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03-04

夜空に輝く大きな月。


 第二級星(マナの含有料が主星に比べ劣るという意味)である風星を月が飲み込もうと覆い隠す。陰星(主星に隠れやすい星の意。陰に隠れることによってマナの影響を受けにくくなる。)の位置。こういう星位置の日は、確か、魔力が騒ぎやすい、とミユが言っていた。


 何か一波乱ありそうな、そんな夜。


 前回の反省を生かして、より動きやすく音が出にくい聖金星学園特製のジャージに着替え、その上から硬い革鎧を装着すると、ナナたちは校庭に集合した。今日のメンバーはナナ、ムギ、トモの戦士科3人だ。ニニは、ちょっとこのミッションには向いてない。


「大丈夫?ちゃんと寝てる?」 

「うん、大丈夫。」


ふああ、と大あくびをするムギに声をかけると、ムギは小さくうなずいた。授業中も平気で寝れるナナとは違うムギである、仮眠も中休みぐらしか取っていないのだろう。


(生真面目に授業なんか受けているからそうなるのよ。)


 かく言うナナも、座学や自習ぐらいでしか睡眠は取れてない。今日は座学が多くたまたま睡眠が取れただけで、それもいつまで続けられるのだろうか。睡眠不足も女の敵である。女の敵がこれ以上増えないように、そして、ムギのためにも、一刻も早く犯人を捕まえなければいけないとナナは決意する。




 今回の作戦は、こう。


 前回は雑談しながら見回ってしまったために、犯人は警戒したと推測される。それでは、犯人を捕まえることはできない。それに、見回りは常にゾゾ達、警護隊がやってること。だから、今回はもっと静かに、犯人を捕まえることに集中する。いわゆる、スニークミッション、というやつだ。


 そのために、とムギから手のひらサイズの小さな護符のようなものを渡された。


 「これは、連絡符?呼応法でいいんじゃない?」


 連絡符とは、その名の通り連絡を取り合うための魔法具である。性能において様々な種類があり、今回渡されたものは使い捨ての下級品。術符を破り捨てるとペアリングされた片方が燃えるという、単純な物。そして、呼応法は、ナナが変態に襲われそうになった時に使った叫びの技の事である。状況に応じて数種類のパターンがあり、叫びの波紋に対して数種類のメッセージが込められてるのだが。


「だめだ。呼応法じゃ目立ちすぎる。」


 トモが制止する。


「でもさ、犯人を見つけた後なら、目立っていいんじゃないの?」

「う~ん。そうかもしれないけど、犯人が複数犯や、強敵だったらどうするつもりなの?」

「そっか。そういう可能性もあるのか。」


 もし、外部からやってきたのなら、とナナは考えた。ふつーでは学園には侵入できないと思ったのは自分である。強敵になる可能性は高い。ナナは護符を受けとると、緩衝材の金属板を入れるための鎧のポケット部分にしまった。


「でもよくこんな便利な物くれたわね。いいお値段するんじゃないの?」


 魔道具の値段は、品によってまちまちだ。一般でもよく使われているファイヤスティックのような安いものから、奇跡を起こすといわれる魔道具まで様々である。おそらく付与されている魔術によって値段が違うのだろう。ペアリング技術は難しいものなのか、通信魔法具は見かけることは滅多に見かけることはない。


「期限切れ間近なの。見て?ほら、ここ。」

「あ、ほんとだ。」


 ムギが指摘した部分をよく見ると、護符が包まれていた袋の裏側に半額シールをはがしたような跡がある。予算ぎりぎりで苦労しているのがよくわかる。


「これを犯人を見つけたらこれを破ればいいのね?」

「そういうこと。くれぐれも、それ以外の使用はしないでね。」

「わかってるって。目的外の使用はご法度。そんなことくらい常識だわ。」


 目的外の利用は、混乱の元。間違った情報は計画遂行の邪魔になるし、何よりお金の無駄である。


「じゃ、手分けして探しましょう。何かあったら連絡符で。」

「はい!」


 そう言って3人は3方に分かれた。ムギは学校の西側を中心に、ナナは東側を中心に、トモはそれ以外を。




 ナナは一人、夜の学校を監視する。普段はなにか騒々しい寮も、深夜になると嘘のように静かになる。怖くはないが、点々と設置している魔法の街灯があたりをうっすらと照らしてる情景はそこはかとなく寂しい。

 

 (しかしこの暖かさ、眠くなるわね。)


 ナナは声をあげるわけにもいかず、あくびをかみ殺す。


 (この仕事、思ったより大変かも。)


 何も変化しない風景をただ、ぼーっと眺めてるだけ。張り込みとはそういうものかもしれないが、寝るわけにもいかず、眠気を振り切って、辺りを監視して、また眠くなる。その繰り返し。


 そして、何時間経ったのだろうか。つい、うつらうつらと舟を漕いでいたナナはふと風の変化を感じ、目が覚めた。


(誰か来た?)


 街灯がその人物を照らし、すらっととした長身の影が地面に映し出される。あのシルエットはナナが知る限り、一人しかいない。そう、ウィード、だ。


(ウィード?なぜこんなところに?)


 いや、その理由は分かっている。目的は下着だろう。見回りの線も考えてはみたが、それはゾゾ達護衛兵の仕事だ。先生たちが直接見回りするのは考えにくいし、それならば他の先生にもどこかで出会ってるはずである。


(そんなに校則違反が許されないのならば、この持ち物検査でもすればいいじゃない。)


 しかし、とある事実に、ナナはふと気づく。そもそも、戦士の下着は狙われてないのである。つまりナナたちはウィードの目的に関わらず、初めから眼中にはないことになる。


(そりゃ、訳ありといえども、お貴族様の方がいいかもしれないけどさ。私たち庶民じゃ汚いっていうの!?)


 ナナは心に沸きあがってくる怒りをぐっと抑える。

 

 連絡符を使おうとポケットに手にかけたが、間違えた場合、状況は悪化しかねない。ここは慎重に。ナナは息をひそめてウィードの一挙一動を注視した。

 

 ウィードはしきりに寮の方をうかがっていた。どうやら窓が気になっているようだった。


(窓が開いてる所を探してる?)


 あるいは、窓に干してある下着を確認しているのかもしれない。

 

 さて、窓が開いていたとして。彼は侵入できるのだろうか。ナナは考えた。ナナは、これまで彼の能力を見てきている。彼の運動能力なら2階や3階ぐらいなら容易に飛び移るくらいできる、とナナは判断した。


(間違いない。犯人はウィードだ!)

 

 ナナは護符を取り出し破ろうとした。が、その前に護符は音もたてずに燃えだした。燃えカスが矢印を形成する。おそらくムギのいる方向を示しているのだろう。

 

(どういうこと!?)


 しかも、である。


 「誰だ!?」


 運が悪いことに、その様子をウィードに見つかってしまうのだった。


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