだけで正解ではなかったな。おしかった。」


 ウィードが差し出した手をナナは払う。彼はまたか、というような複雑な表情をした。


「これで私の力は分かっただろう。満足したか?」


負けた。確実に負けた。常在戦場が戦士の心得である。これが実践だったら条件どころか命もなかったのだ。言い訳はできない。そもそも、勝負を挑んだのはナナである。敗者には何もできないのだ。ナナは覚悟を決める。


「そして私の条件だが……」


 ウィードが求めるのは体液であろうか。それとも前のようなキスなのだろうか?それとも……?ええい、何とでもなれ。そう身構えるナナの耳元でウィードは周りに聞こえないようにささやいた。


「私が学園にいる間、吸血鬼であることを黙っていてほしい。」




「ミユち~ん!ぐやしぃぃぃい!」

「よしよし。」


 ナナは泣き叫んで、事の顛末を聞いていたミユに慰められていた。

 たかが1,2戦負けたところで、泣くことではないのかもしれない。しかし、授業での1戦は本気だったのである。当たらずとはいかなくてもかすりぐらいはするはずであった。不意打ちの蹴り、中段の払い。いづれも本気だったが躱された。いくらあの吸血鬼が強いからといっても、これではファイター失格である。


「で、約束通り、吸血鬼であることは黙っているつもりなの?」


 約束は特段、強要されているわけではない。反故にしてもいいくらいだが、それはナナの、ファイターとしてのプライドが許さない。


「そうね。今のところは黙ってるつもり。」

「でも彼はその条件でよかったのかしら。私たちは彼が吸血鬼だと知ってるからあの事件が理解できるけど、わからなかったら彼は変態の汚名を消せないわ。」

「うーん?吸血鬼だという事はあの尋問の時だって言いたがらなかったし。特に言いたくないのかも。」


「そう、それなんだけど。ナナちゃんに見てもらいたいものがあるの。」


 ミユは少し考えた後、普段見たことはない深刻そうな顔でそういった。


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