表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/85

ex02

 ウィードは毎朝、ベルが目覚める前に起床する。


 ベルの守護騎士という仕事柄、主から離れることができないウィードであったが、こうして空き時間を作っては、それを鍛錬や見回りに当てていた。幸い他の警備兵たちの見回りや魔物避けの結界のおかげで、魔物らしい魔物に遭遇することは滅多になかった。


「おっ!おはよっ!」


 元冒険者の召使(ワスワラ)が走り込み中のウィードに気付き、大きな声で挨拶をした。


「おはようございます。」

「はは、ナイト君。そんなに警戒しなくていいんだぞ。」


 ワスワラは、まだ緊張で硬くなっているウィードの体をポンと叩く。


「冒険者がメイドをやっているってのが、そんなに不思議かい?」

「いえ。そんなことは。」

 

 否定をしてみたものの、冒険者というものは出生不明であり、信用できず、下劣な人間たちであるという常識をウィードは拭えずにいた。ワスワラの巨体を前に、どうしても硬くなる。


「そんなに緊張しなくてもいいぞ。私は、君が思っているよりかはいい人間だよ。」

「いい人は自分でいい人とは喧伝しませんよ。」

「ははは、それもそうだな。」


 主であるベルとも仲睦まじく、曲がりなりにもマイヤ伯が選んだ使用人でもある。彼女がマイヤ家とどんな関係を築いてきたのかは知る由もないが、彼女が言ってる通り、悪人ではないのは間違いないだろう。だが、その外見から放たれる風格にウィードの警戒心が反応してしまうのだ。


「ま、少し長い付き合いになるのだから、よろしく頼むよ。」


 ワスワラはにっこり笑うと、箒を手に取り、持ち場に戻っていった。


 

 走り込み、素振りに、仮想戦闘。鍛錬も一通り終わり、疲れた体を癒すためウィードが井戸水で汗を拭いていると、背後からベルの声がした。


「おはよう。朝食ができたって。一緒に食べよう。」

「見ていたのですか?」


 ウィードは寝ているはずの主の声に驚き、声をあげる。


「見ていたって、何を?」


 素朴で純粋な返しに、ウィードは狼狽えた。なんて答えればいいのだろうか。元冒険者の召使に気圧されていたところを、と答えるか。それとも、まだ人に見せられるようなものでもない肉体を、と答えるか。いずれの答えも言うのは憚られた。


「そういう意味ではないのですが……すみません。」


 適切な言い訳も思い浮かばず、有耶無耶に答える。


 ウィードの父が、マイヤ伯に仕えていたのもあって、年の近い二人は幼馴染であった。

 ただ、お互い貴族学校に通うようになってからは、男と女ということもあり、少し疎遠になっていた。こうして行動を共にするのも4,5年振りだろう。


「どうして、井戸水なんか。冷たいでしょう。せっかく出来たお風呂、使えばいいのに。」

「それはできません。」

 

 あのような贅沢な物を主を差し置いて使うわけにはいかない。

 乾いた麻布で濡れた髪と体をふき取ると、ウィードは言った。


「もう、昔はもっと仲良かった気がするけど。今のウィードってそっけないよね。」

「あの頃は無邪気過ぎました。恥知らずであった私をお許しください。」

「それでも、よそよそ過ぎるわ。」

「それは、私とお嬢様の、身分の差、です。」

「なによそれ。私たち、同じ学生じゃない。」


 同じ学生。その言葉はウィードに突き刺さった。いい意味で、ではない。

 

 それは、持てる側の発言なのだ。ウィードが同じ言葉をベルに伝えることは決して許されないだろう。その発言が、すでにウィードとベルとの間にある、身分の壁を表していた。


「ね、昔みたいに、仲良く、しよ?」


 ベルの真意は分からない。しかし、その事実はウィードに重くのしかかっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ